人恋しさを癒す ~鍋と日本酒~『四季に寄り添い、祈るように暮らす(連載第二十九回)』

2019.11.15

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三浦奈々依 ( フリーアナウンサー )

フリーアナウンサー・神社仏閣ライター・カラーセラピスト。
ラジオ番組にて20年以上にわたり、音楽番組を担当。東日本大震災後、雑誌Kappoにて約7年にわたり連載「神様散歩」を執筆。『福を呼ぶ 四季みくじ』出版。カラーセラピストとしても全国で活動中。

東北では夜更けなど、ぷるぷるぷるっと寒さに体が震える季節になりました。

皆さんが暮らす町はいかがですか?

よく「人恋しい」と言いますが、日本の季語に「火恋し(ひこいし)」というものがあります。

冬を間近にして肌寒さを覚え、火のあたたかさが恋しく感じる、という意味で用いられる言葉です。人の温度と、火の温度。「人恋しい」は心、「火恋し」は体が求めるあたたかさかもしれませんね。

私はこの時季になると、頭に「日本酒」「鍋」という二文字が浮かびます。

先日も、気心の知れた友人と「日本酒の会」に参加。隠れ家的な路地裏の一軒で、選りすぐりの日本酒を味わいながら、ぐつぐつと煮込まれたおでんに舌鼓を打ちました。おでんに日本酒。もう、最高ですね!ちなみに、料理の〆はカレーうどんでした。

今日は「人恋しさを癒す ~鍋と日本酒~」と題して美味しいお話を。

誰もが知る、あの人が愛した大人の絶品鍋のレシピもご紹介します。

あの人が愛した、おもてなしの鍋

皆さんがお好きな鍋料理といったら何ですか?

鍋の種類も、水炊き、豚しゃぶ、トマト鍋、キムチ鍋、もつ鍋、豆乳鍋、寄せ鍋、雪見鍋、チーズ鍋、おでん鍋……と、挙げたらきりがないですね。

私の父の故郷では、兜の形をした鍋で食べる義経鍋も人気です。

その昔、源義経が平泉に落ちのびる際、捕らえた鴨を鍋の代わりに兜で料理したのが始まりとされ、兜の頭の部分でネギや白菜といった野菜の水炊きを、ポン酢で。また、鉄板部分で馬肉を焼いてタレで食べるという、一石二鳥のニークな鍋。上質な馬肉は胃もたれなくさらりと食べられます。

お墓参りに行く度、父と妹の思い出話をしながら義経鍋をいただいています。

今日は数ある鍋料理の中から、「毎夜食べても飽きない!」と人気を集める常夜鍋(じょうやなべ)のレシピをご紹介しましょう。

私がこの常夜鍋を知ったのは、テレビドラマの脚本家、エッセイスト、小説家として知られる、今は亡き向田邦子さんがきっかけでした。向田さんは生前、編集者の皆さんを自宅に招き、常夜鍋を振舞っていたそうです。

我が家では休日のランチパーティーでも、頻繁に登場する鍋。

向田さんの常夜鍋のポイントは、お手製のつけだれ。これは、絶品ですよ!

常夜鍋 材料 二人分

・豚ロース肉(しゃぶしゃぶ用) 200g
・ほうれん草 2束
・日本酒 2~3カップ(お酒の香りが気になる方は、酒4に対し、水6の割合で)
・にんにく 1かけ
・小さめの生姜 1こ

<つけだれ>
・レモン 一人1こ
・醤油

STEP:1 ほうれん草を切る

ほうれん草はそのままでもOKですが、もし、お時間があればほうれん草のアク抜きを。

アク抜きは、水1リットルに対し小さじ1/2の塩を入れ沸騰させ、沸騰したら、ほうれん草の茎の根元部分を湯につかるように鍋に入れ、10秒たったら葉の部分も入れて20~30秒弱茹でます。その後、ざるにとり冷水で洗い流して、食べやすい大きさに切ります。

STEP2 鍋に食材を入れる

鍋に酒とスライスしたにんにく、生姜1こを入れ、火にかけます。

沸騰したら弱火にして豚肉をいれ、ほうれん草はさらっと日本酒をくぐらせ、豚肉と一緒にレモン醤油につけてお召し上がりください。

向田邦子さんのお気に入り、レモン醤油。酢橘や柚子ではなく、レモンというのが、なんとなく向田さんらしいなと思いました。日本酒のコクとレモンの爽やかさが絶妙にマッチ。これは本当に美味!ポン酢も準備すれば、二通りの味がお楽しみいただけます。醤油にレモンを絞りながらいただく豚肉とほうれん草はクセになる美味しさですよ。

ただし、常夜鍋はアルコール度数の高い日本酒を使って調理しますので、湯気で酔っ払ってしまう可能性もあります。調理中はしっかりと換気をしましょう。また、コンロで調理をする場合、コンロ周辺にキッチンペーパー等、引火しやすいものを置かないように注意してください。

常夜鍋、今夜にでもいかがですか?

