「猫」が人の心と体に与える影響と可能性を考える〜猫の不思議と神秘(前編)〜

2019.11.20

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久保多渓心 ( ライター・占術家 )

墨が織り成す一子相伝の占術 “篁霊祥命(こうれいしょうめい)” を主な鑑定手法とする占術家。他にも文筆家やイベント・オーガナイザーとしての顔も持つ。また引きこもり支援相談活動なども行なっている。

猫とはなんとも不思議な生き物です。人に寄り添い、癒し、慰めてくれます。時には猫の手のひら(肉球の上?)の上でこちらがうまく転がされているように感じることもあります。

テレビCMには猫が頻繁に登場しますし、猫を取り扱ったドキュメンタリーやバラエティ番組も数多く放送されています。また、自慢の飼い猫の画像を投稿するインスタグラマーは何万というフォロワーを抱え、写真集が出版されることも珍しくありません。猫を飼っていなくても、猫を見ない日はないといっても良いくらいです。それだけ猫の虜となっている人がたくさんいるということですね。

猫は人にとって、どんな存在なのでしょうか。猫が私たちにもたらしてくれるものとは何なのでしょうか。今回は、猫が人間の心身にどんな影響を与えているのか、その背後にある猫という存在の神秘的で不思議な側面を探ってみたいと思います。

ほんの少しだけ、私自身と猫の関わりをご紹介させて下さい。

私は個人で細々と猫の保護活動をしています。周辺住民の方と連携して、地域に住む猫たちを見守っています。

思い返せば、まだ物心つかない時分に野良猫に左手の親指を噛まれてしまい、それから猫が大の苦手。猫がいれば避けて通るほどでした。

小学生の頃、友達が空き地に捨てられている段ボール箱に入った子猫を見つけます。かっこ悪くて「実は僕は猫が嫌いなんだ!」とも言い出せずに、学校の行き帰りに友達に付き合って子猫に餌をあげていました。

「おやおや...子猫って意外と可愛いじゃないか...」と愛着を感じ始めた矢先に、その子猫が亡くなってしまいます。

あんなに猫嫌いだった私ですが、ショックで何日も泣き腫らし「もう猫なんて見たくない!」という気持ちに至ってしまったのでした。

それから時は流れ、中学3年生の夏に一家離散、夜逃げという家庭の大事件が起きました。友達も、学校も、そして大切にしていた何もかもが奪われてしまった私を窮地から救ってくれたのが一匹の三毛猫でした。突然、家に迷い込んできた猫と暮らすことになって、疲弊し、閉じていた心は一瞬で解放されます。この時の三毛猫との出会いがなければ、私はどうなっていたか分かりません。

この三毛猫、名前を「まーこ」といいます。

ある時「まーこ」は、引っ越し準備の最中に逃げ出して行方不明になってしまいます。きっと部屋の様子が変わっていくのに驚いたのでしょう。帰って来ないまま引っ越し当日となり、仕方なく新しい居住先へと移動。元々住んでいた場所を数日に渡って探しましたが見つかりません。もう諦めるしかないと覚悟しました。

すると引っ越し後、2週間ほど経ったある日、十数キロ離れた引っ越し先に「まーこ」が現れたのです。その姿は、やせ細り、あちこちが薄汚れています。どうやって引っ越し先が分かったのでしょう。その時はあまりの健気さと愛おしさに「まーこ」を抱きしめて、ひとしきり泣いたのを覚えています。

動物には帰巣本能というものが備わっていることは、承知のはずでしたが猫にそこまでの能力があるとは意外でした。

昭和32年に山口県秋穂町(現山口市)で飼われていたクロという雄猫が、飼い主の引越し先である島根県松江市まで270Kmを14日かけて移動した記録があり、当時の新聞にも掲載されました。

猫の脳内には磁気コンパスとなる細胞があり、太陽の角度を察知しながら目的地へ移動すると考えられています。

この時から、猫の計り知れない能力に興味を抱き始めたのです。

 

猫の神秘なる力

第一次世界大戦中に迷彩塗装を施された日本郵船の貨客船「平野丸」©️日本郵船株式会社

1908年に竣工した日本郵船が所有する貨客線「平野丸」は横浜港とロンドンを結ぶ定期船で、あの与謝野晶子も乗船したことがある船でした。

1918年(大正7年)10月3日、ロンドンの港に停泊している時に、船内で飼っていた雄の三毛猫が、すぐ隣に停泊していた同じ日本郵船が所有する貨客線「丹波丸」に走り込んでしまうのです。

