【特集 "老い" と "孤独"】人生を歩むことへの疲れ 〜 西洋社会で増加している現象

2023.5.12

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久保多渓心 ( ライター・占術家 )

墨が織り成す一子相伝の占術 “篁霊祥命(こうれいしょうめい)” を主な鑑定手法とする占術家。他にも文筆家やイベント・オーガナイザーとしての顔も持つ。また引きこもり支援相談活動なども行なっている。

モリーは88歳で、元気でした。

彼女は2人の夫、兄弟、友人のほとんど、そして一人息子よりも長生きしています。

「私には、意味のある人間関係が残っていないの」と、彼女は私に言いました。

「みんな死んじゃった。私もこの世を去りたいの...」

まるで秘密を打ち明けるかのように、彼女は少し身を乗り出して、こう続けます。

「私が何者なのか、教えてあげましょうか。私は強いわ。自分にもあなたにも、ここには何も残されていないことを認めることができる。自分の時が来たら出て行く準備はできている。実際、その時はすぐにやってきます」
私はこれまで、研究のために多くの高齢者にインタビューをしてきました。その中で、「もう人生は終わった」としみじみと感じる人がいることに驚かされることがあります。生きていることに疲れているように見えるのです。。

私は、老年医学者、精神科医、社会科学者、心理学者、死の研究者からなる「ヨーロッパにおける高齢者の人生の疲れを理解する研究ネットワーク」のメンバーです。

私たちは、この現象をよりよく理解し、何が特徴なのかを解明したいと考えています。このネットワークは、政治家や医療現場へのアドバイス、介護者や患者さんのサポートにも取り組んでいます。

オランダのケア倫理学教授Els van Wijngaarden氏らは、重い病気ではないものの、人生を終わらせたいという切望を感じている高齢者のグループに耳を傾けました

その結果、「疼くような孤独感」「重要でないことに伴う痛み」「自己表現への葛藤」「実存的な疲労感」「完全に依存した状態になることへの恐れ」などが明らかになりました。

これは、生涯の苦しみの結果である必要はなく、耐えがたい肉体的苦痛に対する反応である必要もありません。人生(生きること)の疲れは、自分では充実した人生を送ってきたと思っている人たちにも生じるようです。

92歳のある男性は、このネットワークの研究者にこう語っています。

自分は何にも影響されない。船は出航し、誰もが仕事を持つようになるが、自分はただ航海しているだけだ。私は彼らにとっての貨物なのです。そんなの簡単じゃない。それは私ではないのです。屈辱という言葉は強すぎるが、その境地に達している。無視され、完全に疎外されていると感じています。
別の男性が言います。
向かいのビルの老婦人の状態を見てみろ。車椅子で無意味に走り回る......もう人間とは関係ない。もう人間とは関係ないんだ。

 

独特の苦しみ

アメリカの小説家 フィリップ・ロスPhilip Roth)は、「老いは戦いではない、老いは虐殺だ」と書きました。長生きすれば、自分らしさ、身体能力、パートナー、友人、キャリアを失うこともあります。

そして、目的意識を取り戻すために必要なツールも、取り戻すことができないのです。

スウェーデンのHelena Larsson教授らは、高齢になると徐々に「明かりが消える」ことについて書いています

人は、外界のスイッチを切る準備が整うまで、着実に人生を手放していくのだといいます。Larssonの研究チームは、このような現象は私たちにも避けられないのではないか、という疑問を投げかけました。

もちろん、このような苦しみは、人生の他の局面で遭遇する苦悩と共通の特徴(憂鬱で辛い)を持っています。しかし、それは同じではありません。

例えば、末期の病気や離婚に伴う実存的(自分の存在意義)な苦しみを考えてみてください。これらの例では、苦しみの一部は、人生の航海がまだ続くという事実と結びついています。しかし、残りの航海は不確かで、もはや想像していたようなものではないと感じるのです。

このような苦しみは、自分が手に入れるべきであったと思う未来を嘆いたり、不確かな未来を恐れたりすることと結びついていることが多いのです。

人生の疲れは、未来への願望や嘆きがなく、ただ旅が終わったという深い感覚を持ちながら、痛々しくいつまでも引きずっていることが特徴的です。

 

グローバルな視点

安楽死や自殺幇助が合法化されている国々では、医師や研究者が、人生の疲れが安楽死の権利を与えるような絶え間ない精神的苦痛の閾値を満たすかどうか議論しています

研究者が議論するほどこの問題が一般的であるということは、現代の生活が西洋社会から高齢者を締め出していることを示唆しているのかもしれません。

年長者は、その豊富な知恵と経験をもってしても、もはや尊敬されなくなったのでしょうか

しかし、それは必然的なことではありません。日本では、年齢を重ねることは、仕事や子育てで忙しくなった後の春や再生のようなものだと考えられています。

ある研究によると、日本の高齢者は中年層と比較して自己成長に関するスコアが高いのに対し、アメリカでは逆の年齢パターンが見られたといいます。

外科医で医学博士のAtul Gawande は、西洋社会では、医学が老いを「長くゆっくりとした衰え」に変えるための理想的な条件を作り出してきたと主張します。

生物学的な生存に資源を集中させるため、生活の質は見過ごされてきたと彼は考えています。これは、歴史上前例のないことです。人生の疲れは、その代償の証拠かもしれません。

 

News Source

Tiredness of life: the growing phenomenon in western society By Sam Carr『THE CONVERSATION』

本記事は『THE CONVERSATION』(5月3日掲載 / 文=Sam Carr)からのご提供を頂き、翻訳の上、お届けしています。

久保多渓心 のプロフィール

久保多渓心

画家の父、歌人の母のもと、福岡市博多区で生まれる。

バンド活動を経て、DJ、オーガナイザーとしてアート系イベント、音楽イベントなどを多数手掛ける傍ら、フリーライターとしても活動。

音楽雑誌でのアーティスト・インタビュー記事、書籍、フリーペーパー、WEBなどの媒体で政治、社会問題から、サブカルチャー、オカルトまで幅広いジャンルでコラムを執筆。

引きこもり、不登校、心の病など自身の経験を活かし「ピアカウンセリング」を主軸にしたコミュニティを立ち上げる。後にひきこもり支援相談士として当事者やその家族のサポート、相談活動にあたる。

現在は亡き父から継承した一子相伝の墨を用いた特殊な占術『篁霊祥命』や、独自のリーディングによって鑑定活動を行っている。2021年で鑑定活動は16年目を迎える。

月参り、寺社への参拝による開運術の指導なども行う。

『AGLA(アグラ)』スーパーバイザーを務める。

2020年10月より活動名をマーク・ケイより、久保多渓心に改名。

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