2022.9.14
【豪研究】乳児期の抗生物質の投与が、成人期の腸の健康に多大な影響を与える!

早産児(在胎期間37週未満)や、低出生体重児(2500g未満)では、体の様々な機能が未熟であり、免疫力が極端に弱いこともあって、重度の感染症や合併症のリスクが高くなります。
こうしたことから、それぞれの治療とともに、予防のために抗生物質が定期的に投与されます。
『Journal of Physiology』誌に発表された新しい研究によると、新生児のマウスに抗生物質を投与すると、微生物叢(マイクロバイオーム)や腸の神経系、機能に長期的な影響が及ぶことが分かりました。
子どもと抗生物質
ここ数年、子どもに対する抗生物質の投与の深刻な影響に関する報道や研究が相次いでいます。
例えば、以下の研究では100万人を超える臨床データの追跡により、小児期において抗生物質の投与を受けた子どもは、17歳までに精神疾患となるリスクが高くなることが分かったという報告があります。
インペリアル・カレッジ・ロンドンで生物学の学士号と修士号を取得したジャーナリストのアランナ・コリンによる著作『あなたの体は9割が細菌: 微生物の生態系が崩れはじめた』には、自閉症発症の原因として、乳幼児期の抗生物質の使用があることが書かれています。
また、バージニア大学による研究では、子ども自身の腸内環境だけでなく、母親の腸内環境が生まれて来る子どもの自閉症リスクを決める、という報告もあります。
欧米では、抗生物質の危険性が叫ばれていますが、日本では子どもに対して風邪薬としての処方などで抗生物質が乱用されている実態があります。
安易な抗生物質の服用、使用が、将来的な健康リスクを高める結果となり得ますので、注意が必要です。
乳児期の抗生物質投与が成人期の腸内環境に影響を与える
オーストラリア・メルボルン大学の解剖生理学部門の研究チームによる今回の発見は、新生児のマウスに投与された抗生物質が、成人期の腸管運動や胃腸機能に持続的な影響や障害を引き起こす可能性を初めて示したものです。
研究チームはマウスに生後10日の間、グリコペプチド系抗生物質のバンコマイシン(Vancomycin、VCM)を毎日経口投与しました。
その後、マウスは若年成人期になるまで育てられたあと、腸組織を調べてその構造、機能、微生物叢、神経系を測定し、抗生物質の長期的影響を調べました。
研究者らは、その影響がマウスの性別にも及ぶことを発見しました。
雌は全腸通過時間が有意に長く、雄は対照群より低い糞便重量を示しました(糞便の全腸通過時間が長いと硬便化し、便秘になってしまいます)。
雌雄とも糞便水分含量が多い(下痢)という結果(水分および電解質分泌の増加が示唆される)が出ています。
マウスは人間と似ている点が多いですが、人間に比べて内臓が未熟で、寿命が短く成長が早いという特徴があります。
腸内細菌叢と神経系はヒトほど複雑ではないため、この知見をヒトの小児や乳児に直接関連付けることはできません。
研究者らは、抗生物質が腸に及ぼす仕組みと、性別に特異的に影響を示す作用の原因について、また、若年期での抗生物質の使用が代謝と脳機能にどのように影響を及ぼすかについて、さらに研究を進めていく予定です。
と、筆頭生理学者のJaime Foong博士は言います。
糞便移植
「脳腸相関」や「腸活」という言葉が注目を集めており、腸内環境の改善に意識的に取り組む風潮が生まれて来ました。
腸内環境を改善する方法が世間には数多溢れています。しかし、一度壊れた腸内環境を完全に元に戻すことは困難です。
そんな中、腸内環境改善に有効な手段の一つとして、世界的な注目を集めているのが「糞便移植」です。
「糞便移植」は、正式名称を「腸内細菌叢移植(Fecal Microbiota Transplantation: FMT)」といい、その名の通り、健康な人の糞便に含まれている腸内細菌を移植する方法で、オーストラリアでは80年代から行われており、アメリカでもようやく本格的な試験が始まっています。
主に、先日もご紹介した「クローン病」や「潰瘍性大腸炎」の治療に使われている方法です。
「子どもと抗生物質」の章でもお伝えした通り、欧米では自閉症の原因は乳幼児期の抗生物質の投与などによる、腸内環境の悪化が原因の一つではないかとみられており、自閉症と診断された子どもたちへ、「マイクロバイオータ・トランスファー・セラピー (Microbiota Transfer Therapy / MTT)」という特別な、糞便移植を行う試みも行われています。
Autism symptoms reduced nearly 50 percent two years after fecal transplant(糞便移植の2年後には自閉症の症状がほぼ50%減少した)『Medical Xpress』
この試みでは、治療後2年後に症状の45%が軽減するという画期的な結果も出ています。
今回、ご紹介した研究は、子どもの将来的な健康を守ってあげるためにも、抗生物質の投与には慎重であるべきであるという教訓を示しているかのようです。
(文=久保多渓心)
News Source
Neonatal antibiotics have long term sex-dependent effects on the enteric nervous system『Journal of Physiology』
Antibiotics Given in Infancy May Have Adverse Impact on Adult Gut Health『NeuroScience News.com』
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