【人間関係に疲れたあなたへ】登山・ハイキングは脳の仕組みを変え、ストレスや不安を低減させる!

2022.4.21

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久保多渓心 ( ライター・占術家 )

墨が織り成す一子相伝の占術 “篁霊祥命(こうれいしょうめい)” を主な鑑定手法とする占術家。他にも文筆家やイベント・オーガナイザーとしての顔も持つ。また引きこもり支援相談活動なども行なっている。

登山・ハイキングは哲学的行動

私は小学校4年生から中学3年生までを不登校、それ以降は10年近くに渡ってひきこもり、随分と苦しんだ過去があります。そうした経験を活かして、不登校・ひきこもり当事者の子供たちや、ご家族のケアやご相談にあたってきました。

私の趣味が登山などのアウトドア活動であったため、普段は自室に閉じこもりがちの子供たちに自然に触れてもらいたい、汗をかきながら自分の足で山の頂上に到達する達成感や爽快感を味わって欲しい、鳥のさえずりを聞きながら陽の光を浴びて、外で美味しいご飯を食べて欲しいという思いで、不登校やひきこもりの子供たちに低山トレッキングを楽しんでもらうイベントを開催していた時期がありました。

登山や山歩きはスポーツというよりも哲学的行動だと考えています。

私自身、音楽や映画、読書などインドアで楽しむ趣味が多く、スポーツや身体を動かす活動とは縁遠い生活を送っていました。しかし、どこかで登山を趣味としている人の心境や心理に興味を持っていたのです。

「あんな、疲れることを何故やるのだろうか」

「山に登っている人は何故あんなにいつも楽しそうで、笑顔が美しいのか」

そんな疑問を持ち、どこかで自分と対局にいると決めつけていたからこそ、興味や憧れの気持ちもあったのかもしれません。

『荒野へ』の舞台となったアラスカ・デナリ国立公園

作中に登場するマジック・バス

とても悩んでいた時期に、一冊の本に出会いました。

ジャーナリストであり、登山家でもあるジョン・クラカワーの『荒野へ』というノンフィクション作品です。その主人公であるクリス・マッカンドレスの存在が自分と重なりました。

人に期待をし、その期待が削がれると意気消沈してしまいます。そうだとしたら人に期待をするのではなく、眼前に広がる自然に期待をすれば良いし、その自然に果敢に挑もうとする自分自身に期待をすればいいのです。

自分の中に答えがないのならば、人に答えを求めるのではなく、この自分を取り巻く壮大な自然に答えを求めればいいのではないか、そう思えたのです。

それから私は自分を被験者とする実験のように、登山にチャレンジするのです。

 

幸せをもたらしてくれるのは他者。

自分の存在意義を認識させてくれるのも、他者。

 

このように、人は人間関係にばかり多くの期待を寄せてしまいますが、そんなことはありません。貴方が見ようとしていない美しい世界が無数に存在しているはずです。貴方の生活に新しい光を灯すのは、他の誰かではなく自分自身なのです

 

 

登山は人生そのもの

登山や山歩きは、哲学的行動であると言いました。と同時に、それは人生そのものでもあります。

登り始めは呼吸が乱れ、足も痛くなってしまい、そもそも登山をしようとしたことが間違いではないか、ここで引き返そうか、登山になんて意味があるのかとさえ考えてしまうものです。

しかし、それに耐えてしばらくすると、自分の足元しか見なくなります。次第に無心でいることに気付きます。ただ余計なことを考えずに、ひたすら足を前に進ませるという単純な作業に打ち込んでいるんです。いわゆるマインドフルネスな状態です。

そうすると、疲れよりも恍惚感とか、清々しさを感じ始めます。前を向いて、早く山頂に着かないかなとか、早くお弁当が食べたいなとか、登山をすることによって生じる「正」の部分「利」の部分にのみ意識が向かっていては感じられなかった感覚を味わうことになります。

しかし、また山頂間際になると苦しくなって来ます。これまでの疲労が蓄積しているのです。そこを踏ん張って、「少し前に感じた清々しさを忘れるな!」、「頂上を想像するよりも今を楽しもう!」と意識します。