日本酒で神様の力を授かる

実は、「福」という文字。神様から授かっためでたいお酒をあらわす言葉だそうです。

神事終了後、神前に供えた御饌御酒(みけみき)を神職をはじめ、参列者でいただく「直会(なおらい)」が行われますが、本来はこの直会も、神事、祭典の一部です。

神前に供えた御饌御酒をみんなでいただくことは、神様との結びつきを強くし、その力を分けていただくこと。神様と人とがひとつとなることが「直会」の意義とされ、宮中において、毎年行われる新嘗祭(にいなめさい)で、天皇陛下が新穀を神々に捧げ、また自らも召しあがるという儀礼にも、「神人共食」という祭りの根本的な意義が示されています。

令和となった今年、新天皇陛下が即位して初めて行う新嘗祭「大嘗祭(だいじょうさい)」の中核行事である「大嘗宮(だいじょうきゅう)の儀」が15日未明に行われ、テレビ等でも報道されました。

五穀豊穣、国家安寧を祈り、新穀を供え、陛下自らも食す儀式。

今後、陛下が宮殿で参列者と酒食を共にされる「大饗の儀(だいきょうのぎ)」等が行われます。

私が執筆致しました「福を呼ぶ 四季みくじ」には、「笹の露」というお酒のカードがあります。「福よこいこい」という気持ちでお酒を楽しもう、というメッセージが込められた一枚。

米と水からつくられるお酒は「神様からのお福分け」。

私たちも「ありがたい」という気持ちでお酒をいただいて、福運を授かりましょう。

香りで楽しむ日本酒

さて、ワンランク上の日本酒の楽しみ方として「香り」で、日本酒を楽しんでみませんか?

日本酒にはさまざまな香りの呼び名があります。

飲む前からふわっと立ちあがる美しい香りは、「上立ち香(うわだちか)」。

あまり香りが感じられないという時は、少し常温に戻すとよいそうです。また、ワイングラスに日本酒を注いで、グラスを数回まわして空気と触れさせると、より一層香りが立って感じられるでしょう。

そして、日本酒を口に含んだ瞬間、鼻に抜けていく香り「含み香(ふくみか)」を楽しみ、

日本酒を喉に送り出す時に感じられる「吟香(ぎんか)」を味わう。

最後は、日本酒を飲み込んだ後、鼻に抜けるように感じられる香り「返り香(かえりか)」を、過ぎゆく日々を惜しむように味わってください(笑)。

私はワインはもちろん、日本酒も大好きで、さまざまな酒器で日本酒を味わっています。中には、もう10年以上使い続けている酒器も。

鍋を囲み、友人たちに好きな酒器を選んでもらって、「ありがとう!」と言って、乾杯。

そんなひとときが、明日への活力になっています。

人恋しい、火恋しの季節。

鍋と日本酒で、心も体もぽっかぽか。美味しいものに癒されて、忙しい明日もがんばりましょう。

三浦奈々依 のプロフィール

三浦奈々依

フリーアナウンサー・神社仏閣ライター・カラーセラピスト。

ラジオ番組にて20年以上にわたり、音楽番組を担当。

東日本大震災後、雑誌Kappoにて約7年にわたり「神様散歩」の連載を執筆。心の復興をテーマに、神社仏閣を取材。

全国の神社仏閣の歴史を紹介しながら、日本の文化、祈りの心を伝えている。

被災した神社仏閣再建の一助となる、四季の言の葉集「福を呼ぶ 四季みくじ」執筆。


http://ameblo.jp/otahukuhukuhuku/
アマゾン、全国の書店、世界遺産・京都東寺等で販売。


カラーセラピストとしても全国で活動中。
旅人のような暮らしの中で、さまざまな神社仏閣を訪ね、祈り、地元の人々と触れ合い、ワインを楽しむ。

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