「孤独」からの脱却が世界を変容させる 〜「怒り」渦巻く社会で生きるということ(後編)〜

2020.11.14

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久保多渓心 ( ライター・占術家 )

墨が織り成す一子相伝の占術 “篁霊祥命(こうれいしょうめい)” を主な鑑定手法とする占術家。他にも文筆家やイベント・オーガナイザーとしての顔も持つ。また引きこもり支援相談活動なども行なっている。

「意識」の力

前回は、医療ジャーナリストであるリン・マクタガートが行った「パワー・オブ・エイト(8人の意識の力)」と呼ばれる「意識を送る」実験についてお話ししました。

実験参加者それぞれが手を繋いで円になり、ターゲット(被験者)を囲む、あるいは世界中に散らばっている参加者がウェブページにログインをして、「意識を送る」のです。

この実験は、まず植物の「葉」や「種」をターゲットにして行われました。

葉に対しては、「輝く葉のイメージ」が送られ、種に対しては「成長を促すイメージ」が送られました。

そして驚くべきことに、科学的な検証の結果、意識を送られた葉は意識を送られなかった葉と比べ "輝きを増し" 、意識を送られた種は意識を送られなかった種と比べ "早い成長を遂げた" のです。

植物へ意識を送る実験では、催眠効果のある瞑想用音楽が流されていました。そこで採用されていたのはアメリカ人の音楽家であるジョナサン・ゴールドマンの「レイキ・チャンツ」というCDの1曲目に収録されている「チョク・レイ」という曲です。

この曲にも、人の意識を増幅させる秘密があるのかもしれません。

このような植物実験を経て、その対象は「人」へと移り変わっていきます。

前回お伝えしたように「意識の力」によって、ある時はスリランカ北部ワンニ地区の紛争が終結し、ある時は形成不全の腸をもった生後間もない赤ちゃんが健康体となり、ある時は家出をした少女が無事に母親の元へ戻るという奇跡が起こったのです。

 

神秘的合一体験

この「意識」の恩恵を受けたのは、「意識」を送られたターゲットだけではありませんでした。

リン・マクタガートが、ある実験後に行った参加者に対する調査で何千人という人々から寄せられたのが、「まるで自分の脳がネットワークにつながれたような体験」だったという報告。

参加者は「絶対的なものと自己との合一体験」である「神秘的合一(ウニオ・ミュスティカ)」の状態へ至っていたのです。

「神秘的合一」と聞くと、少し難しい印象をもたれるかもしれませんので、分かりやすく考えてみましょう。

人は、普通に暮らしていれば決して「自己」という枠から抜け出ることはできませんね。自分の目で見ているもの、自分の手で触れているもの、自分の心で感じているものは、すべて「自己」という範疇の中で得られている感覚です。その反対に、他者の見ているものや、触れているもの、感じているものを「自己」のものとして得ることはできません。

そうした意味では、私たち人間はとても孤独な存在であるともいえます。

「神秘的合一」とは、こうした孤独さからの脱却を意味します。この世で生きている限り逃れられない「自己」という枠を離れ、自分以外の存在(それは絶対者・神といわれる存在であったり、他者であったりします)と、心の最も深い部分でつながり、合わさる体験です。

参加者は、その体験を以下のように語ります。

「腕や手に流れるエネルギーの流れを意識すると、流れはある方向に向かって、力を大量に放出しているようでした」

「体中がしびれて、鳥肌が立ちました」

「自分の皮膚がみんなとつながっているように感じました」

「自分の周りに強い磁場が生まれたようでした」

「あの時感じていたことから離れたくありませんでした。とても意義深い体験でした」

「実験が終わると、実験中に感じていたことが消えました」

『パワー・オブ・エイト 最新科学でわかった「意識」が起こす奇跡』
リン・マクタガート(著)、島津公美(訳)ダイヤモンド社 より

これまで多くの神秘主義者たちが追い求めた秘儀的な至高体験を、修行や学びといった過程を経ることなく "ただ人々とともに意識を送っているだけ" で体感したことは、注目に値する画期的な出来事です。

他にも意識を送っている最中、「胸部が開いた感覚」を得た人や、「詳細な幻覚が見えた」人、「匂いがした」人などがおり、その多くの人たちが実験中、ずっと涙が流していたのです。

これは、たくさんの人々が「善意に満ちた意識」を送ることで一つになり、つながっている感覚に圧倒された涙だったのです。

 

「善意の意識」を送った人々に訪れる変化

実験中に得られる「神秘的合一(ウニオ・ミュスティカ)」の体験だけでも十分に素晴らしいものですが、それだけではありませんでした。

グループで祈りを捧げると、参加者の多くに、深く永遠に続く心理的な変化が起こった可能性が高く、人生の多くの局面が改善された

『パワー・オブ・エイト 最新科学でわかった「意識」が起こす奇跡』
リン・マクタガート(著)、島津公美(訳)ダイヤモンド社 より

というのです。

参加者は、実験参加後にそれぞれの生活に戻ったあと、人間関係が改善されるなどの変化が起こったことが分かったのです。

さらに参加者は、

「さらに深く人とつながり」

「互いの相違点へ橋をかける努力をするようになり」

「人に対して心を開けるようになり」

「新たな友達を進んで作るようになり」

「自分が愛されることも受け入れられるようになり」

「どの人間関係をはぐくみ、どの人間関係を手放すべきか」

『パワー・オブ・エイト 最新科学でわかった「意識」が起こす奇跡』
リン・マクタガート(著)、島津公美(訳)ダイヤモンド社 より

が明確にわかるようになったといいます。

ここに挙げた「意識を送ることで得られた効果」は、SNSで他者に「怒り」をぶつける人たちの思考とは対角に位置するものです。

同調圧力に屈し、自分とは違う、多数派に属しない価値観や観念に、ことごとく憎悪を抱き、排除し、その行為こそ正義であると認識してしまう人々。

私たちは、こうした利己性から脱却できるのでしょうか。この実験で分かることは非常にシンプル。「一つのことを思い願って、意識を送る」それだけでいいということ。

しかし、人の思考や思想は多様です。それならば、私たち一人一人がパーソナルな立ち位置から、隣にいる人、身近な人を慮る気持ちを高めていくこと、それが大事なのでしょう。

