「怒り」を「愛」に置き換える時〜「怒り」渦巻く社会で生きるということ(中編) 〜

2020.11.10

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久保多渓心 ( ライター・占術家 )

墨が織り成す一子相伝の占術 “篁霊祥命(こうれいしょうめい)” を主な鑑定手法とする占術家。他にも文筆家やイベント・オーガナイザーとしての顔も持つ。また引きこもり支援相談活動なども行なっている。

「怒り」はあっても良い

このコロナ禍の中で、長年に渡ってくすぶり続けていた日本人の「怒り」の想念が一気に表出してきたような危うさを感じながら、この数ヶ月を過ごしてきました。

一つ、誤解なきようにお伝えしておきたいのは「怒り」の感情そのものを否定しているわけではないということです。

日々の暮らしの中で、腹立たしいこと、納得できないことは多いのに「怒り」がいけないなんて言われたら、どうやって生きていけばいいの?と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

自分の中にふつふつとして湧き上がる「怒り」は、時に自分自身が重い腰を上げることに繋がることがありますし、愛する者を守る行為になることさえあります。

むしろ、人がこの社会で文化的な営みを享受できているのは、それぞれの時代を生きた人々が、ある対象に対して "抗い"、正義や公正を求めて拳を握り締めた "内なる"「怒り」という感情が礎になってきた歴史的な背景もあるのではないでしょうか。

今回のアメリカ大統領選挙もそうですね。ドナルド・トランプが招いた「分断と憎悪」の拡大に対する「怒り」が、多くのアメリカ国民の心を動かし「団結と融和」を主張したジョー・バイデンを劇的勝利に導いたのですから。

では、私が何を言いたいのか。それは「内に秘める怒り」や、「心に突然わき起こる怒り」の否定ではなく、「特定の個人に対して、その尊厳や人格を否定する "怒り"」をコントロールすべきだということなのです。

もしあなたが、今誰かを恨んでいたり、許せていなかったり、怒りに打ち震えているとしたら、そしてその感情を周囲にぶつけ、そのせいで目に映る全てのものを悲観的にしか捉えられず、自暴自棄に陥っているとしたら、それはあなた自身に必ずや等分に返ってくるでしょう。

あなたの周囲にいる人々、そしてあなたに今ある環境は、それがどんなものであろうとも、今のあなたに相応しいもの。それらは全て映し鏡です。あなたの目の前にいる人は、あなた自身が鏡に映った姿なのです。

人への「怒り」「憎悪」は、すなわち、自分への「怒り」と「憎悪」。

その対象を「許し」、「愛する」ことで、あなたはいつだって幸せを感受できるのに、それを拒んでいるのはあなたの方なのかもしれません。

 

「怒り」とは何か

「怒り」とは人間にとって、いえ生きとし生けるものにとって、とても原始的で、基本的な感情だといっても良いでしょう。進化の過程で脳に組み込まれた、生存し、繁栄するための重要な機能の一つです。

少しだけ「怒り」を、脳の構造を元に紐解いてみましょう。

主に「大脳新皮質」「大脳辺縁系」「脳幹」の3つの構造に分類される「大脳」。

大脳新皮質は、合理的な思考や言語機能を司る、いわゆる「知性」を担う部分です。大脳辺縁系は、情動の表出、意欲や記憶を司る「感情」を担います。大脳を支え、脳と脊髄とを結ぶ脳幹は、生命維持に関与する意識や呼吸を司ります。

「怒り」を感じる事態が目の前で起こった時、活発化するのがこのうちの大脳辺縁系です。大脳辺縁系の一部である「扁桃体」が目前で発生した理不尽な出来事や、不測の事態に反応し、警報を鳴らし始めます。

この警報に従って、脳の「視床下部」に対し、それらの事態に「対処」するように指令が伝わります。指令はさらに「副腎」に達して、アドレナリン 、ノルアドレナリン、コルチゾール、テストステロンの分泌を促し、攻撃的な感情を高めていくことになります。こうしたストレスホルモンの分泌は心臓にも影響を及ぼすため、「怒る」ことで心拍数は増え、血圧も上昇するのです。

