2020.5.29
言霊の幸ふ国 ~今使いたい日本の言の葉~『四季に寄り添い、祈るように暮らす(連載第五十四回)』

気がつけば、間もなく5月も終わりですね。
この時季は全国各地の神社で、「御田植祭(おたうえまつり)」という田の神を迎え、田植えをする神事が行われています。
地域によっては6月、7月に行うところもあるようです。
私が暮らす宮城県岩沼市の竹駒神社では5月26日に、宮司様が豊作を願う「祝詞」を読み上げたあと、神職の皆様の手によって「ひとめぼれ」の苗が一本一本、植えられました。
例年であれば、県農業大学校の学生たちが集まり、田植えが行われていましたが、今年は密集を避けるため、規模を縮小しての開催。
皆さんの町はいかがですか?
御田植祭で植えられた苗は、9月の抜穂祭で収穫され、11月の新嘗祭で神社の本殿に奉納されます。
稲作の国、日本ならではの神事ですね。
今日は、この時季の美しい四季の言の葉をご紹介しましょう。
青時雨(あおしぐれ)
時雨といえば、冬の初めに降る、通り雨のこと。冬の季語となっています。
青時雨とは青葉の頃、雨上がりの木々の下を通った時に雫が落ちてくるさまを表す言葉。
木々の緑にみなぎる生気が、雫となってきらきらと零れ落ちる。
なんとも艶やかな美しさを感じる言葉ですね。
青時雨は、青葉時雨とも呼ばれます。
ぜひ、雨上がり、青時雨と出合う小さな旅に出掛けてみてはいかがでしょうか。
老鶯(おいうぐいす)
「高齢の鶯?」と思った方もいらっしゃるでしょう。
老鶯とは、夏に平地から山に移ってきた鶯のこと。昔の人は夏に鳴く鶯のことを、こう呼んだそうです。
この時季、「ホーホケキョ」と鳴く、鶯の声で目が覚めます。
鶯とホトトギスの違いがよくわかっていなかった20代の頃、アナウンス学校の先生に「ホトトギスは特許許可局(トッキョキョカキョク)と鳴きます」と教えられ、吹き出したことがあります。
その時、鶯はホトトギスの育ての親だということも初めて知りました。
ホトトギスは主に鶯の巣に卵を産み、子育てはせず、鶯に雛を育ててもらうのだそうです。
これは余談になりますが、伊達政宗公は最後の参府、出立の前に何とかホトトギスの初音を聞きたいと願いながら、その願いを叶えることなく亡くなりました。
政宗公が亡くなった日、屋敷の上をホトトギスが繰り返し鳴きまわったそうです。
それは、鶯が育てたホトトギスだったのですね。
水鏡(みずかがみ)
『福を呼ぶ 四季みくじ』には、「水鏡」のカードがあります。
水鏡とは、空や山々の樹木が、湖など水面に美しく映し出されるさまを言います。
私がこれまで見た中でいちばん感動したのは、白神山地の鶏頭場(けとば)の池で見た水鏡です。
じっと見つめていたら、いったいどちらが本物の世界なのかわからなくなるほど。
フナが池の中をすーっと横切り、夢から覚めた気がしました。
その昔、人々は水面に自らの姿をうつし、鏡の代わりとしていたそうです。
祭具として用いられた鏡は、己の真実、未来をもうつし出すと信じられていたのです。
水鏡はこの時季の季語。
あなたの心を取り巻く世界は、あなたの心のうつし鏡。
今、あなたから世界はどんな風に見えていますか?
末摘花(すえつむはな)
七十二候で言えば、今は紅花が盛んに咲く時季。東北では、山形が紅花の産地として有名です。
紅花はその昔、末摘花(すえつむはな)、紅藍(べにあい)、久礼奈為(くれない)などと呼ばれていました。どれも美しい響きがありますね。
王朝浪漫『源氏物語』に登場する、常陸宮が残した姫君のあだ名は紅花に由来します。
姫君が真っ赤な鼻をしていたことから、光源氏が紅花の紅とかけて「末摘花」と呼びました。
美しい女性たちが数多く登場する物語の中で、決して美しいとは言えない末摘花ですが、晩年、光源氏により二条東院に引き取られ、穏やかな人生を送りました。
いかがでしたか?
良き言葉、美しい言葉は、人生にしあわせを運びます。
古より受け継がれてきた四季の言の葉を、毎日の暮らしに・・・
参考文献
お家で楽しむ デイリーおみくじ『福を呼ぶ 四季みくじ』
三浦奈々依(文)、観瀾斎(絵)、栗原周玉(書):プレスアート(発行)
『大切な人へ送る 手紙にそえる季節の言葉365日』山下景子著 朝日新聞出版
三浦奈々依 のプロフィール

フリーアナウンサー・神社仏閣ライター・カラーセラピスト。
ラジオ番組にて20年以上にわたり、音楽番組を担当。
東日本大震災後、雑誌Kappoにて約7年にわたり「神様散歩」の連載を執筆。心の復興をテーマに、神社仏閣を取材。
全国の神社仏閣の歴史を紹介しながら、日本の文化、祈りの心を伝えている。
被災した神社仏閣再建の一助となる、四季の言の葉集「福を呼ぶ 四季みくじ」執筆。
→ http://ameblo.jp/otahukuhukuhuku/
アマゾン、全国の書店、世界遺産・京都東寺等で販売。
カラーセラピストとしても全国で活動中。
旅人のような暮らしの中で、さまざまな神社仏閣を訪ね、祈り、地元の人々と触れ合い、ワインを楽しむ。