船員たちは、すぐに戻ってくるだろうと気にとめなかったといいますが、出航後に猫が乗っていないことに気付き、悪い予感に怯えます。

それは的中。

10月4日午前5時15分、アイルランド南方沖130Km付近を航行中、ドイツ帝国海軍の潜水艦Uボートに撃沈され、210人もの死者を出します。

これと似た話は他にもあります。

エジプトのスエズ運河には多数の外国船とともに日本の「播磨丸」が停泊していました。するとある外国船から猫が播磨丸に逃げ込んできたのです。船長は船員に元の外国船に連れ戻してあげるように命じました。猫は無事に外国船に返されましたが、すぐに播磨丸に舞い戻ってきます。

その後、外国船は猫が不在のまま他の船とともに出航していきますが、ドイツ軍の奇襲を受けて全滅してしまいます。猫を乗せた播磨丸だけは、奇跡的に難を逃れて日本に寄港を果たしたのです。

猫はその本能で、危機を事前に察知していたのかもしれません。

予知する猫(ジョックの場合)

歴史上、もっとも偉大なイギリス人として国民から尊敬される名宰相、イギリスの第61、63代首相であるウィンストン・チャーチルは大の猫好きとして有名でした。

首相官邸には、ネルソンスモーキーという猫が飼われていましたが、もう1匹チャーチルとその家族から愛された猫がいました。それは胸元と足の白い茶トラの「ジョック」です。

ジョックはチャーチルが88歳の誕生日に秘書官のジョン・ジョック・コルビルからプレゼントされた猫で、名前は送り主であるジョックの名からとられました。

晩年のチャーチルは老衰のため、寝たきりとなり、さらに脳卒中で左半身が麻痺した状態となっていました。ジョックはそんなチャーチルのベッドの上で大半の時間を過ごし、寄り添い続けました。片時もチャーチルの元を離れなかったのです。

1965年1月23日の夜になると、あんなにチャーチルのベッドから降りなかったジョックが、寝室から出たがり、ドアの前で鳴き続けたというのです。

その翌朝の午前8時、チャーチルは家族に看取られながら息を引き取ります。ジョックはチャーチルの死を予期して、家族に知らせようとしていたのかもしれません。

チャーチルの死後、ジョックは遺族からの要望でチャーチルと過ごしたチャートウェル・ハウスに住み続けました。ジョックはチャーチルとの思い出が溢れた邸宅で、幸せに暮らすことが出来たのです。ジョックの死後も、同じ柄の猫が飼い続けられ、現在でもチャートウェル・ハウスには6代目のジョックが住んでいます。

6代目ジョックの公式サイト(Jock Ⅵ of Chartwell)
https://www.nationaltrust.org.uk/chartwell/features/jock-vi-of-chartwell

予知する猫(オスカーの場合)

「オスカー 天国への旅立ちを知らせる猫」デイヴィッド・ドーサ著・栗木さつき訳 / 早川書房

今から10年ほど前、アメリカで「死期を予測する猫」として話題になった1匹の猫がいました。その名は「オスカー」。アメリカのロードアイランド州にあるステアーハウス看護リハビリテーションセンターで飼われている猫です。

ブラウン大学准教授のデイヴィッド・ドーサ博士が2007年に「A Day In the Life Of  Oscar the Cat」のタイトルで医学雑誌「New England Journal Of Medicine」に寄稿した記事がきっかけとなり、「"Making the Rounds with Oscar: The Extraordinary Gift of an Ordinary Cat(日本では「オスカー・天国への旅立ちを知らせる猫」のタイトル)」という本も出版されました。

オスカーはアニマルシェルターで殺処分される寸前にセラピー猫としてセンターに引き取られました。オスカーは施設に6匹いる猫のうちの1匹です。 

オスカーがいるのは認知症やパーキンソン病の患者が入居するフロアー。オスカーは施設にやって来てしばらくすると入居者の部屋を巡回するようになります。

ある部屋の前で足を止めると、スッと部屋の中に入ります。オスカーは迷いなくベッドに飛び乗って入居者の匂いを嗅ぎ、傍らで丸くなるのです。オスカーのこの行為は、その入居者に死期が近づいている合図。大抵は、オスカーのこの行為のあと、数時間で入居者は亡くなるのです。