一方で、この「怒り」をコントロールし、抑制する機能も脳には備わっています。それが「前頭葉」と呼ばれる部分です。

前頭葉の「前頭前野」は、創造やコミュニケーション、自制心や論理的思考、意思決定を司っており、状況に対して冷静に対処し、「怒り」を抑制する働きをしています。

研究では、「カッと」腹が立ってから前頭前野がそれに対処すべく反応を開始するまで、2秒の時間を要することが分かっています。

また、「アンガーマネージメント」といわれるアメリカ発の感情制御の手法では、「カッとなった時には心の中で6秒をカウントする」という方法を採用しています。これは、アドレナリン の分泌のピークが「カッとした瞬間から6秒」であるためです。

この「2秒」と「6秒」の意味を覚えておくことは重要かもしれません。

ただし、この「怒り」を抑制する前頭葉は、40代を過ぎると衰え始めるといわれています。カッとなって「キレやすい」のは若者だというイメージは間違いで、実は中高年や高齢者の方が医学的に見ても「キレやすい」のです。

前頭葉は、新しい刺激的な体験や、人との密接な関わりで活性化することが分かっています。高齢になればなるほど、自分の年齢をことさら恥じたり、言い訳にして、新しいことへのチャレンジを拒み、それによって社会的な孤立を深めていくことは社会問題として認識されます。

「怒り」にうまく対処し、自分も、他者も幸せへと導くためには、前頭葉が衰え始める40代前後の生き方、ライフワークの構築がいかに大切なものなのかが分かります。

「怒り」はぶつけるものではなく、「発散」するもの、「蓄積」は最もNGです。

自分の輝きに気づいて、人生を謳歌する術を模索する。それが重要なのです。

 

「意識」の力

「怒り」を特定の人物にぶつけた場合、相手だけでなく自分も傷付きます。罪悪感に苛まれ、後悔が押し寄せます。「怒り」を外に放出したからといって、その原因は何一つ解決しないのです。

他者も、自分も痛手を追ってしまう「怒り」の想念。

それならば、この想念を「善なるもの」に置き換えれば、それが伝播し、人はもっと幸せになれるのではないかという疑問が湧きます。

医療ジャーナリストであるリン・マクタガート氏が行った実験は、とても興味深く、その問いに答えてくれるものです。

どのような実験だったのかご紹介しましょう。

彼女の著作の読者から選ばれた参加者を8人のグループに分け、グループ内の誰かの健康に関して意識を送るというものです。

まず手始めに、インターネットを介して実験が行われました。WEB上の非公開コミュニティ内で、被験者に「癒し」の意識を送るのです。

この最初の実験の被験者は、テネシー州出身の退役軍人、ドン・ベリー。彼は、強直性脊椎炎と診断されていました。この病は原因不明のリウマチ性疾患で、遺伝的要因による免疫異常の可能性が疑われています。

彼の脊椎は固まったままで、20年間体を満足に動かすことはできません。このドンに向けて週2回、癒しの意識が送られたのです。

彼はこう言います。

癒しの意識が送られている間、気分がよくなりました。すぐに治ったというわけではないけれども、健康状態はよくなり、痛みが軽くなりました。

それから8ヶ月後。半年に1回のリウマチ専門医の検診で、担当医に現状を尋ねられてドンは・・・

脊椎はいまだ固まったままなのですが、以前より腰を曲げられるようになった感じがしますし、痛みがずっと軽くなりました。時々は痛みがあるものの、これまでで一番気分がいいです。

と答えます。

そして、担当医はドンの心音を聞こうと聴診器を取り出して、深呼吸をするように促します。静かに聴診器から聞こえてくる心音に耳を傾けていた担当医は驚きの声をあげます。

今、胸部が動き出しましたよ。

ドンはこう話します。

医師は本当に口をあんぐり開けて座っていましたよ。私の胸部が動いたのです!自分が正常な人間に戻った気がしています。意識を送ってもらった実験ですぐに癒しが起こったわけではないのですが、まるで歯車が動き出したように気分がよくなったのです。そして、私の気分がどれほど健康状態と周りの環境に影響されていたか認識しました。

この結果を受けてリンは、互いに面識がない100人の参加者を8人ずつのグループに分け、そのうち心身に問題を抱える人、1人に意識を送られるターゲットになってもらい本格的な実験を始めるのです。

