先日、ショウジョウバエを用いた研究で、眼の健康が寿命に影響を与え得ることが分かったというニュースをお伝えしました。
今回は、眼で発達障害の診断が可能になるかもしれないというニュースです。
【米研究】目の健康が寿命に影響を与えることが判明!〜 概日リズムの活性化が老化予防につながる
眼で発達障害の診断が可能になる!?
オーストラリアのフリンダース大学(Flinders University)と、南オーストラリア大学(The University of South Australia:UniSA)の研究によると、光刺激を感じた際に網膜から発せられる電位の変化を記録する網膜電図(Electroretinography:ERG)による測定が、注意欠陥多動性障害 (ADHD) と自閉症スペクトラム障害 (ASD) のバイオマーカー(※1)になる可能性があることを報告しています。
(※1)バイオマーカー:ある疾患の有無や、進行状態、治療の有効性や副作用の反応をみる生物学的指標のこと。
この研究では、ADHDの小児の方がERGエネルギーが高いのに対し、ASDの小児はERGエネルギーが低いことが発見されました。
フリンダース大学の検眼医Dr.Paul Constableは、将来的にADHDやASDの診断と治療を改善する有望な結果を示していると述べています。
と、Constable博士は言います。
発達障害とは何か

「発達障害」とは、生まれつきにみられる脳機能の障害です。幼児期の発現し、行動や情緒に特徴がみられます。
「発達障害」という用語は、アスペルガー症候群(アスペルガー障害)を中心とする、自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:ASD)、注意欠陥・多動性障害( attention deficit hyperactivity disorder:ADHD)などを漠然と指す総称であり、個別の疾患ではありません。
精神科の診断基準の元となる『精神障害の診断と統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, DSM)』。
2013年に第5版(日本では2014年に日本語訳が出版)が発表されていますが、このDSM-5ではアスペルガー症候群(アスペルガー障害)という用語は使用されなくなり、ASDの一つの型であるとされています。
ASD、ADHDのそれぞれの症状は以下のようなものです。
ASDの主要な症状は「コミュニケーション、対人関係の持続的な欠陥」と「限定された反復的な行動、興味、活動」である。対人関係の障害がみられるとともに、強いこだわりの症状を示す一群である。
ADHDは、「多動・衝動性」と「不注意」を主な症状とする疾患である。落ち着きのなさと、注意・集中力の障害がよくみられる。
『発達障害』岩波明(著)文春文庫 第1章24P
ここ数年、教育現場など子どもに関わるお仕事をされている方々から「発達に問題を抱えている子供たちが増えている」という声が上がっているそうです。
平成24年に文部科学省が教職員を対象に実施した調査では、通常学級に通う生徒のうち、発達障害の可能性のある児童は、6.5%という結果が出ています。クラスに1人から2人いるといった実情でしょうか。
また、2020年の『学校基本調査』では、自閉症・情緒障害(一部の発達障害を含む)で特別支援学級に入る生徒の数は、2010年から2.7倍も増え、14万人を超えています。
ASDの罹患率は68人に1人(1.46%)、日本の人口に換算すると180万人以上、世界の人口では1億人以上とも報告され、ADHDは人口の5〜10%に及ぶといいます。
カサンドラ症候群

私自身、家族の1人がASDの特性を強く持っている環境にあります。
ASDは、社会的コミュニケーションに障害があるため、他者の気持ちを理解することができず、頻繁に舌禍を起こしてしまいます。
そのため、その場の空気を読めずに、頭の中にフッと思い浮かんだ辛辣な言葉を躊躇なく発言してしまうので、トラブルとなってしまうのです。
私は、こうした辛辣な言葉に当初ショックを受け、混乱しました。次第に体調を崩し、精神的にも追い詰められていきます。
その状態が「カサンドラ症候群(Cassandra affective disorder)」といわれるものだと、あとから気づきます。
カサンドラ症候群とは、ASDの特性をもつ家族と情緒的な相互関係が築けないために生じる身体的・精神的症状のことを指します。
一般的には、この「家族」の部分を、「同僚」や「上司」「部下」に置き換えることも可能です。範囲を広げてみると、思い当たるところがあると感じられる方も多いのではないでしょうか。
カサンドラ症候群について、また私自身の経験については、別の機会にご紹介できればと思っています。
このように、ASDやADHDは、当事者だけではなく、その周囲にいる家族や職場の同僚などにも広がる社会的、人的にも複雑な構図をもった問題でもあるのです。
診断が困難なASD・ADHD

ASD・ADHDという病気は、非常に診断が困難であることが知られており、過剰診断や誤診も多いようです。
今回の研究は、ASD・ADHDを網膜電図による測定で、診断が可能になる余地が出てきたということを示しています。
ASD・ADHDを正しく診断、発見することは、早期に適切なケアやサポートにつなげられることになります。
このことは当事者や、そのご家族の心と体を平穏に導くための吉報となるかもしれません。
南オーストラリア大学の共同研究者であるDr Fernando Marmolejo-Ramosは、この研究が他の神経疾患にも拡大する可能性があることを示唆しています。
発達障害に関わる特異的な網膜信号の異常を確立するためには、さらなる研究が必要ですが、眼(網膜)が神経疾患の診断や治療に役立つことが分かっただけでも、大きな一歩といえるでしょう。
【AGLA発達障害コラム『発達の凹凸を理解し、親子で健やかに過ごすために』】
(文=久保多渓心)
参考文献
Discrete Wavelet Transform Analysis of the Electroretinogram in Autism Spectrum Disorder and Attention Deficit Hyperactivity Disorder『frontiers in Neuroscience』
『発達障害』岩波明(著)文藝春秋
『発達障害と人間関係』宮尾益知(著)講談社
『発達障害の理解 ~ メンタルヘルスに配慮すべき人への支援 ~』厚生労働省