ドイツのルール大学ボーフム(Ruhr-Universität Bochum)が、オープンアクセスの科学雑誌『PLOS ONE』に発表したところによると、ストレスフルな状況に置かれる前に、パートナーを抱きしめた女性は、パートナーを抱きしめなかった女性と比べて、コルチゾール(※)反応が低かったことが分かりました。反対に男性では、この効果はみられませんでした。
※コルチゾール:副腎皮質から分泌されるホルモンの一つで、「ストレスホルモン」ともいわれ、心身にストレスを受けると、このコルチゾールの分泌が増えます。
SECPTを用いた実験の流れ

実験には平均年齢22.30歳の男性36人、女性40人の76人が参加しました。
あらゆる性的指向のカップルに対してオープンな研究でしたが、実際に参加したのは恋愛対象が異性である人たちでした。男女の人数に不均衡が生じているのは調査の技術的問題であるとのこと。
実験はコルチゾールに対する概日リズム(※)の影響を制御するため、午後1時から午後6時までの間に行われました。
※概日リズム(サーカディアンリズム):地球の自転周期に関連し、約24時間周期で繰り返される生物学的リズムのこと。「体内時計」ともいう。

実験の手順(※)
実験参加者は、ハグをするグループ(女性21人、男性18人)と、その対照群(女性19人、男性18人)に分けられました。
両グループともに、Socially Evaluative Cold Pressor Test(SECPT)といわれるストレス誘導テストを受けます。このSECPTとは、指を広げた状態で0〜4℃の氷水に最大3分間にわたって手を入れるテストです。
実験に入る前に、インフォームドコンセントに関する書面に目を通し、統計アンケート、PANAS(※)アンケートなどの記入を併せて行いました。
※PANAS:ポジティブ、ネガティブそれぞれの項目からなる簡易的な情動尺度
さらに、実験前後でのコルチゾールの分泌量の差を確認するために、唾液サンプルの採取を行います。
ハグをするグループは、一連のベースライン測定が終了すると退室をして、別な部屋で20秒間、パートナーとハグをします。ハグをしないグループは退室をして、そのまま待機します。
20秒のハグのあと、再び部屋を移動してSECPTが行われます。
SECPT開始から、1分経過後に血圧の測定が行われます。
SECPTの終了後、再び唾液サンプルの採取が行われ、SECPTに関するストレスアンケート、PANASアンケートへの記入します。
参加者は、SECPTがどれだけ苦痛だったかを、0から100の尺度で評価します。
唾液サンプル採取、血圧測定、各種アンケートへの記入は、SECPT終了15分後、25分後の2回行われました。
ハグでコルチゾール反応が低下する!

コルチゾール値の推移(※)
この実験で得られた統計解析の結果、パートナーを抱きしめた女性は、パートナーを抱きしめていない女性よりもコルチゾール反応が低く、男性ではハグとコルチゾール反応との間には相関が見られませんでした。
試験、面接、プレゼンテーションや、そのほか緊張を強いられるストレスフルな環境に飛び込んで行く前に、パートナーとの愛あるハグはコルチゾール値を低下させ、急性のストレス反応を防いでくれる余地があります。
抱きしめる対象が、友人や子ども、親、ペットなどに変わった場合にも、同様の結果が現れるのでしょうか。実験の進展に期待したいと思います。
触覚の可能性

母親の胎内で最初に働き始める機能は、「触覚」であるといわれています。受胎後、7.5週から18週の間に発達します。
私たちがこの世に生を受けた瞬間から、母親の心臓の鼓動や、両親の言葉を振動として捉え、その振動を抱擁に変えて、日々成長していくのです。
愛する対象との「触覚」を通じたコミュニケーションは、人を原初の自分に立ち返らせ、癒してくれるものです。
ハグには、セロトニンやエンドルフィンの他、ストレスを軽減させる「愛情ホルモン」オキシトシンを放出させる効果もあります。
新型コロナウイルスの世界的パンデミックでは、人との接触がはばかれる状態が長く続きましたが、風邪のウイルスにさらされた400人強の成人を対象に、ハグの頻度を調査したところ、「ハグをする人」ほど風邪をひきにくいことが分かっています。また、風邪になっても症状は軽度でした。
Four Ways Hugs Are Good for Your Health『Greater Good Magazine』(※)
Does hugging provide stress-buffering social support? A study of susceptibility to upper respiratory infection and illness『National Library of Medicine』(※)
ハグ、そして人との触れ合いがもつ、大いなる可能性を感じさせます。
【
まとめ】
- ストレスにさらされる前に、パートナーとハグをした女性は、ハグをしていない女性よりもコルチジール反応が低い。
- 男性では、ハグとコルチゾール反応との間には相関がみられなかった。
- 日常、ハグをする人ほど風邪をひきにくく、風邪になっても症状は軽度。
参考文献
Romantic partner embraces reduce cortisol release after acute stress induction in women but not in men『PLOS ONE』(※)
久保多渓心
のプロフィール
画家の父、歌人の母のもと、福岡市博多区で生まれる。
バンド活動を経て、DJ、オーガナイザーとしてアート系イベント、音楽イベントなどを多数手掛ける傍ら、フリーライターとしても活動。
音楽雑誌でのアーティスト・インタビュー記事、書籍、フリーペーパー、WEBなどの媒体で政治、社会問題から、サブカルチャー、オカルトまで幅広いジャンルでコラムを執筆。
引きこもり、不登校、心の病など自身の経験を活かし「ピアカウンセリング」を主軸にしたコミュニティを立ち上げる。後にひきこもり支援相談士として当事者やその家族のサポート、相談活動にあたる。
現在は亡き父から継承した一子相伝の墨を用いた特殊な占術『篁霊祥命』や、独自のリーディングによって鑑定活動を行っている。2021年で鑑定活動は16年目を迎える。
月参り、寺社への参拝による開運術の指導なども行う。
『AGLA(アグラ)』スーパーバイザーを務める。
2020年10月より活動名をマーク・ケイより、久保多渓心に改名。