2020.8.5
ワンクッションの美意識 、大人女子のたしなみ 〜匂い袋〜 『香りと暮らし、和をたしなむ(連載第六回)』

大暑を迎えましたが、今年は長雨続き、梅雨が明けた途端、待ってましたとばかりにセミが勢いよく鳴いています。
先月は、熊本県を中心に記録的な大雨となり、各地に甚大な被害をもたらし、多くの爪痕を残しました。被害に遭われた皆様へ、心よりお見舞いを申し上げます。
心地良いを考える
ある記事で、日本人の海外での反応や印象が書かれていました。
カッコ内は、この反応や印象に対しての、私なりの解釈です。
・日本人は行儀がいい(ゴミなどのマナーの良さ、奪い合ったりせず並ぶ)
・日本人は温厚(過度に主張しない)
・日本人は気を使う 周囲に合わせる(横並び・協調性)
・日本人には本音と建前がある(会話せずとも相手の意図を察する?)
・日本人は完璧主義、細かいことにこだわる(交通機関、時間などの正確さ)
・日本人は愛国心が薄い(日本文化は好きだけどストレスの多い社会だ)
・日本人は無宗教?(神仏に祈願はするが信仰はしているのか?)
全体像として、直接的なアクションが苦手であったり、周りの雰囲気を乱さないということを大事にする傾向が伺えます。
「お国柄」と捉えた時に、生活習慣や教育、礼法などが背景にあるのでしょうね。日本人はワンクッションあるほうが心地よいのかもしれません。
例えば、間接照明に癒しやリラックスを感じませんか?食事やカフェなども、少し仕切ってあると落ち着きますよね。
香りもそうかなと思うのです。シュッと強い香りをスプレーするよりも、ほのかな優しい香りが心地よいと感じませんか。
強い香りも時には味方になります。やる気をUPしたり、強壮の効果があるので決して悪いとは思わないでくださいね。
移り香は日本人の美意識
香りを、紙や着物に移して使うその香りが「移り香」です。
ワンクッション置いた香りの活用です。
前回の「衣被香」も移り香を芳香、防虫香に使うものでした。
直接より、間接的に、という行為は日本の美意識から生まれるものなのでしょう。
また 稀少なものを大切に使う知恵でもあったのです。
誰が袖(たがそで)
匂い袋のひとつに「誰が袖(たがそで)」というものがあります。
室町時代後期に流行したもので、2つの匂い袋を紐でつないで 両袖にそれぞれの袋をいれて使います。小さな子供の手袋をイメージしていただけるとわかりやすいでしょうか。
色よりも香こそあはれと思ほゆれ 誰が袖ふれし宿の梅ぞも
(訳)うめはその色よりも香りがしみじみと趣深いと思われます。宿の梅に誰が袖がふれその移り香なのでしょうか。
*誰が袖を使っているのは高貴な方なのでどのようなお方であるのだろう。
匂い袋は御守り
厄除けの意味ももつ匂い袋。
霊木である白檀をはじめ、香薬を詰めます。
ハーブや、エッセンシャルオイルを使ったサシェも、抗菌効果や良い香りを楽しむ天然由来のものも、「匂い袋」と称されますが 先人たちは自分の住うところで最上のものを選んだのではないでしょうか。
ひとつだけ書き添えるとしたら、現在のクラフトとは違う「祈り」「願い」「祓」の心があったのだということです。
香薬 〜甘松〜
甘い松? こちらはカンショウといいます。
オミナエシ科で根をつかいます。
体験講座では話題性たっぷりの香料で、くつ下のにおいだとか、ナンプラーに似ているとか、うちの犬のにおいだとか、、まぁ経験したことから「〇〇のような」は生まれるわけです。
共通性は、動物っぽい香りです。
私はメディカルハーブのひとつ、バレリアンに似ていると思いました。
属する科が同じ植物は、似た性質や成分を持ちます。鎮静の働きがあるのも共通しています。
江戸時代に用いられた匂い袋には、この甘松香が多く調合に使われていました。
そうなんです。数種の香薬を調合することで、甘松は「いい仕事をする」わけです。
また、神仏に捧げる供香では殺生をイメージするために、動物性香料の代用として甘松が使われていたとも考えられます。
しかし、草の根から動物性に近い香りを見いだした昔の人はすごいですね。もちろん薬種としての活用が優先であったと思われますが。
良薬口に苦し、ならぬ、良薬口元に臭しかな?
これはあくまで私の体験上のことですが、お香作りにいらして初めての時に「これ いい香りですね」とか「好きです」と、甘松のケースを手放さない方は、結構お香にハマる確率が高いようです。
江戸時代の人もそうだったのかしら??興味深いところです。
携帯するお香
匂い袋は、携帯するお香としてとても気軽に使えるメリットがあります。
バッグの内ポケットや引き出し 車内にと普段使いできます。
お気に入りのケースに、小物と一緒に入れて置いたり、扉がある本棚でしたら、開け閉めのたびにふわりと香ります。
芳香 防虫 厄除に身近なところでお使いください。
今回で和の香りについて、6回目の寄稿となりました。
あらゆる場面で香りは重要です。
香りを文章で伝えるのは難しいですが、市場ではあまり見かけないものや、日本の文化に関係するお話を綴って参ります。
コロナ感染拡大が心配される日々ですが、少しでも読んでくださった方の癒しになれば幸いです。
多田博之・晴美 のプロフィール

【多田博之】
FOUATONS aroma&herb・お香school 主宰
薫物屋香楽認定教授香司
歯科医師
宮崎市にて21年間開業医として地域医療に携わる。偶然に出会ったお香の魅力に惹かれ、平日は診療、週末は東京にてお香の勉強を繰り返したのち、50歳の時に閉院しお香の活動に専念する。
現在、福岡と宮崎の教室を拠点に、NHK文化センターの講師として、九州各地と広島県にて天然香料にこだわったお香教室を開催。また香木の香りの素晴らしさや香道の魅力を伝えてたいと思い、御家流香道の研鑽を積んでいる。
平安期のお香の使われ方を勉強するなかで、紫式部の「源氏物語」に興味をもち、講座では、香道や源氏物語の視点も交えて伝える。
また、薫物屋香楽認定教授香司として、香の知識や技能をさらに深め、和の香り文化とお香づくりのスペシャリスト(香司)の育成に努めている。
【多田晴美】
FOUATONS aroma&herb・お香school
華結び組乃香 主宰
薫物屋香楽(たきものやからく)認定香司
アロマインストラクター、ハーバルセラピストを経て「香司(こうし)」として 香りの楽しみ方や使い方を紹介。
ハーブのもつフィトケミカル成分が、健康や美容など様々なジャンルで注目され、特にスパイス系ハーブは生薬との共通性があり、大陸から伝わったとされる「お香」の 香原料ともなっている。
日本の歴史や習慣に深く関わり、人々の心を癒してきた文化としての「香り」を「和」の心とともに普及する活動を福岡県や、宮崎県を基盤に全国で展開。
趣味と実益をかねて日本三芸道の一つ「香道(御家流)」や、室内を飾る「飾り結び」も研鑽中。 天然香料を使ったお香作りの講師として、メディアなどで香りの魅力と素晴らしさを発信している。
ホームページ→ https://www.fouatons.org/
Facebook→ https://www.facebook.com/miyazakifouatons/