2020.12.14
香りに願いを込めて『香りと暮らし、和をたしなむ(連載第十回)』

もうすぐクリスマス
街は例年よりも控えめながら、クリスマスの飾りやイルミネーションで今年のラストひと月を彩っています。
香司の多田晴美です。
今回は「季節」にまつわるお香のお話です。
12月といえばクリスマス、一年の締めくくり「年内に」などというワードも使われる月。
来期の講座の打ち合わせの中で「樹木の香り」にふれました。
クリスマスツリーもモミの木をはじめ、先の尖った常緑性の針葉樹が使われますね。
モミはキリスト教で強い生命力のある聖なる木として崇拝される樹木です。シャープな心地よい香りには抗菌効果があり、ツリーがあるだけで空気清浄、感染症対策にもなるそうです。
イミテーションでしたら、ルームコロンやスプレーを樹木を思わせる香りにすると、よりリアルになります。雪に模した綿につけても香りを持続させるにはよいかも。一味違った飾り付けです。
教会では薫香(香りを焚いて煙や香を空間に広げる)を行い、煙とともに祈りが神に届くことを示し、浄めと聖化を暗示します。
香炉には数種の樹木や樹脂系香料が入れられています。人は「火」を用いるようになり、煙を通して香を神に捧げてきました。
宗派は色々ありますが、人々の思いは共通なのですね。
日本の年末年始
日本の年末は年越しの準備として、身の周りを清め、清々しく新年を迎えることが慣しとなっています。某CMで「今年の汚れ、今年のうちに」などと歌われていましたが、お清めといった意味で大掃除をします。
元旦には家々に、新年の幸福をもたらすために高い山から降りてくる年神様をお迎えする準備をします。
「門松」もその一つ。神への目印であり、松は神の依り代となります。そうそう、クリスマスツリーも針葉樹でしたね。
私どもの教室では年末から新年の準備として「部屋香」をおすすめしています。
室内に香りの強いものを飾ることで厄を払うことから毎年、年末の慌ただしくなる前に作って、正月の飾り付けの際に飾っていただくようにしています。
こういった袋物には組紐が使われておりますので、飾り結びをあしらうと更に華やかになります。
室町時代から始まった厄除の下げ飾りがあります。
「訶梨勒(かりろく)」といいます。
訶梨勒の果実と型を模した美しい袋に色糸をかけて柱などに吊すものです。袋の中には薬種であった訶梨勒の実をいれます。
私が飾り結びを始めたきっかけも、この訶梨勒を作ってみたいと思ったのがきっかけでした。
平安時代の貴族女性のたしなみとして、この「結び」もあったようです。
ある法要のシーンでは″お焼香のための香を用意して、それを包むために紐を組んで結ぶ″という下りがありました。この時代の貴族女性の実に多様な才には本当に驚かされます。
私など1ジャンルでも必死になります。
訶梨勒にはお釈迦さまにまつわるお話もあります。こちらは飾り結びと共に改めてご紹介することとします。
現在は袋にお香を入れて飾られるものが主流です。袋から清々しく部屋に広がるお香の香りは、新年を迎えるのにいいですね、と喜ばれ毎年恒例になりました。
興味のある方はFacebook、HPから、お問い合わせ下さい。
新年に家族でいただくお屠蘇

お正月の風物詩「お屠蘇」
新年を迎えますと、お屠蘇をいただきます。
一年の健康や長寿を願うならわしです。
数種の生薬を合わせた「屠蘇散」を清酒や、みりんにつけたお祝いのお酒です。
屠蘇とは邪気を屠り(ほふり)心身を蘇らせるという意味です。
書物によりますが、白朮の根、サンショウの実、防風の根、キキョウの根、桂皮、陳皮など体を温め、消化器系を助ける、風邪予防に効果がある生薬が主体です。
お香の原料は生薬ですから、興味深々。なによりも実際に「薬研(やげん)」が使えるのです!
薬研とは金属製の船のような形で薬種を入れるところがあり、円盤状の道具で生薬をすりつぶすものです。

薬研
よく時代劇で、〇〇療養所などと呼ばれるところでごりごりと薬種をすりつぶしているあれです!当日20〜30人くらいでいっせいに生薬をすりつぶすのですからもう、爽やかなのやら、ん??というのやらお香好きにはたまらない香りが一気に場内に広がりました。
あとはお薬を包んでいた包み方を教えてもらい、完成。
残念ながら今年は只今休館中とのこと。リニューアルされるようですので、再開後は是非、足を運びたいと思っています。館内の薬にまつわる展示だけでなく、散策できる薬草のお庭もありますので、植物の元気な時期に訪れるのが最適かもしれませんね。
中冨くすり博物館では、屠蘇散の調合を毎年少しずつ変えていらっしゃるとお聞きしました。
私達が作った回は紫蘇が入り、ややピンクの色合いに。植物の色素ポリフェノールもプラスされたようです。
紫蘇の「蘇」に気づかれましたか?心身を蘇らせる「屠蘇」、「紫蘇」、どちらも「蘇(よみがえる)」という文字が入っているのです。
さて、今回はクリスマスのモミから門松、部屋香や訶梨勒、そして屠蘇散をご紹介しました。
いずれも自然からの恵みの香りがいっぱいです。
先人の思いと共に気持ちのリセットやリフレッシュになりますように、香りに願いを込めて。
多田博之・晴美 のプロフィール

【多田博之】
FOUATONS aroma&herb・お香school 主宰
薫物屋香楽認定教授香司
歯科医師
宮崎市にて21年間開業医として地域医療に携わる。偶然に出会ったお香の魅力に惹かれ、平日は診療、週末は東京にてお香の勉強を繰り返したのち、50歳の時に閉院しお香の活動に専念する。
現在、福岡と宮崎の教室を拠点に、NHK文化センターの講師として、九州各地と広島県にて天然香料にこだわったお香教室を開催。また香木の香りの素晴らしさや香道の魅力を伝えてたいと思い、御家流香道の研鑽を積んでいる。
平安期のお香の使われ方を勉強するなかで、紫式部の「源氏物語」に興味をもち、講座では、香道や源氏物語の視点も交えて伝える。
また、薫物屋香楽認定教授香司として、香の知識や技能をさらに深め、和の香り文化とお香づくりのスペシャリスト(香司)の育成に努めている。
【多田晴美】
FOUATONS aroma&herb・お香school
華結び組乃香 主宰
薫物屋香楽(たきものやからく)認定香司
アロマインストラクター、ハーバルセラピストを経て「香司(こうし)」として 香りの楽しみ方や使い方を紹介。
ハーブのもつフィトケミカル成分が、健康や美容など様々なジャンルで注目され、特にスパイス系ハーブは生薬との共通性があり、大陸から伝わったとされる「お香」の 香原料ともなっている。
日本の歴史や習慣に深く関わり、人々の心を癒してきた文化としての「香り」を「和」の心とともに普及する活動を福岡県や、宮崎県を基盤に全国で展開。
趣味と実益をかねて日本三芸道の一つ「香道(御家流)」や、室内を飾る「飾り結び」も研鑽中。 天然香料を使ったお香作りの講師として、メディアなどで香りの魅力と素晴らしさを発信している。
ホームページ→ https://www.fouatons.org/
Facebook→ https://www.facebook.com/miyazakifouatons/