人生の旅立ちを守護する杜の都のちいさな神社『四季に寄り添い、祈るように暮らす(連載第五十二回)』

2020.5.15

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三浦奈々依 ( フリーアナウンサー )

フリーアナウンサー・神社仏閣ライター・カラーセラピスト。
ラジオ番組にて20年以上にわたり、音楽番組を担当。東日本大震災後、雑誌Kappoにて約7年にわたり連載「神様散歩」を執筆。『福を呼ぶ 四季みくじ』出版。カラーセラピストとしても全国で活動中。

仙台は、一年でいちばん美しい季節を迎えています。

緑の小道を散歩しながら、万緑(ばんりょく)という言葉が心に浮かびました。

見渡す限りの緑。「茂」よりも広範囲な情景を表す言葉です。

大地から湧き上がってくる緑の力を感じますね。

「万緑」という言葉は、北宋の政治家であり文学者であった王安石(おうあんせき)の詩の一節に出てきます。

つい先日まで花を咲かせていた木蓮も、気がつけば緑一色に・・・

今日は、杜の都「仙台」に鎮座するちいさな神社をご紹介しましょう。

古より旅人を見守ってきた観光ガイドには載っていない、ですが、政宗公が初めて上洛する際、道中の安全を祈願したと伝えられる歴史ある神社。

神様の名付け親は政宗公です。

新型コロナウイルス感染拡大により人生が一変、また、これから人生が大きく変わるであろう方もたくさんいらっしゃると思います。こちらの神社は人生の新たな旅立ちを守護して下さいます。

その名も、『旅立稲荷神社』。通称、旅立ちさん。

しばし、万緑の仙台を一緒に旅しませんか?

心がほっこりする旅立さん

私は仙台の雑誌「Kappo」にて約7年半にわたり、「みちのく神様散歩」という連載を書かせていただきました。東日本大震災後、心の復興をテーマとして始まった連載。さまざまな神社を訪ね、神職の皆様のお話を伺いました。

『旅立稲荷神社』にも2013年に取材へ。

個人的にも、よく参拝に訪れている旅立ちさん。家からさほど遠くない場所にあり、また、境内の階段は土手へと続いていて、広瀬川を眺めながらのんびりとした時間を過ごす、私のお散歩コース。

まっすぐ続くこの道を、子どもたちが自転車で颯爽と駆け抜けていきます。

手水は、お狐さん。ちょうどこの時季はつつじの花が満開。

風が吹くと、境内の絵馬がカラカラカラ~と音を立て、心がほっこりするやさしい神社です。

旅立ちさんの歴史

『旅立稲荷神社』の創建は今から約900年前。誰が創建したかは伝わっていません。

政宗公が初めて上洛する際、道中の安全を祈願したと伝えられ、無事に着京出来た神恩に感謝し、「旅立大明神」という名を贈り、伊達家上下の際は必ず旅の安全を祈るようになりました。

社殿に掲げられた「正一位旅立大明神」という扁額は、仙台藩五代藩主・吉村公直筆によるもの。正一位(しょういちい)とは神階の最高位にあたります。

 当時、82歳だった荒井宮司様にお話を伺いました。

境内に流れる空気そのままの、やさしい笑みをたたえた宮司様の案内で境内へ。

赤い鳥居をくぐると、「保食(うけもち)神社」という文字が刻まれた二の鳥居が連なるようにして立っています。稲荷神社では宇迦之御魂大神(うかのみたまのおおかみ)や保食神などを主なご祭神に。宇迦は「食(うけ)」のことで、穀物を意味します。

こちらの神社、明治3年に「保食神社」に改称されましたが、今も「旅立ちさん」として親しまれています。

社殿をお守りする狛犬さん。

まるで、「はいはい、おかえり」「おやまぁ~、よく来たね」と迎えてくれる故郷のおじいちゃんや、おばあちゃんのような懐かしさ、あたたかさを感じて心が和みます。

足の太さもちょっぴり違うところが、また味わい深いと思いませんか?

境内には、微笑むお地蔵様がいらっしゃいます。

「このお地蔵様の名前はね、まりこちゃん」と、宮司様。

冗談かと思い、「まりこちゃんですか・・・?」と思わず聞き返してしまったのですが、いつからか、氏子の皆さんに「まりこちゃん」と呼ばれるようになったそうです。

夜はまだ少しひんやりするせいか、手作りのマフラーを首に巻き、帽子をかぶっていました。

旅立ちさんの賽銭箱の上に吊るされた神鈴は、すべて音色が違うんですよ。

人生の旅立ちに幸せを願う

『旅立稲荷神社』は旅行はもちろん、転勤、転職、引っ越し、結婚など、人生の新たな旅立ちの時に守護を願い、参拝に訪れる人が多いそうです。

また、何故か文筆家の方の参拝も多いとか。

私は出張の度、新幹線や電車の窓から見える旅立ちさんに、いつも心の中で手を合わせています。

「いってきます」「ただいま」、時には「仕事がうまくいきますように・・・」と。

時を遡ること、約380年前。

政宗公は旅立大明神に見送られ、江戸へと向かいました。

体調も思わしくない中での上洛。おそらく生きて帰ることはないと覚悟していたに違いありません。

江戸に入った約一カ月後、政宗公は桜田屋敷でその生涯に幕を下ろしました。

亡骸は生前さながらの大名行列により、仙台の地へと帰ったそうです。

初めて上洛する際、政宗公が道中の安全を祈願した『旅立稲荷神社』。

あれから、長い人生の旅を終えて亡骸となって仙台へ帰ってきた政宗公を旅立大明神は「おかえりなさい」と、やさしく迎えたのではないでしょうか。

そして、政宗公の新たな旅立ちが安らかなものであるよう、守護して下さったに違いありません。

ある日のこと

ある日のことです。

いつものように旅立ちさんを参拝して、土手に上がり、ひとりでぽーっとした時間を過ごしていました。

振り返ると、社殿で祈りを捧げている宮司様のお姿が。

15分ほどして社務所をお訪したのですが、その時初めて、宮司様が天国に旅立たれたことを知りました。

夏の夕暮れ。

今でも忘れることの出来ない思い出です。

三浦奈々依 のプロフィール

三浦奈々依

フリーアナウンサー・神社仏閣ライター・カラーセラピスト。

ラジオ番組にて20年以上にわたり、音楽番組を担当。

東日本大震災後、雑誌Kappoにて約7年にわたり「神様散歩」の連載を執筆。心の復興をテーマに、神社仏閣を取材。

全国の神社仏閣の歴史を紹介しながら、日本の文化、祈りの心を伝えている。

被災した神社仏閣再建の一助となる、四季の言の葉集「福を呼ぶ 四季みくじ」執筆。


http://ameblo.jp/otahukuhukuhuku/
アマゾン、全国の書店、世界遺産・京都東寺等で販売。


カラーセラピストとしても全国で活動中。
旅人のような暮らしの中で、さまざまな神社仏閣を訪ね、祈り、地元の人々と触れ合い、ワインを楽しむ。

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