【米研究】国民の慢性疼痛が経済損失をもたらす!〜 CBDの有効性を活かした新しい鎮痛薬の開発が進む

2022.7.29

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AGLA編集部

心と体を調える 女性のための新感覚スピリチュアルメディア。

AGLAでも、廣瀬さやかさんによる解説でお届けしている「CBDコラム」。

今回は、ハーバード大学メディカルスクール・ブラバトニック研究所、ボストン小児病院が共同で行った最新の「CBD」に関する研究をお届けします。

 

痛みはQOLの低下のみならず、経済損失をもたらす!

以前、瞑想が疼痛(痛み)の緩和に効果があることが確認されたという内容のコラムをお届けしましたが、今回は「CBD」と「疼痛」の関係についての研究です。

「痛み」とは、そもそも何なのかということに関しては、以下のコラムをご参照下さい。

マインドフルネス瞑想は疼痛(とうつう)の緩和に効果がある?〜 痛みの仕組みと種類 〜

 

「米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)」の推計によると、米国の成人の約20.4%(5000万人)が、3〜6ヶ月続く慢性疼痛に苦しんでいます。

少々古いデータですが、2010年の日本での統計では、成人の慢性疼痛保有率は約22.5%(日本成人4.4人に1人、約2315万人)と推計され、その7割が適切に緩和されないままだという結果が出ています(「痛み」に関する大規模調査・Pain in Japan2010実施)。

「厚生労働行政推進調査事業費補助金(慢性の痛み政策研究事業)」監修の『慢性疼痛診療ガイドライン』によると、慢性疼痛とは・・・

典型的には3ヵ月以上持続する、または通常の治癒期間を超えて持続する痛みである
と、定義されています。
痛みを治療せずに放置したり、また病後の痛みが何ヵ月にも渡り継続すると、メンタルヘルスの悪化に繋がり、当事者のQOL(生活の質:Quality of Life)の低下をもたらし、その痛みと相まって深刻かつ広範な健康問題へ至ります。
慢性疼痛における損失は1週間平均で4.6時間に及び、時間ベースの経済損失は1兆9530億円にのぼるという報告がなされています。米国でも最大で6350億ドルの経済損失であることが示唆されているのです。
企業に従事する従業員がいかに健康であるかは、企業価値に直結します。
企業が従業員の健康保持・増進に熱心に取り組めば、従業員の士気は上がり、生産性も向上します。それらが企業の業績や株価の向上にも波及するわけです。
もはや「痛み」は、個人の健康問題を超えて、社会問題、経済問題でもあるのです。


オピオイド問題

ハーバード大学メディカルスクール・ブラバトニック研究所のBruce Bean氏と、ボストン小児病院のClifford Woolf氏は、以前からより良い鎮痛剤の開発に関心を持っていました。

アメリカでは麻薬性鎮痛薬のオピオイドの過剰摂取が、社会問題化しています。

CDCによると、1999年以降、932,000人以上が薬物の過剰摂取で死亡しており、2021年には過剰摂取による死亡の75.1%にオピオイドが関与し、80,816人が死亡したと推定しています。

2017年の「全米安全評議会(National Safety Council:NSC)」よる統計では、心臓病、ガン、慢性下気道疾患、自殺に次いで米国民の死因の5位にオピオイドによる中毒死が挙げられています何と交通事故死よりも上位であるという結果が出ているのです。

オピオイドは、ケシの実から生成される麻薬性鎮痛薬、及びそこから合成された化合物です。

米国だけではなく、日本でも中度から重度の痛みに対する鎮痛薬として使用が認められています。慢性疼痛はもとより、術中・術後の痛み、末期のガンでの痛みに対して用いられます。

激しい痛みの緩和に効果を発揮するオピオイドですが、吐き気や呼吸抑制、眠気、めまい、意識レベルの低下といった副作用を呈します。また、せん妄や多幸感が生じる場合もあります。

