蝶にまつわる世界で最も美しい物語『 四季に寄り添い、祈るように暮らす(連載第四十四回)』

2020.3.19

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三浦奈々依 ( フリーアナウンサー )

フリーアナウンサー・神社仏閣ライター・カラーセラピスト。
ラジオ番組にて20年以上にわたり、音楽番組を担当。東日本大震災後、雑誌Kappoにて約7年にわたり連載「神様散歩」を執筆。『福を呼ぶ 四季みくじ』出版。カラーセラピストとしても全国で活動中。

3月16日~20日頃は『菜虫化蝶(なむしちょうとなる)』。

菜虫とは、一般的に蝶の幼虫を指し、大根やキャベツ、白菜など、アブラナ科の植物を食べる青虫のことをいいます。この時季は、青虫が羽化して蝶となる季節。

今時季から、生まれたての蝶がひらひらと庭先や田園に姿を現します。

青虫にも食の好みがあって、小型の蝶ヤマトシジミはカタバミを、アゲハチョウはミカンなど柑橘類の植物を食べると知り、面白いなと思いました。 

青虫から変身した蝶が、黄色い菜の花のまわりをひらひらと舞う。

のどかな春の風景ですね。

蝶は私たちの心にひときわ春らしい印象を残す、春の使者。

今日のテーマは「蝶」です。

新たな視点を与えてくれる世界で最も美しい蝶の物語、蝶に似た可憐な花、願いを叶える青い蝶……

世俗から離れて、しばし、蝶に思いを馳せて下さい。

世界で最も美しい蝶の物語『胡蝶の夢』

昔者荘周夢為胡蝶。栩栩然胡蝶也 
自喩適志与。不知周也。俄然覚、則蘧蘧然周也 
不知、周之夢為胡蝶与、胡蝶之夢為周与
周与胡蝶、則必有分矣。此之謂物化

荘周(荘子)はうたた寝をして、蝶になった夢を見た。
楽しくて、心ゆくばかりにひらひらと舞い、自分が荘周であることはすっかり忘れていた。
ふと、目覚めると、そこには蝶ではない自分、荘周がいた。
自分は蝶になった夢を見ていたのか。
それとも、今の自分は蝶が見ている夢なのではないだろうか……

これは、荘子による説話。古代中国の思想家、老子、荘子の両者の思想をまとめて、老荘思想(ろうそうしそう)といいます。

荘子の思想の基本となっているのは、老子が唱えた「無為自然(むいしぜん)」。

作為がなく、自然体であるということ。

荘子は「無為自然」の考えをさらに進めて、何にもとらわれず、自由な世界に心を遊ばせ、絶対的自由の精神を身につける「逍遥遊(しょうようゆう)」という考え方を説きました。

自分は蝶になった夢を見ていたと思っているけれど、本当は蝶である自分が人間になった夢を見ているだけではないだろうか。

自分が蝶以外のものであろうなどとは思いもしなかった、あの夢の中の蝶のように、人生は儚い夢で、私たちはそれに気づかずに生きているだけなのかも知れない。

思ってもみなかった荘子の視点に驚かされました。

この荘子の説話から、蝶は「夢見鳥」と呼ばれるようになったそうです。

夢を叶える夢見鳥

死期が近づいて人生を振り返った時、それがあたかも夢のようであったと思うことを、『胡蝶の夢』にちなみ、「胡蝶の夢の百年目」というそうです。

私が執筆した『福を呼ぶ 四季みくじ』には、「夢見鳥」のカードがあります。

「夢という羽根を得てひらり空へ舞い上がれ!サナギか蝶か、未来はあなたの夢次第」

というメッセージを持つカードは、『胡蝶の夢』から生まれました。

一度きりの人生です。心に夢を描きましょう。

夢なんてない、という皆さんはフリーハンドで夢を描けるチャンスです。

早速、夢に向かって小さな一歩を踏み出してみませんか?