そして、山頂に着きます。すると疲労は吹き飛び、そこに登った意味を実体験として感じられるのです。

下界で悩んでいたことの小ささ、そのことが持つ意味を深く考えられ、自分や自分を取り囲む雑多なものを俯瞰から眺められます。

そして山頂を吹きすさぶ風、さえずる鳥の声、青々とした森、匂い、それが自分の中を一陣の風となって吹き抜けて行く時に、自分を取り囲む全てに対して、愛おしさが込み上げてくるのです。

これこそが人生です。

 

人間関係に過剰な期待をしない

登山をしたり、ハイキングをして自然に触れていると、自分との語らいが出来ます。

自分に語りかけ、自分がそれに答える。

ありのままの自分を認められる様になり、自信が漲って来ます。

自分との十分な語らいがあってこそ、初めて人に対して寛容であることが出来ます。人に優しく利他的な視点を持つことが出来るのです。

先ほども申し上げたように、自分を幸せにするものは、人間関係だけであると思い込んでいると、人は迷路に迷い込みます。幸せは自分の周囲に広がっているのに、その存在に気付こうとしなかっただけなのかもしれません。

自然に踏み込み、山に登って達成感を感じると、また次の山を探して登ってみたくなります。そうした気持ちが日常に与える影響は非常に大きいものです。

登山は身体を使って登る体力勝負のスポーツではありません。登山は心で登る哲学的行動であり、人生そのものといえます。

励ましてあげたい、元気を分け与えてあげたいと思う人に、「一緒に山に登りませんか?」と言うと、その人は大抵尻込みして断る言い訳を考えたりします。

これも人生と重なる部分です。

これは未知の体験や労苦を味わうことに対して躊躇したり、臆病になっている証拠かもしれません。

新たな体験領域に踏み込むことで人は、自分の周囲に築いていた防御壁が壊され、傷ついてしまうのではないかと恐れを感じます。

広大な山や自然に踏み出せたら、きっと人生を変革して行くことが可能なのかもしれません。そうした自分の意志を図るものでもあるのです。

私の当初の疑問。

山に登っている人は何故あんなにいつも楽しそうで、笑顔が美しいのか

それは、自分に自信が持て、人に寛容であれるからだと分かりました。

山や自然に集う人たちは、人間関係だけに過剰な期待をしていないのです。

自分は自然の一部なんだと認識出来ているベースがあり、それによって「今」という時間を愛おしもう、楽しもうとするスタンスが生まれるのです。

 

90分の自然体験が反芻思考を低減させる

登山やハイキングといったアウトドア活動が、心の状態を良化してくれることはよく知られていましたが、最近の研究で「脳」にも大変良い影響を与え得るということが分かって来ています。

いくつかの研究について、ここでご紹介しましょう。

1915年に創刊された米国科学アカデミー発行の機関誌『Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)』に掲載された最近の研究では、自然の中で過ごすことにより否定的な観念が大幅に低減することが分かっています。

研究では、都会の環境を90分、自然環境を90分それぞれ歩いた場合の前頭前皮質の膝下領域(subgenual prefrontal cortex :sgPFC)の神経活動が観察されました。

sgPFCは、反芻思考(過去にあったネガティブな事柄を繰り返し思い出すこと)の際に活性化する脳領域で、精神疾患に影響を与えていることでも知られています。

自然環境を90分歩いた場合、反芻思考のレベルは顕著に低く、sgPFCの神経活動は低下しました。

一方の都会の環境を90分歩いたグループでは、反芻思考の減少は報告されませんでした。

 

 

デジタルデトックスとバックパック旅行

心理学者のRuth・Ann・Atchleyと、David・L・Strayerが行った実験には、56人の成人の男女が参加しました。

参加者は4〜6日のバックパック旅行を行いますが、この間はスマートフォンやタブレットなど一切のデジタル機器の所持や使用を禁止されます。

この結果、デジタルデトックスをしてバックパック旅行に臨んだ参加者の問題解決タスクのパフォーマンスが50%も向上したことが分かりました。

 