猫が部屋に入ることを好まない入居者家族もあったそうですが、オスカーは部屋から追い出されるとドアの前で抗議をするかのように鳴き続けることもありました。

オスカーには入居者の死期が分かり、セラピー猫として入居者の死の恐怖を和らげるために、傍らに寄り添っていたのでしょうか。

ドーサ博士は、人の細胞が死滅する時に放出されるケトン体の匂いを察知しているのではないかとの見解を示していますが、猫にはこうした神秘的な力が備わっていることは間違いないようです。

予知する猫(地震の場合)

猫が予知をするのは、人の死期だけではありません。地震もその1つです。

昨年発生した大阪北部地震(最大震度6弱)では、猫カフェに設置された監視カメラの映像が話題になりました。猫カフェは震源地から離れた和歌山県にありますが、地震発生の10秒ほど前から多くの猫たちが何かを察知したように、寝ている体を起こしたり、走り回ったりしています。

      

猫は聴覚が発達した生き物です。一点を見つめて、ジーッとしている猫を見かけることがありますが、これは見つめている先にある微細な音に集中している姿です。

こうしたことから猫は地震の発生前に震源地から発せられるP波(Primary wave)を聞いていると思われます。

猫の神秘的な力には、どうやら科学的な裏付けが出来そうです。

 

なぜ猫は化けるのか

歌川国貞「昔語岡崎猫石妖怪」

「猫と、その神秘性」を結びつける過程で思い出されるのは、昔から猫が「化ける」とされていることです。では、なぜ猫は「化ける」と恐れられるようになったのでしょうか。

獣医師で農学博士でもある「猫を科学する」を著した紺野耕氏は、猫が化けるとされた要因は猫ならではの5つの特性にあると推理しています。

それが以下のものです。

抜き足差し足

猫は移動するのに絶対に足音をたてません。ネコ科の動物はライオンを除いて、獲物を待ち伏せて捕獲するため、足音を獲物となる動物に聞かれてはならないのです。あの猫の可愛い肉球は足音を吸収するために備わったものなのです。

3次元移動

三次元移動とはすなわちジャンプや高所に登ったり、飛び降りたりする行動のことです。室内飼いの猫もカーテンレールの上や、高い棚の上に難なく登ります。ただ降りることを想定せず登るので、降りることが出来なくなり、結局は飛び降りるハメになりますが、どんな体勢になったとしても空中でうまく体をよじらせて見事に着地します。

猫にとってこの上下の移動はとても重要なものです。長時間、平面移動しか出来ない環境に置かれると猫はノイローゼになってしまうそうです。

夜目が効き、闇に光る目

猫は夜でも目が見えます。猫の瞳孔はスリット状になっており、光の量に応じて素早く大きくなったり、小さくなったりします。明るいところでは縦長に、暗いところでは丸くなります。忍者はかつて時間を知るためにこうした猫の瞳孔の状態を利用しました。これを「猫の目時計」といいます。

夜目が効くことに加えて、暗闇で光る目を持っていることが挙げられます。猫の目が光るのは、網膜の後ろにタペタム(輝板)と呼ばれる反射板がついているためです。網膜に入ってきた光を反射させ、網膜に再度はね返すことで、暗いところでも周囲が鮮明に見えるのです。こうした猫の目のメカニズムを知らなかった時代は、光る目は妖しい怪猫の象徴のように感じられたことでしょう。

猫の意外な行動

猫は時折、不思議な動き、滑稽な動き、予想だにしない動きをして、飼い主をびっくりさせることがあります。例えばドアノブをひねってドアを器用に開けたり、後ろ足だけで立ってみせたり、猫じゃらしで遊んでいると、踊っているような奇妙な動きをすることもあります。猫の習性があまりよく知られていなかった時代には、こうした猫の奇妙な行動は、妖異の所業と解釈されても不思議ではありません。

猫は興奮すると手が付けられない

これは猫の攻撃力の高さのことを表しています。猫の爪は通常時、靭帯に収納されていますが、攻撃に転じた瞬間に鋭い爪を出します。猫と少しの間、戯れただけであちこちに切り傷を負って血が滲んでいることに気付くという経験をされた方は多いでしょう。

