2021.9.3
日本人の感性が育んだ香道の世界 ③ 〜「月」〜『香りと暮らし、和をたしなむ(連載第十八回)』

夏が過ぎ秋になりますと、美しい月を楽しめる季節になりますね。
古来より日本人は秋の月を愛でていました。
十五夜(満月)は日没とともに東の空に昇り、明け方には西の空に沈みますが、これ以降は月の出が50分ずつ遅くなっていきます。
16日目はためらうように後から出てくるので十六夜(いざよい)、17日目はまだまだかと立って待つので立待月(たちまちづき)、18日目は待ちくたびれて座って待つので居待月(いまちづき)、19日目は床に入って待つので寝待月(ねまちづき)、20日目には夜も更けた頃、月が昇るので更待月(ふけまちつき) と様々な呼び方があります。
また「十五夜」と、その後の「十三夜(じゅうさんや)」を合わせて、「二夜(ふたよ)の月」といいます。
どちらか一方の月しか見ないことを「片月見」といい、縁起がよくないともいわれ、昔は十五夜と十三夜を同じ庭で見る習慣があったようです。
また秋の月はお月見だけでなく、香道にも多くの影響を見ることができます。
室町時代に銀閣寺で生まれた香道には、「組香」という香りの組み合わせを聞き分けるゲームのようなものがあります。
その中で月を題材にした「月見香」という組香があります。
月見香は、平安時代の村上天皇が十五夜の月の宴の際に詠んだ歌
を証歌にしています。
村上天皇も中秋の名月は格別と思われていたようですね。
月見香とは
月見香とはどのような組香なのでしょうか。
まず、「月」の香木を4包、「客(ウ)」の香木を3包用意します(「月」「客(ウ)」は香木の略号)。
まず、お試しとして「月」の香木の香りを聞き、覚えます。
「ウ」の香木はお試しで聞くことができません。
次に残り6包を混ぜてランダムに3つを選び、それを順に聞いていきます。
解答の一例を紹介しますと、3つが順番が「月•月•月」と思ったら、月一色という心で満月を表す「十五夜」と解答の紙に書きます。
「ウ•月•月」と思ったら少し明るく、後からためらうように出る月という心で「十六夜」と書きます。
「ウ•ウ•ウ」と思ったら、この場合のウは水(雨)を表し、月が全く見えないので「雨夜」と書きます。
「月月月」=十五夜
「月月ウ」=待宵
「月ウウ」=夕月夜
「ウウウ」=雨夜
「ウウ月」=残月
「ウ月月」=十六夜
「ウ月ウ」=木間月
「月ウ月」=水上月
このように、日本人は四季の移り変わりを感じながら日々を過ごし、また喜びを感じているんですね。
香木の分類
今回のテーマは香道における香木の分類です。
香木は「六国五味(りっこくごみ)」と呼ばれる方法で分類、表現されます。
六国とは「伽羅(きゃら)」「羅国(らこく)」「真那賀(まなか)」「真南蛮(まなばん)」「寸門多羅(すもたら)」「佐曽羅(さそら)」の六種を指し、木所(きどころ)とも呼ばれ「六国」あるとしたのです。
例えば羅国は東南アジアの国の古名で暹羅国(シャムコク、現在のタイ)、真那賀はマラッカ、寸門多羅はスマトラのように、香木の産出国名あるいは積出港の地名になります。
ただ、この六国の概念が成立したのは、江戸時代の香人、米川常伯(よねかわじょうはく)によるとされ、それ以前は「伽羅」「羅国」「真那賀」「真南蛮」「新伽羅」に分類されていました。
新伽羅は若い伽羅の総称で、伽羅は長時間にわたり同じ香りを保ちますが、新伽羅は熟成度が低いので香りの安定性にかけます。
このように香木は産出地などで六つに分類し、さらに※五味(ごみ)で香りを表現します。これを「六国五味」といいます。
ただし現在では産出地では分類しません。
それぞれ六国には特徴的な香りがありますので、その香りによって分類します。
また「佐曽羅」に関しては、志野流では沈香、御家流では白檀を使いますので、香道流派による違いもあります。