イチローや本田圭佑といったアスリートたちも、子どもの頃から書いていた「夢ノート」。

まるで、ドラえもんの四次元ポケットから出てきそうなノートですが、あなたの夢を書き出すということは、夢と向き合うこと。

夢と向き合い続けることで、夢はスクスクと育っていきます。

夢を見る鳥は蝶。夢を見る草「夢見草」は桜。2020年、東京靖国神社の桜も開花しました。

桜が咲き、青虫が羽化して蝶となる季節、心に夢を。

あなたの夢に命を与えて下さい。

蝶遊花

遊蝶花(ゆうちょうか)は三色菫(さんしきすみれ)、パンジーの異称です。

幕末、パンジーが日本に渡ってきた当時、蝶が舞う姿に似ていることから遊蝶花、胡蝶菫(こちょうすみれ)などと呼ばれていたそうです。

春から夏にかけ、紫や白、黄色等の花を咲かせる遊蝶花。

神戸市の中心である三宮。ここから海側に延びるメインストリートであるフラワーロードでは四季折々の花が楽しめます。

マスクをして無言で行き交う人々も、信号待ちの時間、花壇で花笑む遊蝶花に心癒されているのではないでしょうか。

番組で、花を通じて新しい生活を提案する仙台の株式会社Magenta代表取締役・山田剛さんにお話を伺った時のこと。

「花が届けるのは、やさしい気持ちです」

そう、おっしゃる山田さんの言葉に深くうなずきました。

花は陽だまりのような温かさ、やさしい気持ちを届けてくれますね。

私は亡くなった妹のために欠かさず部屋に花を飾る習慣があるのですが、こまめに水を変えるなど、心をかけると、花は長持ちします。

昨年の12月18日、司会でお世話になったイベントでお花をいただきました。

バラの花も一カ月以上持ちましたし、銀のスプレーでコーティングされた枝ものも新芽を出し、紫陽花はあれから約三カ月が過ぎて、最後の一輪、装飾花(花だと思われている部分)が花笑んでいます。

花も一生懸命に生きています。花の美しさは、まさに命の輝きですね。

心が疲れている時は、家やオフィスに花を飾りましょう。

花を一輪飾れば、自然と部屋を片付けようと思い、心も空間も美しく整っていくものだと思います。

 

いかがでしたか?

アメリカ先住民の部族の間では、蝶に願い事をして、その蝶が天へと飛んでいく時、願いは叶うと信じられているそうです。また、青い蝶を幸運の兆しと捉える文化も。

私は神社の境内で二度ほど、青い蝶を見かけたことがあります。一度目は、伊勢国鈴鹿山系の中央麓に鎮座する椿大神社の手水で。二度目は岩手県八幡平の桜松神社の境内、渓流に沿った遊歩道を歩いている時のことでした。

神域を舞う、鮮やかな青に目を奪われました。

椿大神社の神職様に蝶について尋ねると、「よく、手水鉢に水を飲みにいらっしゃいますよ」と、にっこり。蝶はきれいな水を好むのだそうです。

その年の春に初めて見かける蝶は、「初蝶(はつちょう)」。

皆さんにとっての初蝶は、どんな蝶でしょう。

楽しみですね。

 

参考文献

山下景子『二十四節気と七十二候の季節手帖』
小学館『日本の歳時記』
株式会社JMA・アソシエイツ『SACRED DESTINY』

三浦奈々依 のプロフィール

三浦奈々依

フリーアナウンサー・神社仏閣ライター・カラーセラピスト。

ラジオ番組にて20年以上にわたり、音楽番組を担当。

東日本大震災後、雑誌Kappoにて約7年にわたり「神様散歩」の連載を執筆。心の復興をテーマに、神社仏閣を取材。

全国の神社仏閣の歴史を紹介しながら、日本の文化、祈りの心を伝えている。

被災した神社仏閣再建の一助となる、四季の言の葉集「福を呼ぶ 四季みくじ」執筆。


http://ameblo.jp/otahukuhukuhuku/
アマゾン、全国の書店、世界遺産・京都東寺等で販売。


カラーセラピストとしても全国で活動中。
旅人のような暮らしの中で、さまざまな神社仏閣を訪ね、祈り、地元の人々と触れ合い、ワインを楽しむ。

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