2022.5.12
【ポリヴェーガル理論】3つの防衛スタイルとは『発達の凹凸を理解し、親子で健やかに過ごすために(連載第2回)』

皆さんは「防衛」というと、どういう行動を連想しますか?
「逃げるが勝ち」とか、「攻めは最大の防御」といった言葉を聞いたことがあるかもしれません。
今回は、3つの防衛スタイルについてのお話です。
「ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)」という、まだ日本に入ってきて間もない、新しい理論も交えてお話していきたいと思います。
この理論を知っておくと、今までの体の不調だったり、今自分や子どもがどの防衛スタイルの状態かを考えることができます。
そして、対応方法も変わってきますので、最後まで読んで頂ければ幸いです。
防衛反応は「責められた!」と思った時のSOS
人間(特に自分の感情を適切な言語表現で表すのが難しい、子ども)は、責められたと思った時に防衛反応をとります。
この時の防衛反応は、
「”逃げる”防衛スタイル」
「”戦う”防衛スタイル」
「”固まる”防衛スタイル」
の3種類です。
スタイル名だけでは分かりにくいので、下記にそれぞれの防衛スタイルの特徴を簡単にまとめました。
『逃げる』防衛スタイル
不安や罪悪感・劣等感・困惑などを抱えきれず、その事実から「逃げる」気持ちを行動で表現。
具体的な行動としては
・ウソをつく
・他人のせいにする
・嫌な事は考えないで楽しい事だけをする
・学校、家から逃げる
また、ウソをつくという防衛反応をとるのは、家で親に責められている場合に多いそうです。
『戦う』防衛スタイル
「うるせー」、「くそばばあ」、「あっちに行け!」など、不安・劣等感・困惑を暴言で表現します。
具体的な行動としては
・睨む
・暴言を吐く
・家庭内暴力
そしてこの防衛スタイルは、戦わずにはいられないが、孤立は嫌なのでさらに乱暴になったりします。
『固まる』防衛スタイル
大切に育てられてきている子どもに多く、大人が扱いやすい「良い子」となり、何も表現しません。
具体的な行動としては
・親や周りの人の感情を読み取り、自分の感情にふたをして感じないようにする
・いじめをする
・自傷行為をする
・爆発的な暴力行為をすることがある
なぜ防衛反応が起きるのか?
特に子どもは、自分の怒り、悲しみ、不安などの不快な感情を安全に抱えられずにいます。
自分の感情を言語表現できず、上記に挙げたような防衛反応を起こしてしまうのです。
ポリヴェーガル理論の考えでいうと、哺乳類は3つの神経モードで体全体の調整を自律的に、意思と関係なく行っていて、それが「自律神経」といわれるものです。
自律神経は環境に対して整理反射を起こし、意識的に考え動くよりも前に身を守ってくれているのです。
防衛反応とポリヴェーガル理論