伽羅とは
今回は、この六国の中で「伽羅」についてお話しをしていきます。
昔から日本では、伽羅と言えば「非常に高価、素晴らしい」など伽羅への憧れを含めて、褒め言葉の代名詞となっています。
例えば、「伽羅女」は美しい女性、伽羅の御方は本妻のことを指しています。また「伽羅臭い」は身分不相応に見栄を張っていることを意味しています。
伽羅はベトナムの極限られた地域でしか産出されません。先程六国は香木の産出地に由来すると書きましたが、伽羅は例外で、伽羅という国はありません。
伽羅には独特の香り成分が含まれて、とても華やかな香りです。米川常伯は伽羅の香りを次のように表現しています。
伽羅は、苦味を主とするものが質がいいとされています。
しなやか、優美で「宮人の如し」と表現されています。伽羅は他の香木と比べて香りが多種多様で、鮮明な印象を与えてくれます。
そうかと思うと、真那賀のようにあるかないような微薫を品のよい美とする香木もあり、そこが奥深いと思わされます。
最後に
このように香木は、日本とは遠く離れた地で産出されます。
日本人はその中に日本的な美を見つけて和歌を詠み、作曲するように組香をつくりました。香木は六国に分類すると言っても実際の香りは様々です。
皆さんが香木の香りを聞く機会がありましたら、印象を書き留めると良いでしょう。その香りが貴方に語りかけてくれるはずです。その声に耳を傾けてください。
気持ちが不安定で揺らいでいる時に聞香(もんこう)すると、気持ちが落ち着きます。お休みの日や特別な日に、香木の香りを楽しんでみてはいかがでしょか?
リフレッシュできますし、優雅な気持ちで一日を過ごすことができます。私どもの教室で天然香料のみのお香つくりや聞香体験を行っています。
ご興味のある方は、是非お問い合わせください。
多田博之・晴美 のプロフィール

【多田博之】
FOUATONS aroma&herb・お香school 主宰
薫物屋香楽認定教授香司
歯科医師
宮崎市にて21年間開業医として地域医療に携わる。偶然に出会ったお香の魅力に惹かれ、平日は診療、週末は東京にてお香の勉強を繰り返したのち、50歳の時に閉院しお香の活動に専念する。
現在、福岡と宮崎の教室を拠点に、NHK文化センターの講師として、九州各地と広島県にて天然香料にこだわったお香教室を開催。また香木の香りの素晴らしさや香道の魅力を伝えてたいと思い、御家流香道の研鑽を積んでいる。
平安期のお香の使われ方を勉強するなかで、紫式部の「源氏物語」に興味をもち、講座では、香道や源氏物語の視点も交えて伝える。
また、薫物屋香楽認定教授香司として、香の知識や技能をさらに深め、和の香り文化とお香づくりのスペシャリスト(香司)の育成に努めている。
【多田晴美】
FOUATONS aroma&herb・お香school
華結び組乃香 主宰
薫物屋香楽(たきものやからく)認定香司
アロマインストラクター、ハーバルセラピストを経て「香司(こうし)」として 香りの楽しみ方や使い方を紹介。
ハーブのもつフィトケミカル成分が、健康や美容など様々なジャンルで注目され、特にスパイス系ハーブは生薬との共通性があり、大陸から伝わったとされる「お香」の 香原料ともなっている。
日本の歴史や習慣に深く関わり、人々の心を癒してきた文化としての「香り」を「和」の心とともに普及する活動を福岡県や、宮崎県を基盤に全国で展開。
趣味と実益をかねて日本三芸道の一つ「香道(御家流)」や、室内を飾る「飾り結び」も研鑽中。 天然香料を使ったお香作りの講師として、メディアなどで香りの魅力と素晴らしさを発信している。
ホームページ→ https://www.fouatons.org/
Facebook→ https://www.facebook.com/miyazakifouatons/