2020.3.13
心のアンチエイジング ~不安な心を癒し、花笑む毎日を~ 『四季に寄り添い、祈るように暮らす(連載第四十三回)』

3月11日~3月15日頃は、第八侯「桃始笑(ももはじめてさく)」。
桃の花が咲き始める頃です。「咲」ではなく、「笑」という文字が使われていることに気づき、調べてみたら、昔の人は笑い顔を花の咲くことにたとえ、「花笑む(はなえむ)」と言ったそうです。
花が咲くことも、花笑む。
美しい感性ですね。
新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、不安な気持ちは増すばかり。さまざまなことが制限される毎日、いつ収束するのか先が見えないこの状況の中で「コロナ疲れ」「コロナハラスメント」という言葉も聞かれるようになりました。
こういう時こそ、花笑む時間を大切に過ごしましょう。
部屋に花を飾る、家族との時間を大切に過ごす、手の込んだ料理を作る、読書を楽しむ、部屋を掃除する、ゆっくりお風呂につかる、夜は早めに休む、朝は早起きをして軽いストレッチをする等々……
肌が潤いを失うと老化がすすんでいくように、心が潤いを失うと私たちの毎日から輝きが消えていきます。心潤う時間を大切に。
神戸の生田神社を参拝した際、桃の木を見つけました。生田はかつて活田といわれ、昔から桃とゆかりがあったそうです。
「3月も末になると、美しい花の景色が楽しめますよ」と、生田の森を散歩中の方に教えていただきました。
桃の花、桃の実には神秘の力が宿っていると信じられています。それは「祓い」の力。
今こそ、桃の力をチャージして不安な心を癒しましょう。
今日は「桃」にまつわるお話を。
見ているだけでほっこりする、毎日が旬の可愛らしい桃のお饅頭、美しい桃源郷もご紹介します。
神話に登場する桃
『古事記』では、亡くなった妻イザナミを連れ戻すため、イザナギは黄泉の国へ向かいます。
「もう一度戻ってきておくれ」と懇願するイザナギ。
イザナミは、「私は黄泉の国で作った食べ物を食べてしまいましたので、もう帰れません。でも、愛するあなたが迎えに来てくださったのだから、私も帰りたい。黄泉の国の神と相談しましょう。それまでの間、決して私の姿を見ないでください」と言って、御殿の中へ。
なかなか出てこないイザナミにしびれを切らし、イザナギは御殿を覗いてしまうのです。
そこで目にしたものは、イザナミの醜い姿……
驚いたイザナギは一目散に逃げ出しました。
怒ったイザナミは、黄泉醜女(よもつしこめ)にイザナギの後を追わせました。
黄泉醜女からは何とか逃げ切ったものの、イザナギは八柱の雷神と黄泉の国の1500人の軍隊に追われることになります。
ようやく、この世とあの世の境にある黄泉比良坂(よもつひらさか)の坂の下までたどり着いたイザナギは、そこに生えていた桃の木から、桃の実を三つとって化け物に投げつけ、助かりました。
イザナギは、その桃の実に「私を助けたくれたように、 葦原中国(あしはらなかつこく)の人々が、辛いこと、苦しいことに出合った時、どうか、私と同じように助けてやって欲しい」と告げ、桃の実に意富加牟豆美命(おほかむづみのみこと)という名を授けたと伝えられています。
桃が持つ祓いの力
『古事記』の他、『日本書紀』にも類似する逸話が登場することから、桃は古来より鬼を避ける「神の実」として知られるようになりました。
雛祭りも「桃の節句」と呼ばれていますね。
今年の雛祭りは友人のお母様が作ったまん丸の雛人形を見て、ほっこりしました。
そもそも「節句」とは、季節の変わり目の「忌み日」に行事を行う習慣のこと。中国から伝来したと伝えられています。
中でも3月3日、5月5日、7月7日、9月9日といった、月と同じ数字の重なる日は特別な忌み日。奇数は陽数であり、それが重なることは大変めでたく、季節ごとに魔除けとなる節句料理を食べて、また、季節の植物を用いて邪気を払い、無病息災を願う行事が現在も行われています。3月3日は桃の花を飾り、5月5日は菖蒲湯につかりますね。
よく、「雛人形を出しっぱなしにしていると、お嫁にいけない」といわれますが、それは、厄がついたものを放置しない方が良い、という考え方からきているのでしょう。雛人形をまだ飾りっぱなしにしている方、この記事を読んだらすぐに片づけましょう(笑)。
雛人形はもちろん、桃の花にも邪気を祓う重要な役割があります。
