2020.7.17
海の日 ~願いを天へと届ける神社~ 『四季に寄り添い、祈るように暮らす(連載第五十八回)』

海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う祝日「海の日」がやってきます。
通常ならば、7月の第3月曜日である7月20日が「海の日」ですが、2020年は東京でオリンピック・パラリンピックが開催される予定だったため、それにあわせ祝日も移動措置が取られていました。しかし新型コロナウイルスの感染拡大により、東京オリンピック・パラリンピックの延期が決定。
2020年だけ祝日を移動し、今年は7月23日(木)が「海の日」となります。
今日は、「海の日」にちなんで、青い海を臨む道真公ゆかりの神社をご紹介しましょう。
海風に吹かれ、石に願いを託す。知る人ぞ知る、四国の美しい神社です。
愛媛県今治市に鎮座する綱敷(つなしき)天満神社
41歳で讃岐の国司に赴任。破綻寸前の財政と窮乏に苦しんでいた讃岐の民衆を救うために慈父の如き善政を行い、財政を立て直した道真公。
その後、京の都へ戻った道真公は、その家柄からは思いもかけない程の立身出世を果たし、右大臣へ。ですが、これが引き金となり、時の左大臣であった藤原時平の策略によって無実の罪を着せられ、太宰府へ配流(はいる)されました。
その途中、暴風雨に遭遇し、今治の志島ヶ原(ししまがはら)の東入江に漂着。
村人たちは漁船の綱を敷いて、道真公をもてなしたといいます。
その温かい心遣いに感動した道真公は、自像を刻み『私は菅原道真である。もし私が、無事に京の都へ戻れたなら、この自像を持って都を訪ねなさい。私が配地で没したと耳にしたなら、この像を素波神として祀りなさい』という言葉を残し、太宰府へと向かいました。
床も朽ちた廃墟同然の屋敷で、幼子とともにわずかな生活費に、煮炊きにも事欠きながら、ただひたすら自分の無実が証明されることと、国家の安泰を願い過ごした道真公は、ほどなくして心の支えであった我が子を失い、都から妻の死の知らせを受けると、心労と病に倒れ、配流からわずか2年後、ひっそりと亡くなるのです。
素波神は、道真公の言葉通り、神社の南端の祠に祀られることとなり、今から300年前の享保5年、伊予松山藩主松平定英の命により、現在地に社殿が築かれたと伝えられています。
神さまの海で心を清める
綱敷天満神社の森は志島ヶ原と呼ばれ、国の名勝に指定されています。
広大な敷地には約2500~3000本のクロマツやアカマツ、アイグロマツの老木が立ち並び、まさに白砂青松と呼ぶにふさわしい景色が目の前に広がります。
四方を鳥居に囲まれた森。
神さまが愛でる木々は、形もユニークで見ていて飽きません。吹き渡る風もやわらか~。
思わず目を閉じて深呼吸をしました。
さぁ、可愛らしい狛犬さんに挨拶をして鳥居をくぐります。
色鮮やかな花々が咲き乱れ、蝶が舞うその先に青い海が見えました。
水が豊かな場所には、清めの素晴らしい力があります。
イザナギノミコトは黄泉の穢れから身を清めるために、阿波岐原(あはきはら;現在の宮崎県宮崎市阿波岐原町)の清らかな水で禊を行い、多くの神々を生みました。
また、日本にはミツハノメノカミ、タカオカミノカミ、クラオカミノカミ、神道仏教双方で祀られている弁財天など、水にまつわる神さまもたくさんいらっしゃいます。
神社で手を合わせ、砂浜を歩くと、心に降りつもったものがきれいに洗い流され、自然と笑顔になるでしょう。
願いを石に託して
綱敷天満神社の境内社である「素波神社」に気づかないで帰られる方も多いかもしれません。
何故か、インターネットで検索をかけてもほとんど情報は出てきません。
小さな小さなお社ですが、神職様、ご近所の皆様が心を込めて掃除をしていらっしゃるのでしょう。
ゴミひとつ落ちていません。
こちらでは『願い石』と書かれた箱から石を選び、願いをかけます。
白や緑、紫がかった石。
おにぎりみたいな形をしたものもあれば、平べったいものも。
色も形も、ひとつとして同じものはありません。
私が執筆致しました『福を呼ぶ 四季みくじ』が然るべきご縁を得て、世に羽ばたいていきますように、と願いをかけたのは2011年の終わりでした。
当時は出版も決まっていない状況で、ただひたすら、カードのメッセージを書きためていたのですが、参拝から数か月後、14年にわたり、世界遺産京都東寺で作品展を開催している仏画家の観瀾斎先生が東北のためにと無償で46枚の絵を描いて下さることとなり、その後、念願叶って、出版の運びとなりました。
東北に暮らす私にとって四国はある意味、別世界。
ですが、こちらの神社を参拝し、願いをかけてから、『四国でいちばん大切にしたい会社大賞』で素晴らしい賞を受賞していらっしゃる企業様とご縁をいただき、毎年、仕事で松山を訪れています。
お礼参りはもちろん、人生の節目節目で綱敷天満神社、素波神社に参拝に。
その度に、今治の海に心癒されています。
天から舞い降りた白い羽
つい先日、参拝に訪れた時のこと。
どこからともなく、ふわふわと白い羽が舞い降りました。
空を見上げても鳥の姿はなく、不思議だなと思ったのですが、調べてみると、道真公が都を偲び、詠んだ漢詩は鳥点文字(ちょうてんもじ)という珍しい字体で書かれていることを知りました。
空を飛んでいる鳥や、振りかえる鳥、たくさんの鳥の姿が文字となり書かれた漢詩。
そこには、鳥となって故郷へ帰りたいという切なる願いが込められている気がしました。
だからこそ、道真公は私たちひとりひとりの願いに心を傾けて下さるのかも知れません。
いつの日か綱敷天満神社の小さなお社で、あなたの願いを天へと届けて下さい。
参考文献
『お家で楽しむ デイリーおみくじ「福を呼ぶ 四季みくじ」』
三浦奈々依(文)、観瀾斎(絵)、栗原周玉(書):プレスアート(発行)
三浦奈々依 のプロフィール

フリーアナウンサー・神社仏閣ライター・カラーセラピスト。
ラジオ番組にて20年以上にわたり、音楽番組を担当。
東日本大震災後、雑誌Kappoにて約7年にわたり「神様散歩」の連載を執筆。心の復興をテーマに、神社仏閣を取材。
全国の神社仏閣の歴史を紹介しながら、日本の文化、祈りの心を伝えている。
被災した神社仏閣再建の一助となる、四季の言の葉集「福を呼ぶ 四季みくじ」執筆。
→ http://ameblo.jp/otahukuhukuhuku/
アマゾン、全国の書店、世界遺産・京都東寺等で販売。
カラーセラピストとしても全国で活動中。
旅人のような暮らしの中で、さまざまな神社仏閣を訪ね、祈り、地元の人々と触れ合い、ワインを楽しむ。