これら5つの猫の特性を考え合わせると、何かを恐れながら暗い夜道を歩いている時に、足音もたてずに突然目の前に猫が立ちはだかったとしたら、これは化け物に違いないと昔の人は考えてもおかしくはありません。

追い払おうと手出しをすると、手痛い反撃を受けます。突飛な行動や、不思議な動きを見せると、その姿はいかにも妖しげで狐狸妖怪の類に違いないと考えたのではないでしょうか。

猫は化けるのに、なぜ犬は化けないのか

遣唐使船のレプリカ(平城宮跡歴史公園)

猫が「化ける」とされた要因はなんとなく理解が出来ました。しかし、そこから新たな疑問が生じます。「化け猫はいるのに、なぜ化け犬はいないのか?」という疑問。

それは、猫と犬の起源の違いによるところが大きいのではないかと思われます。

猫が日本にやって来たのは、奈良時代後期。遣唐使によって中国から航路を経て運ばれて来る経典を、ネズミの害から守るために船に乗せられたことが始まりだといわれています。

しかし近年、兵庫県姫路市の見野古墳から発掘された陶器に猫と思われる足跡がついていることがわかりました。このことから猫は奈良時代より少し前、飛鳥時代には日本に存在した可能性が出て来たのです。

さらにさかのぼると1万年前にアフリカ北東部、中東、西アジアに分布していた野生の猫「リビアヤマネコ」が起源だといわれています。

この頃は人々が狩猟中心の生活から農耕に舵を切り始めた時期と重なります。収穫した穀物を貯蔵していると、当然ネズミなどの被害にあうことも多かったはずです。このネズミを狙ってリビアヤマネコは人の住む集落を訪れるようになり、それが次第に家畜化されていったのです。

一方の犬の起源はもっと古く、ユーラシア大陸で2~3万年ほど前に番犬や狩猟犬代わりとして人に飼われていたオオカミをその起源に持ちます。日本には縄文時代に朝鮮半島や東南アジアから伝わって来たといわれています。

犬は元来、山々にこだまするような遠吠えや、俊敏さ、凛とした佇まい、狩猟に同行して人の暮らしを直接的に支えて来た背景などがありましたので、猫のように愛玩し、その動作に妖しさを垣間見るというよりは、神格化され、畏怖される存在として扱われて来ました。

佐脇嵩之『百怪図巻』より「犬神」

猫のように化けて人を脅かす存在というよりは、崇め、恐れ、敬う存在だったのです。化け犬がいない代わりに「犬神(狗神)」はいます。「犬神(狗神)」について詳しいお話はここでは致しませんが、これはこれで非常に恐ろしい存在です。また犬神(狗神)がいる代わりに「猫神」はいないません(鹿児島市にある猫神神社という猫を祀った神社が唯一といわれています)。

「化ける」ということの本質には、猫が人間にとって近しい存在であり、喜怒哀楽を飼い主と分かち合う、かけがえのない存在だということがあるように思えます。有名な「鍋島」や「相良藩」の化け猫騒動も、飼い主に従順であり続けた猫の物語でもあるのですから。

さて、次回はもう少しだけ、猫の神秘的な側面に触れ、猫が人間の心と体にどのような影響を及ぼしているのかを見てみたいと思います。

久保多渓心 のプロフィール

久保多渓心

画家の父、歌人の母のもと、福岡市博多区で生まれる。

バンド活動を経て、DJ、オーガナイザーとしてアート系イベント、音楽イベントなどを多数手掛ける傍ら、フリーライターとしても活動。

音楽雑誌でのアーティスト・インタビュー記事、書籍、フリーペーパー、WEBなどの媒体で政治、社会問題から、サブカルチャー、オカルトまで幅広いジャンルでコラムを執筆。

引きこもり、不登校、心の病など自身の経験を活かし「ピアカウンセリング」を主軸にしたコミュニティを立ち上げる。後にひきこもり支援相談士として当事者やその家族のサポート、相談活動にあたる。

現在は亡き父から継承した一子相伝の墨を用いた特殊な占術『篁霊祥命』や、独自のリーディングによって鑑定活動を行っている。2021年で鑑定活動は16年目を迎える。

月参り、寺社への参拝による開運術の指導なども行う。

『AGLA(アグラ)』スーパーバイザーを務める。

2020年10月より活動名をマーク・ケイより、久保多渓心に改名。

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