【英研究】都会と田舎、どちらがメンタルヘルスが向上するのか?

2023.3.6

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久保多渓心 ( ライター・占術家 )

墨が織り成す一子相伝の占術 “篁霊祥命(こうれいしょうめい)” を主な鑑定手法とする占術家。他にも文筆家やイベント・オーガナイザーとしての顔も持つ。また引きこもり支援相談活動なども行なっている。

都会と田舎、どちらがいいのでしょうか?

都市部に住む人は、より多くの雇用機会や公共サービスへのアクセス、文化活動や娯楽を享受できるかもしれませんが、地方に住む人は、より良いコミュニティ感覚や自然へのアクセスを持っていると主張することが多いです。

多くの研究が、英国世帯縦断調査the UK Household Longitudinal Study :UKHLS)の全国調査データを用いて、都市と地方のどちらが精神衛生上優れているかを明らかにしようとしています。

これは、2009年以来、英国の約4万世帯を追跡調査している全国規模の調査です。毎年、社会的、経済的、行動的な様々な要因についてデータが収集されます。

メンタルヘルスと住んでいる場所に関しては、このような調査結果もあります。

 

身体活動

身体活動は、気分ウェルビーイングの改善とともに、不安うつ病を軽減することが研究により示されています。実際、英国の健康ガイドラインでは、うつ病の治療生活の質の向上のために身体活動を推奨しています。

生活の中でより多くの身体活動を得るための簡単な方法の1つは、通勤や用事の際に自転車や徒歩で移動するなどのアクティブな移動です。

では、都会や田舎に住んでいることは、このことにどのような影響を与えるのでしょうか。

35,295人のデータを対象としたUKHLSの調査によると、都市部の住民は農村部の住民に比べて、アクティブな移動を頻繁に行う傾向が64%高いことがわかりました。これは、施設、店舗、オフィス、自宅間の距離が短い都市環境では、アクティブな移動の機会が多いためと考えられます。

調査によると、アクティブな移動が多い人ほど、メンタルヘルスが良好であることが分かっています。

実際、アクティブな移動がもたらす精神衛生上のメリットは、レジャーのための身体活動と同じくらい優れている可能性があります。つまり、この指標に基づけば、都市に住む人は全体的にメンタルヘルスが良好であるといえるかもしれません。

しかし、都会での生活は田舎での生活に比べてアクティブな移動の機会が多いかもしれませんが、だからといって、どこに住んでいても、メンタルヘルスのために日常生活に身体活動を取り入れる方法がたくさんあるわけではありません。

 

緑地へのアクセス

緑地(公園など)へのアクセスは、メンタルヘルスの面も含め、健康やウェルビーイングの多くの側面をサポートすると考えられています。

2009-2010年のUKHLS調査のデータと、イングランドの様々な地域における緑地の割合に関するデータを組み合わせて、近隣の緑地がメンタル・ウェルビーイングと関連しているかどうかを調査しました。

分析の結果、地域の緑地の量は、実際には精神的ウェルビーイングを予測しないことがわかりました。

このことは、緑地がメンタルウェルビーイングにとって重要である可能性がある一方で、緑地が近くにあるからといって、必ずしも人々が緑地に関心を持つとは限らないということを示唆しています。つまり、自然が身近にあるからといって、田舎暮らしが本質的に有益であると考えることはできないのです。

これは、2021年に行われた研究の結果と一致しており、緑地の近くに住んでいても、メンタルヘルスは改善されないという結果が出ています。

しかし、この分析では、緑地を訪れる頻度が高い人ほど、精神的なウェルビーイングが向上することがわかりました。また、自然がもたらすメンタルヘルスの恩恵を享受するためには、(写真を撮るなど)緑地との有意義な関わりがより重要である可能性があります。

このように、緑地がもたらす精神的健康効果という点では、都会での生活も田舎での生活と同じように優れているのかもしれません。

 

空気の質

多くの研究が、高レベルの大気汚染メンタルヘルスの低下との間に関連性を見出しています。

111の研究のレビューでは、汚染された空気は感情をコントロールする脳の領域に変化をもたらす可能性があるとさえいわれています。そのため、よりきれいな空気を吸っている人に比べて、不安やうつ病を発症するリスクが高くなる可能性があります。

大気汚染がメンタルヘルスに与える影響を調べるため、研究者たちは、英国環境・食糧・農村地域省Department for Environment, Food and Rural Affairs:Defraの大気汚染に関するデータを、英国家計パネル調査(British Household Panel:BHPS)のデータとともに、UKHLS調査データと組み合わせました。これにより、1991年から2014年までのデータを分析することができました。

英国家計パネル調査:英国の1万世帯を対象に1991年から2009年まで実施された、個人や世帯の社会経済変化を理解するための調査パネル

分析の結果、より高いレベルの大気汚染にさらされた人々は、より低いレベルの生活満足度を報告していることがわかりました。

大気汚染が生活満足度に及ぼす悪影響は、離婚などの大きなライフイベントに匹敵する可能性があることが示されました。

一般的に、都市部の大気汚染レベルは農村部の2倍から4倍であり、都市部に住む人々は、結果として精神的な健康を損なう可能性が高いことが示唆されています。しかし、農業もまた高レベルの大気汚染を発生させるため、特定の環境下にある地方在住者にもリスクがある可能性があります。

 

ウェルビーイングの地域差

もちろん、これらは人の日々の精神的健康に影響を与える要因のほんの一部であり、精神的健康に関していえば、都会と田舎のどちらが優れているということはないようです。

実際、都会に住んでいるか田舎に住んでいるかよりも、住んでいる地域の方が精神衛生上重要かもしれないという研究結果も出ています。この影響を説明する要因はたくさんあり、ある地域の生活費、地域の政治、その人の経済的地位も含まれます。

私たちが住む場所は、メンタルヘルスの観点で、非常に重要であることは明らかです。

しかし、自分のメンタルヘルスに最も適した場所は、より広範な社会的・経済的要因や、自分にとって最も重要なライフスタイルの側面によって大きく左右されるでしょう。

 

News Source

Mental health: how living in the city and country compare by Claire Wicks , Susan McPherson『THE CONVERSATION』

本記事は『THE CONVERSATION』(3月2日掲載 / 文=Claire Wicks , Susan McPherson)からの提供を頂き、翻訳を行ってお届けしています。The Conversation

The Conversation

久保多渓心 のプロフィール

久保多渓心

画家の父、歌人の母のもと、福岡市博多区で生まれる。

バンド活動を経て、DJ、オーガナイザーとしてアート系イベント、音楽イベントなどを多数手掛ける傍ら、フリーライターとしても活動。

音楽雑誌でのアーティスト・インタビュー記事、書籍、フリーペーパー、WEBなどの媒体で政治、社会問題から、サブカルチャー、オカルトまで幅広いジャンルでコラムを執筆。

引きこもり、不登校、心の病など自身の経験を活かし「ピアカウンセリング」を主軸にしたコミュニティを立ち上げる。後にひきこもり支援相談士として当事者やその家族のサポート、相談活動にあたる。

現在は亡き父から継承した一子相伝の墨を用いた特殊な占術『篁霊祥命』や、独自のリーディングによって鑑定活動を行っている。2021年で鑑定活動は16年目を迎える。

月参り、寺社への参拝による開運術の指導なども行う。

『AGLA(アグラ)』スーパーバイザーを務める。

2020年10月より活動名をマーク・ケイより、久保多渓心に改名。

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