 

「孤独」に陥る人々

混迷する社会の中で、人はより一層孤独に陥っています。孤独とは人にとって最も深刻な病といってもいいでしょう。個と個が分離することによって、人は剥き出しになったその心を守るために、他者に対して防御の姿勢を取り、互いに防御の姿勢を崩さずにいることで、よりいっそう他者との距離が開き、孤独を極めていくループが発生します。そうした孤独こそが「怒り」の発生源となります。

先日、わたしが住んでいる福岡で大変身につまされる事件が起きました。

今年8月、30歳になる女性が真珠販売店に押し入り、店員にカッターナイフを突きつけて現金を脅し取ろうとした事件が発生します。事件は未遂に終わり、女性はそのまま警察に出頭して逮捕されました。

実はこの女性、物心がついた頃から施設にいたといいます。中学を卒業するまで施設で暮らし、その後は飲食店を転々とする生活をしていました。家族とは断絶状態で、父親の顔は知りません。

今年の2月、務めていた飲食店の店主から突然解雇を言い渡され、家賃が払えなくなった彼女は、そのまま借りていた部屋を飛び出し、福岡市の繁華街へやって来ました。主に公園で寝泊りをし、空腹に耐えられず「食べ物をください」と紙に書いて路上に立つ日々。

公園を行き交う人たちが、優しく声をかけてくれ、現金をもらったこともあったそうです。中には福祉施設への入所を勧める方もいましたが、彼女は「私は健康だし、恥ずかしい」と行政に頼ることを拒んだといいます。

この事件は、まさに現在の日本の陥った「個と個の分離」を象徴する出来事のように思えます。彼女のように家族や、友人、知人など身近に相談をするような温かい人間関係が皆無であったことは、悲劇としか言いようがなく、極端な例かもしれませんが、家族がいても、友人知人がいても、職場の同僚たちに囲まれていたとしても、人は自らを孤独の淵に追い詰めながら生きているように感じます。

人も、他者も、世界も、地球も、宇宙も、本来は何らかの一部。「孤独」とは人間が作り出した言葉であって、実はこの世の中に「孤独」というものは存在しないのではないでしょうか。何かの一部を忘れてしまっているからこそ、自分たちが作り出した「孤独」という概念に、雁字搦めに絡めとられてしまっている、そんな気がするのです。

リン・マクタガートが行った実験というのは、「意識」に関する実験ではありましたが、結果的にこの「孤独」を救済する手法を私たちに提起するものとなりました。

「一つの目的のために互いにつながり、意識を送る」ということが、人と人とを強力に結びつける接着剤となり、自分が大いなる全体の一部であることに、本能で気づいた体験だったのでしょう。

私たちが他者へ向ける「怒り」を克服するためには、自分は1人ではないということに気づくことが必要です。あなたは、あなたであることに間違いはありませんが、あの人も、この人も、そして、あの木々も、あの雲も、あの月さえ、あなた自身なのです。

誰かへ向ける刃のような「怒り」の想念は、相手も自分も傷つけます。しかし「善意」の想念は、相手も自分も「良き人生を歩む素晴らしいきっかけ」を創出するということが、科学的にも実証されているのです。

SNSが人間にとって大いなる「負の遺産」となるか、人と人が真に愛あるつながりを構築し、未来を開く礎になるか、今が瀬戸際なのでしょう。このコロナ禍は、迫りくる感染症に怯える不遇な年という一面だけではなく、孤独を克服する道に進むのか、より孤独を深めていく道に進むのかを迫られているという一面もあるのではないでしょうか。

 

参考文献

『パワー・オブ・エイト 最新科学でわかった「意識」が起こす奇跡』リン・マクタガート(著)島津公美(訳)
『フィールド 響き合う生命・意識・宇宙』リン・マクタガート(著)野中浩一(訳)河出書房新社

 

久保多渓心 のプロフィール

久保多渓心

画家の父、歌人の母のもと、福岡市博多区で生まれる。

バンド活動を経て、DJ、オーガナイザーとしてアート系イベント、音楽イベントなどを多数手掛ける傍ら、フリーライターとしても活動。

音楽雑誌でのアーティスト・インタビュー記事、書籍、フリーペーパー、WEBなどの媒体で政治、社会問題から、サブカルチャー、オカルトまで幅広いジャンルでコラムを執筆。

引きこもり、不登校、心の病など自身の経験を活かし「ピアカウンセリング」を主軸にしたコミュニティを立ち上げる。後にひきこもり支援相談士として当事者やその家族のサポート、相談活動にあたる。

現在は亡き父から継承した一子相伝の墨を用いた特殊な占術『篁霊祥命』や、独自のリーディングによって鑑定活動を行っている。2021年で鑑定活動は16年目を迎える。

月参り、寺社への参拝による開運術の指導なども行う。

『AGLA(アグラ)』スーパーバイザーを務める。

2020年10月より活動名をマーク・ケイより、久保多渓心に改名。

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