2019.7.26
夏の涼やかなしあわせ守り『四季に寄り添い、祈るように暮らす(連載第十四回)』

大暑に入り、強い陽射し、肌に触れる風も熱くて、外に出る度、思わずハーッと息をついてしまう私です。
これからの時季は「土潤溽暑(つちうるおいてむしあつし)」(7月28日~8月1日)。
生い茂った草むらが、むせかえるような熱気を放つ時季と言われています。
この熱気を「草の息」とも言うそうですが、そう思うと、「今日も暑いね~」と息を吐く、草たちの吐息が聴こえてきそうですね。
さて、そんな時、どこからともなく聞こえてくる風鈴の涼やかな音色。
今日は暑い夏に涼を運んでくれる「風鈴」についてお話しましょう。
今年は、自分の邪気を祓ってくれそうな「音」がするものを選んでみませんか?
中国から伝わった邪気を祓ってくれる縁起物
この時季、家の軒下でチリーンチリーンと涼し気な音を響かせる風鈴。
風鈴の起源は中国と伝えられています。その昔、占風鐸(せんふうたく)という占いがあり、竹林の四方に、「風鐸」という道具を吊るし、風の向きや音の鳴り方で物事の吉凶を占っていたとか。日本には仏教とともに伝わったとされています。
風鐸は、その音が届く場所の邪気を祓うと信じられ、お寺の軒の四隅に吊るされるようになりました。
「風鐸」という言葉に、高校の教科書に載っていた、詩人の三好達治の「甃(いし)のうへ」という詩を思い出す方も多いのではないでしょうか。
をみなごに花びらながれ
をみなごしめやかに語らひあゆみ
うららかの跫音(あしおと)空にながれ
をりふしに瞳(ひとみ)をあげて
翳(かげ)りなきみ寺の春をすぎゆくなり
み寺の甍(いらか)みどりにうるほひ
廂々(ひさしひさし)に
風鐸(ふうたく)のすがたしづかなれば
ひとりなる
わが身の影をあゆまする甃のうへ
どこからともなく、花びらが流れ落ちる寺の境内。
小声で話しをしながら通り過ぎて行く少女たち。
ふと、空を見上げると、寺の軒の四隅に吊るしてある青銅の鈴「風鐸」は、濡れたような緑をたたえ、ひっそりと静まり返っている。
自分の影を見つめ、一人物思いにふけりながら歩く ……
「甃のうへ」の詩の世界では、風がない晩春、風鐸が音を鳴らすことはありませんが、お寺の軒の四隅に吊るされていた風鐸は青銅製だったので、私たちがイメージする軽やかな音色ではなく、どちらかと言えば、もっと重たい音だったかもしれませんね。
「風鈴」という呼び名は、平安時代、貴族たちが邪気祓いの意味を込めて軒下に吊るすようになった頃から使われるようになったとされています。
ひとつひとつ音色が違う風鈴。
今年は邪気祓いの意味を込めて、「音」で、風鈴を選んでみませんか?
「風鈴市」へ出かけよう
先日、新潟県に鎮座する白山神社へ。
水を司る「みなとまち新潟」の守り神として、新潟を見守り続けてきた白山神社では、新潟開港150周年を記念し、「海」をテーマにした風鈴が境内に飾られ、神さまと一緒に風鈴の音色を楽しんできました。
スイカや海月、亀の風鈴が風にそよぐたび、子どもたちもにこにこと。しあわせな風景が広がっていました。
今年はまだまだ、全国各地で「風鈴市」が楽しめます。
埼玉県の川越氷川神社は縁結びの神様として有名ですが、こちらの神社で特に人気を集めているのが「縁むすび風鈴回廊」。
9月8日(日)まで短冊が結ばれた風鈴が縁結びを願い、回廊で可愛らしい音を響かせています。
猪目窓と呼ばれるハート形の窓がある寺としてインスタグラム等で一躍有名となった「正寿院」は、京都の風鈴寺と呼ばれています。
今年の「風鈴まつり」は9月18日(水)まで。こちらの寺には鎌倉時代の仏師・快慶作とされる木造不動明王坐像などの貴重な文化財が安置されています。
正寿院で風鈴の音色に心癒され、夏の京都の風物詩、鴨川の川床で熱々の鱧を頬張りながら、きりりと冷えた地酒をいただけば、素敵な旅になること間違いなしです。
福岡で「かえる寺」の異名を持つ「如意輪寺(にょいりんじ)」では9月中旬まで、暑い夏を無事に越せるよう、風鈴の短冊に願いを書いて奉納。
期間中は5000以上のカエルの石像と、数千個の風鈴が風に揺れる、年に一度しか見ることの出来ない風景を楽しむことが出来ます。
「すべてのものに命がある」とする日本の心
『福を呼ぶ 四季みくじ』には、「針祭る」というカードがあります。これは、「針供養」と言って、一年使い古くなった針、折れた針を集めて供養する日のこと。
先人たちは、古くなり、役に立たなくなってしまったものにさえ、「ありがとう」「おかげさま」の気持ちを大切に生きていたのですね。
神奈川県の川崎大師では、古くなったり、壊れてしまった風鈴の供養を行っています。
邪気祓いはもちろん、家族の健康や幸せを願い飾られた風鈴。立派におつとめを果たしていただいたら、ゴミと一緒に捨ててしまわず、川崎大師でご供養をしていただきましょう。
身の回りの物を大切にすることは、自分自身を大切にすることにつながります。
どんなものにも、「ありがとう」「おかげさま」の心を大切に。
風鈴がチリーンと音を響かせるたびに、邪気祓い。
風鈴は夏の涼やかなしあわせ守りです。
『四季に寄り添い、祈るように暮らす』
次回は、「辛い恋」を忘れさせてくれる花、和歌で「恋に乱れた心」にたとえられた花、「高貴な白」を意味する素敵な名前を持つ花など、「夏の花に秘められた物語」をご紹介します。
お楽しみに。
福ふく
参考文献
三浦奈々依『福を呼ぶ 四季みくじ』
三浦奈々依 のプロフィール

フリーアナウンサー・神社仏閣ライター・カラーセラピスト。
ラジオ番組にて20年以上にわたり、音楽番組を担当。
東日本大震災後、雑誌Kappoにて約7年にわたり「神様散歩」の連載を執筆。心の復興をテーマに、神社仏閣を取材。
全国の神社仏閣の歴史を紹介しながら、日本の文化、祈りの心を伝えている。
被災した神社仏閣再建の一助となる、四季の言の葉集「福を呼ぶ 四季みくじ」執筆。
→ http://ameblo.jp/otahukuhukuhuku/
アマゾン、全国の書店、世界遺産・京都東寺等で販売。
カラーセラピストとしても全国で活動中。
旅人のような暮らしの中で、さまざまな神社仏閣を訪ね、祈り、地元の人々と触れ合い、ワインを楽しむ。