暦のずれから、現在の雛祭りより少し遅れて、今時季から桃の花が開き始めます。祓いの力を秘めた桃の花を部屋に飾り、邪気や不安とさようならしませんか。
本物!?と見まごう桃のお饅頭
信玄餅でおなじみ、甲州桔梗屋さんで作っている、爽やかな酸味の角切りピーチゼリー入りの白餡を小麦粉生地で包んだ、桃を模したお饅頭。本物の桃と見まごうお菓子です。
お口に入れると、ふんわり桃の香りが広がります。
お土産の箱を開けた瞬間、「わぁ!可愛い~」と女子たちの歓声が。さくらちゃんチョイスの桃のお菓子は、心に春を運んでくれました。お菓子なら一年中、美味しい桃が楽しめますね。
福島の桃源郷
「桃源郷」とは、世俗を離れた別世界のことを指す言葉。
その由来は、中国の詩人・陶淵明(とうえんめい)の散文学『桃花源記(とうかげんき)』。
『桃花源記(とうかげんき)』は、桃の花が咲く美しい林に迷い込んだ武陵(ぶりょう)の漁師が、戦のない平和で豊かな村を見つけ、もう一度その村へ行こうと試みますが、決して辿り着くことは出来なかった、という物語です。
「桃源郷」という言葉は、この物語に由来します。
福島駅から15分ほどの場所にある福島の桃源郷と呼ばれる花見山公園は、日本を代表する写真家、故秋山庄太郎氏が「福島に桃源郷あり」と、毎年訪れていた場所。
私は20年近く福島のテレビ局でレギュラー番組を担当させていただきました。第三の故郷ともいえる福島にはお気に入りの場所がいくつもあるのですが、ここ花見山は飾らない自然の美しさ、花々のやさしさを感じる特別な場所です。
水を張った田んぼに映る花々、「花の谷コース」と呼ばれる散策路を進むと、吾妻小富士が見えます。
「ほら!山の斜面の雪が、ウサギの形をして見えるでしょう?あれが種まきウサギだよ」と友人に言われ、山の斜面にウサギの姿を探しました。
種まきウサギは福島の人たちにとって、春の訪れを告げるサインです。
この花見山公園は、花木の生産農家の方が、戦中の貧しい時代から、長い年月をかけて雑木林を開墾し、生活のために花を植えたのが始まりと知って驚きました。
「この花の美しさを一人で見るのはもったいない。この喜びを万人のものに」との思いで、昭和34年に畑を無料で一般開放なさったそうです。
そういう美しい心を持った方が大切に育てた花だからこそ、あれほど美しく咲くのでしょう。
花見山公園は、現在も多くの市民や観光客に親しまれています。
桃の花はもちろん、八重桜、うこん桜、天の川、寒緋桜、おかめ桜、染井吉野と、桜だけでもたくさんの種類が。その他、連翹(れんぎょう)、木瓜(ぼけ)、木蓮、利休梅(リキュウバイ)等、花々で彩られた花見山公園を訪れる度、「春山如笑(しゅんざんわらうがごとし)」「山笑う」という言葉を思い出します。春の穏やかな山の景色は、本当に山が笑っているかのように見えるんですね。
百花繚乱、花見山公園のいちばんの見頃は4月上旬から中旬頃です。
人も、花も山も笑う、幸せなひととき。福島の桃源郷に是非一度、足をお運びください。
いかがでしたか?
私が執筆した『福を呼ぶ 四季みくじ』の文字を書いて下さった周玉先生が、誕生日の度にメッセージカードと一緒に贈って下さる言葉があります。
「一笑一若一怒一老(いっしょういちじゃく いちどいちろう)」
一つ笑えば一つ若返り、一つ怒れば一つ歳をとる。
この言葉と出合い、ムッとしたり、イライラしたり、怒ってしまった時は、たくさん笑おうと思うようになりました。
新型コロナウィルスの感染拡大で、不安な気持ちを抱えているのはみんな一緒ですね。
こういう時こそ思いやりの心を忘れず、笑み笑みしましょう。
笑えば笑うほど若返る。
そう思って、桃の花と一緒に花笑む毎日を。
参考文献
山下景子 『二十四節気と七十二候の季節手帖』
三浦奈々依 のプロフィール

フリーアナウンサー・神社仏閣ライター・カラーセラピスト。
ラジオ番組にて20年以上にわたり、音楽番組を担当。
東日本大震災後、雑誌Kappoにて約7年にわたり「神様散歩」の連載を執筆。心の復興をテーマに、神社仏閣を取材。
全国の神社仏閣の歴史を紹介しながら、日本の文化、祈りの心を伝えている。
被災した神社仏閣再建の一助となる、四季の言の葉集「福を呼ぶ 四季みくじ」執筆。
→ http://ameblo.jp/otahukuhukuhuku/
アマゾン、全国の書店、世界遺産・京都東寺等で販売。
カラーセラピストとしても全国で活動中。
旅人のような暮らしの中で、さまざまな神社仏閣を訪ね、祈り、地元の人々と触れ合い、ワインを楽しむ。