2019.9.6
今は名月の季節「月見月(つきみづき)」~ 『四季に寄り添い、祈るように暮らす(連載第二十回)』

秋は一年の中でもっとも月が美しいとされる時季。9月は「月見月(つきみづき)」とも呼ばれています。
夜の闇に抱かれ、刻々とその姿を変えていく月。新月から上弦の月、満月を経て、再び新月へ。そんな月の満ち欠けに合わせてつくられたのが旧暦です。旧暦は朔日(新月)から始まり、三日月の日は3日、十五夜が15日というように、月のかたちと日付が連動しています。夜空に浮かぶ月のかたちを見て、古の人は時の巡りを感じていたのですね。
ネオンが輝く夜の街を闊歩する私たちの頭上で、月は昔と少しも変わることなく輝き続けています。
9月13日は「中秋の名月」ですが、今夜の月もまた名月。古の人は刻々と変化する月にそれぞれ名前をつけて、毎日、月の出を楽しみにしていました。
今日は「月」のお話です。
月の女神セレーネ

セレーネ(中央):ルーブル美術館所蔵
ギリシャ神話にはさまざまな月の女神が登場します。
中でもいちばん有名なのは、弓と狩りの女神アルテミスではないでしょうか。アルテミスは三日月にも似た銀色の弓を持っていることから、三日月の女神、と称されることも。
そして、もうひとり。月光の女神と呼ばれるセレーネ。
彼女は太陽が西に沈んだあと、東の空に銀の船を浮かべて、静かに夜空の海をわたっていくといわれています。皆さんは、セレーネと羊飼いの青年エンディミオンの不思議な愛の物語をご存知ですか?
ある晩のこと。
セレーネは、ぐっすり眠っている羊飼いの美少年エンディミオンを見かけました。その美しい寝顔に、そっと口づけを。エンディミオンに恋をしたセレーネは、つぎの晩も、またつぎの晩も、眠るエンディミオンのもとを訪れました。
そうして、目を覚ましたエンディミオンに、こう言いました。
「もし私の愛を受け入れてくれるのなら、あなたに永遠の若さと美貌をあげる」と。
セレーネの愛を受け入れたエンディミオン。
彼は現在のトルコのあたりにあったといわれる、ラトモスという山の奥深くに、今も美しい少年のまま眠り続けているそうです。
日本人によって打ち上げられた「かぐや(セレーネ)」
アポロ計画以降、最大の月探査ミッションとなったのが、2007年に種子島宇宙センターから日本人によって打ち上げられた「かぐや(セレーネ)」です。
正式名称の「セレーネ」こそ、先ほどご紹介したギリシャ神話に登場する月の女神セレーネに由来します。「かぐや」という愛称はJAXAの一般公募によって決定されました。これはもちろん、月にかえった竹取物語のかぐや姫のこと。
「かぐや(セレーネ)」がハイビジョン映像でとらえた月面の風景は、新たな月体験の感動を私たちにもたらし、世界中が歓喜しました。「かぐや」により月の裏側の世界が明らかになり、収集された膨大なデータはこれから長い時間をかけて分析されていきます。
地球にもっとも近く、夜空から私たちを照らし続けている月。
そこには、まだまだわからない神秘がたくさんありますね。わからないからこそ、人は月に惹きつけられるのでしょう。
月と暮らしてきた古の人々
さて、日本人はいつの時代も月に寄り添い、月とともに暮らしてきました。
月には驚くほど、さまざまな呼び名があるんですよ。
●「新月」は1日頃の月。「朔(さく)」ともいいます。旧暦では「朔」を毎月1日としており、新月がひと月のはじまり。新月は、地球、月、太陽の順番で一直線に並ぶため、光は届かず、すべてが闇に包まれます。
●「繊月(せんげつ)」といえば、2日頃の月。夕暮れ時、空に浮かぶ淡く細い月のこと。
●「三日月(みかづき)」は、3日頃の月。細く美しい形をした三日月は「若月(わかづき)「眉月(まゆづき)」「初月(ういづき)」等とも呼ばれているんですよ。
●「上弦の月(じょうげんのつき)」は、7日~8日頃の夕、西の空に明るく輝く月のこと。上り月のことで、「上旬の半月」のことをさした呼び名です。形が弓に似ていることから、この名前がついたといわれています。

