2022.9.17
下痢止め薬「ロペラミド」が、自閉症スペクトラム障害の治療に効果を発揮する!?

「ロペラミド(Loperamide)」は、 止瀉薬(ししゃくやく)、いわゆる下痢止めとして知られる薬で、日本でも一般的です。
この、ロペラミドが「自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:ASD)」の中核症状の治療に役立つ可能性があることが分かりました。
自閉症スペクトラム障害に関しては以下のコラムをご参照下さい。
【豪研究】 網膜電図による測定でADHDとASDの診断が可能に!?
ASDの社会的コミュニケーション障害
ノルウェーの「オスロ大学(University of Oslo)」と、デンマークの「オーフス大学(Aarhus University)」による共同の研究が、スイスの薬理学専門のオープンアクセス学術誌『Frontiers in Pharmacology』に掲載されました。
研究者たちは、自閉症スペクトラム障害(以下ASD)に関与するタンパク質と、それらが相互作用する方法を含むコンピューターモデルを使用しました。
様々な薬がシステム内のタンパク質にどのように影響するかを調べることで、研究者たちはそれを治療する潜在的な候補を特定することを試みました。
ロペラミドと呼ばれる一般的に使用される下痢止め薬が最も有望な候補であり、研究者たちはASDの症状の治療にどのように作用するかについて興味深い仮説を立てています。
ASDで最も一般的な症状の社会的コミュニケーションの障害(視線が合いにくい、視線をそらすなど他者の表情や気持ちが理解しにくいといった症状)を伴います。
以下にASDの典型的な社会的コミュニケーションの障害を挙げます。
- 他人との波長が合わず、KYと呼ばれて浮いた存在になる。
- いじめに遭ってしまう。
- 友人関係を作ろうとせず単独行動を好む。
- 相手の立場になって考えるのが苦手。
- ルールを守って遊んだり、集団で遊んだりすることがうまくできない。
- 他人の存在を忘れてしまい、話しかけても聞こえていない(聞いていない)。
『発達障害と人間関係・カサンドラ症候群にならないために』宮尾益知(著)講談社現代新書より引用
しかし、ほとんどの成人と小児および青年の約半数は抗精神病薬による治療を受けていますが、抗精神病薬には重篤な副作用があるか、ASDでは効果がありません。
と、研究論文の筆頭著者であるオスロ大学のElise Koch 博士は言います。
下痢止め薬が、ASD治療の特効薬に?

Yikrazuul, Public domain
ASDの新たな治療法を見つけるために、研究者たちは薬剤の転用に目を向けました。
既存薬の安全性や副作用、体内で相互作用する生体分子などについて、多くの知見が得られているため、このアプローチには多くの利点があるのです。
ASDの新しい治療法を特定するために、研究者らはコンピュータベースの「タンパク質相互作用ネットワーク(※)」を用いました。
研究チームは、既存の薬とネットワーク内のタンパク質との相互作用を調べることで、ASDの根底にある生物学的プロセスに対抗するいくつかの候補を特定しました。
その中でも最も有望なのは、下痢止め薬として知られるロペラミドです。
この、下痢止め薬がASDの中核症状を治療できるとは意外な感じがしますが、研究者らはその作用について仮説を立てました。
社会的コミュニケーション障害の回復に効果を示す、ロペラミド
ロペラミドは、「μオピオイド受容体」と呼ばれるタンパク質に結合して活性化します。
μオピオイド受容体は、通常はモルヒネなどのオピオイド薬の影響を受けます。鎮痛などの目的で使用されるオピオイド薬に通常期待される効果に加えて、社会行動にも影響を及ぼします。
これまでの研究では、μオピオイド受容体を欠損した遺伝子操作マウスは、ASDでみられるものと同様の社会的欠損を示しました。
興味深いことに、μオピオイド受容体を活性化する薬物は、社会的コミュニケーションの回復に役立ったのです。
マウスにおけるこれらの結果は、ロペラミドまたはμオピオイド受容体をターゲットとする他の薬物が、ASDに存在する社会的症状を治療するための新たな方法となる可能性を示すものです。
この仮説を検証するにはさらなる研究が必要とされます。
いずれにしても、今回の研究は、既存薬が元来の使用目的とは異なる効果を発揮し得るということを示唆しています。
鎮痛薬としての「オピオイド」に関しては以下のコラムをご参照下さい。
【米研究】国民の慢性疼痛が経済損失をもたらす!〜 CBDの有効性を活かした新しい鎮痛薬の開発が進む
(文=久保多渓心)
News Source
Drug repurposing candidates to treat core symptoms in autism spectrum disorder『 Frontiers in Pharmacology』
Anti-diarrhea Medication May Help Treat Core Autism Symptoms『NeuroScience News.com』
参考文献
『発達障害と人間関係・カサンドラ症候群にならないために』宮尾益知(著)講談社現代新書
AGLA編集部 のプロフィール
心と体を調える 女性のための新感覚スピリチュアルメディア編集部。