迷走神経 Jkwchui, CC BY-SA 3.0
1994年に精神医学博士 スティーブン・ポージェスが提唱した神経理論「ポリヴェーガル理論(※)」。
従来の自律神経理論(交感神経、副交感神経の2つの神経モードで行動を調節している)とは別に、人間の心と体は3つの神経モード(自律神経系)の働きにによって調整が行われているという理論を唱えています。
幼少期に形成される愛着パターンもこの理論で説明でき、解離:意識や記憶などに関する感覚をまとめる能力が一時的に失われた状態現象、パーソナリティ障害などの情緒の不安定さも説明出来ています。
つまり、
3つの神経モード
先に記述したように、ポリヴェーガル理論が提唱される以前は、自律神経には、「交感神経」と、「副交感神経」の2種類があるという考え方でした。
ポリヴェーガル理論では、副交感神経系の働きを2つの迷走神経(「背側(はいそく)迷走神経系」と「腹側(ふくそく)迷走神経系」)に分類しています。
従来の自律神経理論
-
◎交換神経:アクセルの神経
スポーツの試合、仕事でここ一番という時や重要なトラブル時などには交感神経が強く働き、血液循環や呼吸、代謝を上げて活動性を高めます(動く・活発になる・興奮する・戦う・血管を収縮して血が出にくくするなど)。 - ◎副交換神経:ブレーキの神経
睡眠時や休息時、食事中やその後、体の各部分の活動性を下げ、次の活動に備えて回復、修復させるために働きます(リラックス・緩やか・のんびりしている状態、心拍・呼吸数が下がり血圧も下がる。)。
ポリヴェーガル理論での考え方
ここでは、神経系を3つの色に例えて説明いたします。
-
◎赤の神経系:交感神経(戦うか逃げる、勝負神経)
体は力んだり、前のめりになったり、動機や息苦しさといった症状が出る状態です。また、視野が狭くなったり、脈が速い、消化管や泌尿器は抑制された状態。
震え、発汗、口が渇く、手汗などが現れたりすることもあります。
思考としては、〜すべき、〜は駄目、〜しなさい、倒せ!、負けるな!、急げ、なんで!?、避難しろ!、完璧であれ、などが挙げられます。
そして、この神経系の感情としては、イライラ、怒り、憎しみ、闘争心、意地、回避、どっか行け、近づくな、焦り、恐怖、不安、ソワソワといったものです。
また、身体症状としては「急性期」で炎症といった体の表面に出やすい症状、腰と首の浅いところに症状が出ますので、血管が固く、血行が悪くなったり、寝違え、四十肩、ぎっくり腰などもこの神経系の働きが関係しているのではと考えられています。
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◎緑の神経:腹側迷走神経複合体(好奇心、つながり、安心の神経)
思考としては、ワクワク、楽しみ、やってみよう、ありがたい、どうにかなるな、それでいい、などどちらかというとプラス思考の要素が挙げられます。
体は柔らかい、穏やかな表情や落ち着いた脈・呼吸、笑顔、オープンな姿勢や態度となり、声も顔も動きも豊かになります。
この神経系の感情としては、平和、好奇心、愛、つながり、嬉しい、守られた感じ、安心感、安全感、一体感といったもので、身体症状としては「回復期」で集中力が高い自然体・フラットです。
自分の体に感謝が湧いていたら回復モードで、完全に緑の状態だと体の不調は出にくいとされています。
また、緑の神経系は赤の神経系とブレンドされると、遊びやスポーツでよい効果が、青の神経系は青とブレンドされると、愛やそのままの状態で満足できるなどの特徴ももっています。 -
◎青の神経:背側迷走神経複合体(災難が去るまで固まる、止まるために必要、省エネ・充電神経)
体は脱力状態で動きたくない、気だるい、倦怠感、注意力低下、見えにくい、聞こえにくい、失神、蒼白、声が小さい、表情が乏しい、頭が真っ白になるなどの状態です。
思考としては、もう駄目だ、情けない、終わった…、どうせうまくいかない、一人になりたい、といった俗にいうマイナスな思考が挙げられます。
この神経系の感情としては、憂鬱、悲しみ、自暴自棄、無感情、無感動、孤独、諦め、不信、途方にくれた、死にたい、消えたいといったものです。
また、身体症状は「慢性期」で、体が冷えている状態となりヘルニア、冷え、頭痛、脊柱管狭窄症などの症状が出ることがあります。
これら赤、緑、青の神経系統は、赤の神経系統があまりに強くなると心身が持たなくなってします。
そうなると神経系はシャットダウンの状態となり(赤から一気に青の状態になる)、なかなか緑の状態に持っていくことが難しくなってしまいます。
自分の色は何色?
私自身、この理論を知るまでイライラしていて周りにあたってしまうことがありました。そしてその後、冷静になると自己嫌悪に陥ることもしばしばあったのです。
そうならないためにも、普段から自分が緑の状態になれる要素(物、行動、人など)を理解し、赤や青の状態が強い時には意識的に緑の要素を取り入れることが必要です。
例えば、お気に入りの音楽を聴いたり、休憩時間を設けて好きな飲み物を飲むなどしリラックス状態に持っていくのもいいですね。
子どもも同じで、どういった時が子どもが緑の状態かを観察し、赤や青が強いと感じる場合は緑の要素を取り入れるようにしていくと、子どもも安心し落ち着いてくるでしょう。
ぜひ、「今の自分は何色かな?」、「今、子どもは何色だろう?」と意識して、ご自身や子どもを緑の状態にして(または緑とブレンドして)穏やかな日々をお過ごしください。
参考文献
『ポリヴェーガル理論入門: 心身に変革をおこす「安全」と「絆」』
著者/ステファン・W・ポージェス , 花丘 ちぐさ (翻訳)
春秋社
『子ども発達インストラクター講座』
著者/日本メンタルコーチング学院®
HARU のプロフィール

子ども発達インストラクター・チャイルドコーチングマイスター。
神経発達症について学んだ際の師の言葉「困る子供は”困っている子供”」、「困る親は、”困っている親”」という考えを根底にもっており、子供に関わる人たちに、少しでも心穏やかに、楽しく過ごしてもらいたいと考えている(特に、子供と密接に関わる母親(又は母的役割をする人)が心穏やかでなければと思っている)。
結婚・出産前まではシステムエンジニアとして従事していたが、第二子がポッター症候群により新生児死を経験し、子供と過ごす時間について考えることが増え、フリーランスに転身。
現在は動画クリエーターとして活動している傍ら、身近な人たちの子育て相談・発達相談を受けつつ、「ニューコードNLP」、「ポリヴェーガル理論」などを学び、カウンセラーとしての活動を開始する。