この実験の名称は「パワー・オブ・エイト8人の意識の力)」と名づけられました。

参加者は円になって集まり、互いに手を繋ぐか、円の中心にいるターゲット(被験者)に車輪のスポークのような形になるように、全員が片方の手を置きます。

そして全員が目を閉じ、リンが「パワリング・アップ」と呼ぶ方法で集中し、意識を送り始めます。

その方法の要約は以下のようなものです。

●意識を送る空間に入る。
●瞑想をしてパワリング・アップする。
●今ここにいる感覚をしっかり感じて集中力を頂点まで高める。
●深い思いやりを持って相手と波動を合わせ、有意義なつながりを構築する。
●あなたの送る意識を言葉にして述べ、できるだけ詳細に語る。
●心の中ですべての感覚を駆使して、あらゆる瞬間をリハーサルする。
●できるだけ鮮明にはっきりと、意識したものがすでにできあがった事実であるかのようにビジュアライズする。
●タイミングを選んで、自分が幸せで健康だと思える時に意識を送る。
●まかせる。宇宙の力にまかせ、結果も自然に起こるようにする。
こうした手順を踏みながら行われる実験において、ターゲットに様々な奇跡や不思議が起こります。
生後24週の赤ちゃんイザベラは、体重570グラム、形成不全の腸をもち、内臓は連鎖球菌感染症にかかっていました。そのイザベラがターゲットになった結果、正常な発育を遂げて8ヶ月後には退院して健康体となったのです。
また、この実験は胎児に対しても行われました。スウェーデンに住むジュリーンは心臓欠陥の難病がある男の子を妊娠したことが分かったのです。無事に生まれても自発呼吸は難しいとの診断でした。この胎児に対する実験でも奇跡は起こります。実験後にロータスと名付けられた男の子は、無事に成長を遂げます。
また、"そこにいない人物"がターゲットとなったこともありました。家出をした10代の少女です。実験の参加者は「母と娘が互いにもっと心を開いてコミュニケーションを取れるように」と意識を送ったのです。すると、3週間後に少女は家に戻り、母娘は絆を取り戻しました。

その後、実験はインターネットを介した参加者1万人以上の大規模なものへと発展をし、"地球上で最も多くの人が命を落としている紛争地" スリランカ北部ワンニ地区に平和と共存が訪れ、戦争に関する暴力が10%減少する、という意識を送る試みがなされました。

その結果、実験1週間後には負傷者が激減、9ヶ月後には25年に及ぶ内戦の歴史が幕を閉じたのです。

そればかりか、この大規模実験ではある重要な事実が明るみになるのです。

「意識」の作用による素晴らしい影響は、ターゲットだけでなく、意識を送った参加者にも及んだのです。

それがどんなものだったのかは、紙幅も尽きてきましたので、また次回に。

「孤独」からの脱却が世界を変容させる 〜「怒り」渦巻く社会で生きるということ(後編)〜


参考文献

『パワー・オブ・エイト 最新科学でわかった「意識」が起こす奇跡』リン・マクタガート(著)

久保多渓心 のプロフィール

久保多渓心

画家の父、歌人の母のもと、福岡市博多区で生まれる。

バンド活動を経て、DJ、オーガナイザーとしてアート系イベント、音楽イベントなどを多数手掛ける傍ら、フリーライターとしても活動。

音楽雑誌でのアーティスト・インタビュー記事、書籍、フリーペーパー、WEBなどの媒体で政治、社会問題から、サブカルチャー、オカルトまで幅広いジャンルでコラムを執筆。

引きこもり、不登校、心の病など自身の経験を活かし「ピアカウンセリング」を主軸にしたコミュニティを立ち上げる。後にひきこもり支援相談士として当事者やその家族のサポート、相談活動にあたる。

現在は亡き父から継承した一子相伝の墨を用いた特殊な占術『篁霊祥命』や、独自のリーディングによって鑑定活動を行っている。2021年で鑑定活動は16年目を迎える。

月参り、寺社への参拝による開運術の指導なども行う。

『AGLA(アグラ)』スーパーバイザーを務める。

2020年10月より活動名をマーク・ケイより、久保多渓心に改名。

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