多量摂取は、常習性を生じさせ、そこから死に繋がる場合もあるのです。

問題の多いオピオイドですが、新しい疼痛治療薬の開発は遅々として進んでおらず、その主な理由は、神経系の他の部分を温存しながら、疼痛経路のみを正確に標的としなければならないからだといわれています。

 

Bean氏とWoolf氏の研究

Beanは、脳内の電気信号のメカニズムに関する基礎研究を行っています。

具体的には、イオンの流れを制御するために開閉するニューロンの膜にある小さなチャネルを研究しています。このチャネルがニューロンの発火と電気的メッセージの伝達を決定するのです。

ニューロン(neuron)に関しては「明晰夢」のコラムで詳しく説明していますが、簡単にいえば「情報処理と情報伝達に特化した電気信号を発する神経系を構成する細胞」のことです。

一方、Woolf氏の主な仕事は、痛みや神経変性疾患(※)を治療する新薬の発見です。

神経変性疾患:脳や脊髄にある神経細胞のなかで、ある特定の神経細胞群(例えば認知機能に関係する神経細胞や運動機能に関係する細胞)が徐々に障害を受け脱落してしまう病気。

パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病など。

順天堂大学 医学部附属順天堂医院 脳神経内科HPより(

彼の専門は、ヒトのニューロンを対象とした大規模なスクリーニングを実施し、新たな創薬ターゲットや疾患の経過を変化させる化合物を特定することです。

特に、炎症と痛みを媒介する膜受容体(※)とイオンチャンネル(※)に焦点を当てた研究を行っています。

膜受容体:細胞膜上に存在し、ホルモンや神経伝達物質(細胞外シグナル分子)と結合して、細胞の内側に向けて新しい情報を送り込むタンパク質。
https://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?細胞膜受容体

イオンチャンネル:細胞の生体膜(細胞膜や内膜など)にある膜貫通タンパク質の一種で、受動的にイオンを透過させるタンパク質の総称。
https://ja.wikipedia.org/wiki/イオンチャネル

研究の過程でBeanは、CBDがマウスやラットの痛みによる関連行動を減少させることを示唆する実験や、CBDが人間の痛み止めとして作用するという報告に興味をそそられました。

「CBDの痛みに対する優れた臨床研究はありませんが、多くの人が痛みを和らげると言っています。私たちはCBDが痛みにどう作用しているかを知るために、ニューロンの電気的活動を直接調べることから始めました」 

と、Bean氏は話します。

 

「ナトリウムチャンネル」と「カリウムチャンネル」

Bean氏らはマウスモデルを使って、CBDが侵害受容器の膜にある2種類のナトリウムチャネル(※)を阻害することを発見した。侵害受容器は痛みを感知して伝達する特殊なニューロンです。

ナトリウムチャネル:イオンチャネルを形成する膜タンパク質で、ナトリウムイオン(Na+)の細胞膜の透過を担う。
https://ja.wikipedia.org/wiki/ナトリウムチャネル

この抑制作用により、ナトリウムが侵害受容器の中に入り込むのを防ぐことができます。侵害受容器はニューロンを不活性状態に保ち、電気信号を介した 「痛み」 の伝達や発火を防ぐのです。

Woolf氏の研究室では、数千種類の生理活性化合物(※)についてスクリーニングを実施し、その中のどれかが侵害受容体の膜にある特定のカリウムチャネル(※)と相互作用し、痛みのシグナル伝達の抑制に関与しているかどうかを調べました。

その結果、予想外にもCBDが特定されたのです。

生理活性化合物:生体の生命活動や生理機能の維持および調節にかかわる化学物質の総称。

※カリウムチャネル:細胞膜に存在するイオンチャネルの一種である。ほとんどの細胞に存在し、カリウムイオンを選択的に通過させる。それによって細胞の機能を維持している。
https://ja.wikipedia.org/wiki/カリウムチャネル