ADHDとハイキング

AGLAでも、発達障害のお子さまをお持ちのお母さま、及びご家族のウェルネスに視点を置いた連載『発達の凹凸を理解し、親子で健やかに過ごすために』がスタートしたばかりです。

発達障害の中でも、不注意と多動や衝動性を主な特徴とする概念の一つに「注意欠如・多動症(ADHD)」があります。

イリノイ大学の心理学者、Frances・E・Kuo博士とAndrea・Faber・Taylor博士の研究によると、ADHDの子どもたちを、ハイキングなど自然豊かな環境下に置くことによって、その症状が低減されることが明らかとなっています。

あるフィールド実験では、自然豊かな環境や、都市環境など異なる3つの環境を、20分間ガイド付きで散策しました。

それぞれの歩行ルートは、曜日、時刻、歩行ペース、騒音の度合いなど同等のレベルとなるように選択されています。

一定の注意疲労を確保するために、散策の前に15分間のパズル遊びがタスクとして与えられます。

散策後、それぞれに注意の程度を測定すると、自然環境の豊かなルートを歩いた子供たちが、他の2つのグループと比べて優位に、測定結果が優れていたのです。

 

また、ブリティッシュコロンビア大学の研究では、ハイキングなどの有酸素運動が、70歳以上の女性の海馬(空間記憶やエピソード記憶に関係する大脳側頭葉内側部で側脳室下角底部に位置する皮質部位)の体積を増加させることを発見しています。

同時に、ストレスや不安を軽減し、自尊心を高め、エンドルフィン(多幸感をもたらす神経伝達物質)を放出することが分かりました。

 

心の病を持っていたり、生きづらさを抱える方々は、どうしても昼夜が逆転する生活が続いてしまいます。

昼間はプラスに考えられる物事も、深夜にはマイナスに考えてしまい、その考えに埋没しがちです。この昼夜逆転が脳の神経伝達物質であるセロトニンの分泌を阻害してしまう側面もあります。

登山やハイキングは、このセロトニンを増やすことに役立ちます。

自然豊かな環境に身を置くことでセロトニンの分泌に役立つ太陽光を浴び、また身体を動かすことで、夜しっかり眠れることにも繋がり、昼夜逆転の生活を改善させることが可能です。

また体力を消費することで不規則な食生活も改善出来る余地があります。

 

間もなくGWです。まだまだ、新型コロナウイルスへの感染の心配が残るこの時期。

ハイキング」は、自然に溢れたなだらかな山道をのんびり散策すること。

トレッキング」は、頂上を目指すことがゴールではない山歩き。

登山」は、頂上に登り詰めることが目的。

それぞれの体力や目的に合わせ、喧騒を離れて、自然と戯れる時間を作ってみませんか?

 

参考文献

Nature experience reduces rumination and subgenual prefrontal cortex activation 

『Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)』

Creativity in the Wild: Improving Creative Reasoning through Immersion in Natural Settings 『PLOS ONE』 

A Potential Natural Treatment for Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder: Evidence From a National Study 『National Library Of Medicine』

久保多渓心 のプロフィール

久保多渓心

画家の父、歌人の母のもと、福岡市博多区で生まれる。

バンド活動を経て、DJ、オーガナイザーとしてアート系イベント、音楽イベントなどを多数手掛ける傍ら、フリーライターとしても活動。

音楽雑誌でのアーティスト・インタビュー記事、書籍、フリーペーパー、WEBなどの媒体で政治、社会問題から、サブカルチャー、オカルトまで幅広いジャンルでコラムを執筆。

引きこもり、不登校、心の病など自身の経験を活かし「ピアカウンセリング」を主軸にしたコミュニティを立ち上げる。後にひきこもり支援相談士として当事者やその家族のサポート、相談活動にあたる。

現在は亡き父から継承した一子相伝の墨を用いた特殊な占術『篁霊祥命』や、独自のリーディングによって鑑定活動を行っている。2021年で鑑定活動は16年目を迎える。

月参り、寺社への参拝による開運術の指導なども行う。

『AGLA(アグラ)』スーパーバイザーを務める。

2020年10月より活動名をマーク・ケイより、久保多渓心に改名。

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