上弦の月
●「十日夜の月(とおかんやのつき)」といえば、10日頃、上弦の月よりもぷっくりとふくらんだ月です。旧暦の10月10日には、月を眺める「十日夜」と呼ばれる行事が行われていたとか。
●「十三夜月(じゅうさんやづき)」は有名ですね。十三夜は満月に次いで美しい月とされ、旧暦の9月13日、豆や栗を供えて月見の宴が行われていました。

十三夜月
ちなみに、2019年の十三夜は10月11日(金)です。
今では十五夜がお月見の日として有名ですが、古の人たちの間では、十五夜と十三夜、二夜の月を眺めないと、「片見月」と呼び、縁起が良くないとされていました。
●「十四日月(じゅうよっかづき)」は、14日目頃の月。翌日の満月を待つという意味から、「待宵月(まちよいづき)」という素敵な呼び名があります。
●「満月 (まんげつ)」は15日目頃の月。「十五夜月(じゅうごやづき)」 「望月(もちづき)」とも呼ばれます。実は、満月の中でウサギが餅をついているというのは、満月の「望月(もちづき)」が、「餅搗き(もちつき)」の響きに似ているために生まれたお話だそうです。

満月
●「十六夜 (いざよい)」16日頃の月。望月よりも月が出てくるのが遅れるため、ためらいがちという意味のある「いざよい」と名づけられたとか。
●「立待月 (たちまちづき)」は17日頃の月。ためらいがちに出てくる十六夜よりもさらに遅く月が出てくるので、いまか、いまかと立って待つ、「立待月 (たちまちづき)」と呼ばれていました。
●「居待月 (いまちづき)」は18日頃の月。立って待つには長すぎるので、昔の人は座って月の出を待っていたのですね。
●「寝待月 (ねまちづき)」は19日頃の月。この頃になると、横になって待たないとならないくらい月の出は遅くなります。

寝待月
●「更待月 (ふけまちづき)」は20日頃の月。 夜更けに月が昇ります。
●「下弦の月(かげんのつき)」は、23日頃の月をあらわす言葉。「上限の月」同様、月を弓に見立てて、こう呼ばれたそうです。
●「有明月(ありあけづき)」は、26日頃の月。夜明けの空、有明の空に昇る月のこと。

有明月
●「三十日月 (みそかづき)」はそのまま、30日頃の月。月末のことを「晦日(みそか)」というのは、このためです。また、月が真っ暗で見えないことから、「つきがこもる」「つごもり」に転じ、「晦日(つごもり)」とも呼ばれたそうです。
いかがでしたか?
満月はもちろんのこと、満ちては欠けていく月の姿、月の出を心待ちにしていた古の人々。たとえ雨や雲で月が見えなくても、古の人は月に寄り添い、月を思い、月とともに暮らしてきたのですね。
さあ、今夜はどんな月が輝いているでしょう。
もっとも月が美しいとされる「月見月(つきみづき)」。
月を眺め、ゆったりとした夜を過ごしませんか?
次回は、9月14日に魚座で生じる満月が私たちにもたらすギフトについてご紹介します。私たちの心がけ次第では、満月から7日後に変化を感じることが出来るかもしれません。どうぞ、お楽しみに。
参考文献:さとうめぐみ『毎日が満たされる旧暦の魔法』 / 山下景子『二十四節気と七十二候の季節手帖』
三浦奈々依 のプロフィール

フリーアナウンサー・神社仏閣ライター・カラーセラピスト。
ラジオ番組にて20年以上にわたり、音楽番組を担当。
東日本大震災後、雑誌Kappoにて約7年にわたり「神様散歩」の連載を執筆。心の復興をテーマに、神社仏閣を取材。
全国の神社仏閣の歴史を紹介しながら、日本の文化、祈りの心を伝えている。
被災した神社仏閣再建の一助となる、四季の言の葉集「福を呼ぶ 四季みくじ」執筆。
→ http://ameblo.jp/otahukuhukuhuku/
アマゾン、全国の書店、世界遺産・京都東寺等で販売。
カラーセラピストとしても全国で活動中。
旅人のような暮らしの中で、さまざまな神社仏閣を訪ね、祈り、地元の人々と触れ合い、ワインを楽しむ。