Woolf氏とBean氏は、CBDがカリウムチャネルを活性化し、カリウムイオンが侵害受容器の中を流れることを発見しました。

このカリウムの流入はニューロンの発火活動を低下させ、痛みのシグナル伝達を遮断します。実際、肝毒性(※)のため使用が制限されている鎮痛剤のフルピルチンも同じメカニズムで作用します。

肝毒性:化学物質が肝障害を発症させる性質。

「CBDは、痛みを感じるニューロンの2つの異なるターゲット(ナトリウムチャンネルとカリウムチャンネル)に作用することから、非常に興味深いものであることがわかりました」 とBean氏。

ナトリウムチャネルとカリウムチャネルは連携して侵害受容器の活動を調節するが、両方を標的とする治療法は、これまでに発見されていません。

 

CBDから、新薬の創造へ

CBDは鎮痛薬としていくつかの利点があります。その最も重要なことは、中毒性がないこと、副作用もないことです。

実際、「アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)」は既に、重症の薬剤耐性てんかん(※)の小児への使用を承認しているほどです。

薬剤耐性てんかん:抗てんかん薬による2年以上の治療でも、発作が1年以上抑制されず日常生活に支障をきたす状態。

CBDがさまざまな臓器系にどのように影響するか、また他の薬とどのように相互作用するかなど、CBDの安全性に関する理解にはまだギャップがあります。

「CBDは、痛みを感知するニューロンの活動をブロックするのに非常に効果的ですが、最終的に体内の神経細胞に到達する濃度は不明であり、経口投与ではおそらく濃度は非常に低いでしょう」とBean氏は付け加えます。

つまり、CBD自体が痛み止めとして有用となる可能性は低いようです。

Bean氏らは、CBDで発見した特性と活性を保持しながら、より効果的な薬である新しい化合物を作り出すことを目指しています。

また、どんな新しい化合物も、THCと結合して大麻に精神活性作用を与える受容体であるCB1には作用しないことが不可欠だと彼は述べています。

重要なのは、CBDをベースにした医薬品は、安全性と有効性の両方を確保するために、FDAによる厳密な試験と承認を受ける必要があります。

このように、CBDには人体に対して非常に高い有効性があることが分かっている反面、依然として研究が進んでいない側面もあります。

Bean氏らの研究チームは、CBDの有益性、有効性をさらに発展させた化合物を作り出すことに、精力を傾けているようです。

米国では、交通事故死よりも多い、オピオイドによる中毒死。日本でも慢性疼痛に苦しむ人は4人に1人という厳しい現実があります。

これらの現実を乗り越えるためにも、新しい安全な薬剤の誕生が待たれます。

 

まとめ

  • 米国の成人の約20.4%(5000万人)が、3〜6ヶ月続く慢性疼痛に苦しんでいる。
  • 日本の成人の慢性疼痛保有率は約22.5%(2315万人)。その七割が痛みが適切に緩和されていない。
  • 全米安全評議会が2017年に行った統計では、米国民の死因第5位はオピオイドによる中毒死。これは交通事故死よりも多い(1日平均130人以上が中毒で死亡)。
  • CBDが侵害受容器(痛みを感知して伝達する特殊なニューロン)の膜にある、ナトリウムチャネル、カリウムチャネルに作用し、痛みのシグナル伝達を阻害することを発見。
  • CBD自体が鎮痛薬として有用であるとは考えられていない。
  • CBDの有効性を元にした、全く新しい薬剤の開発が行われている。

 

(文=久保多渓心)

 

News Source

Cannabidiol activates neuronal Kv7 channels by Han-Xiong Bear Zhang et al. 『eLife』

Building a Better Painkiller『NeuroScience News.com』

Facing an Everyday Killer『NSC』

Chronic Pain in the Japanese Community--Prevalence, Characteristics and Impact on Quality of Life『PLoS One』

AGLA編集部 のプロフィール

心と体を調える 女性のための新感覚スピリチュアルメディア編集部。

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