春を彩る、花と香り『香りと暮らし、和をたしなむ(連載第十三回)』

2021.3.17

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多田博之・晴美 ( 香司 )

FOUATONS aroma&herb・お香school 主宰。夫妻ともに薫物屋香楽(たきものやからく)認定香司。福岡と宮崎の教室を拠点に、NHK文化センターの講師として、九州各地と広島県にて天然香料にこだわったお香教室を開催。

三寒四温を経て、だんだんと春めいてまいりました。

香司の多田晴美です。

春を告げる代表的な花として、前回は「梅花」についての話でした。

今回は、春の花の中でも″その香りに誘われるような花″について綴ってまいります。

八百屋さんもチラリ

フリージア

私の母は花が大好きで、庭で育てた花を部屋に飾るのがなによりの楽しみです。

子供の頃から春だなぁと、いつも感じていたのが母の飾る黄色のフリージアでした。とても清々しく優しい香りが私のお気に入りでした。

そして蝋梅(ろうばい)スイトピーと芳しい花の時期が訪れます

いつも通る道では蝋梅のように時期になると香りを愉しめる「チェック済みの木」の様子を見て通っています。

蝋梅

お花屋さんや八百屋さんの前を通ると、季節先取りの切り花を見つけてはワクワクします。春は花の種類も多く、彩りにも目を奪われてしまいますね。

八百屋さんは新しくて安価なお花もよく置いてあるので、自宅用には充分です。お野菜と一緒によく買っています。

ちょっと時期は過ぎてしまいましたが、蝋梅はうつむき加減に黄色の花が付きます。その芳香は、はっとするほど周囲に広がってなんとも上品な香りです。

名前にも注目してみると、スイトピーの和名は「ジャコウエンドウ」。「ジャコウ=麝香」、動物性香料、生薬として重要です。つまり、香りの良い代名詞。

スイトピー

ムスカリ

同様にムスカリという小さなぶどうの様な形をした春の花があります。こちらのムスカリという名も、「ムスク=麝香」の香りが由来しています。

イラク北部のクルディスタン地域にあるシャニダール洞窟から、6万年前のネアンデルタール人の遺骨とともに、ムスカリの花粉が発見されており、埋葬花とされていた可能性が指摘されているようです。故人に特別なものを手向けたいという精神は今も昔も同じなのですね

 

沈丁花

沈丁花

春の花で芳香が素晴らしい花をもうひとつ、「沈丁花(じんちょうげ)」。

庭木によく使われていて、小さな花が白やピンクの手毬のように咲いている姿も可愛らしいです。

名前の由来は

沈・・・沈香のように芳しく
丁・・・その姿は丁子のよう

なのです。

沈香は香木、丁子はお清めの香で、このように和名にはお香の良い香りになぞらえたものもよく見られます。知った時は、なるほどと感激で開花時に今一度よく観察したのを思い出しました。

今回挙げた花の香りは、香りの成分が精油としては得られない、また「香料」としては売っていないので季節に体感する貴重な香りでもあります。

早朝や雨の降った後は特に香りを感じることができるので、おすすめです。

 

日本の春といえば桜、お花見の名所も数多く知られるところですが、平安時代中期以降になってから花見は「梅」に変わり桜が主になったのですよ。

桜の香りは。。。?

花の印象は薄く、どちらかというと「桜餅」の葉の香りと誤解されていることもあります。

桜餅の葉は「オオシマザクラ」の葉を塩漬けしたものです。「クマリン」という芳香成分が塩蔵することで発散されます。

桜餅には欠かせない香りと甘さの中に、葉の塩味も程よいですね。葉は食べるのかどうか賛否両論ですがみなさんはどうでしょうか?

桜餅の香気は自然の物ですが、チョコレートやスィーツのクリーム、フラッペなど季節限定のフレーバーも人気ですね。

春先の苺、秋の栗、など「期間限定」などと書かれていると、ついつい誘惑されます。季節感を大事にする日本の戦略でしょうか(笑)。

食品の香料はフレーバー、ちなみに香粧品の香料はフレグランスになります。香りは味の印象を左右する最大のツールでもあります。

 

季節を表現する

季節感を重んじる芸道には、生花以外の花もあります。

茶道や香道に袋物の口を紐で綴じる作法に、「飾り結び」を用いるものがあります。

季節を先取る花や昆虫など、複雑な結びを施します。もちろん開閉するものですから、いかに美しく結んでいても取り出すときには解かなくてはなりません。

これは一種の「鍵」の役割を果たし、中身を守るための工夫でもありました。

優雅な中に実用性もかねた知恵が伺えます。花の結びは枯れることはありませんが一瞬で解かれると失われてしまうのです。

これはこれで「儚い美」でありましょう。

花の命は儚く短いものです。

先程の桜の花をあげますと、蕾が付き、ふくらんで開花、やがて満開を迎え人の目を楽しませてくれます。

やがてハラハラと花びらが舞い散り、花の頃は終わりを迎えます。植物たちは淡々と生命活動を続けているわけですが、その生き様に人々はどんなに感動したり、喜びを感じたり、元気をもらったりしていることか。

過ぎてゆく花の命を惜しむ時間こそ、人の心を動かすのでしょう。

 

香道で感じる情景

お稽古を続けている香道では、ただ香りの正解を求めるものではありません。

同じ席にいらっしゃる方々で、同じ香を共有し、そこに描く情景を楽しむという本来の意味があります。

目にはみえないものを表現するというのは、非常に難しいことですね。ですが、周りのものに惑わされたり、見失いそうなときは、そういった研ぎ澄まされるような時間も大切に思えます。

日を追うごとに季節の変化は続いていきます。現在は、外の散策も制限があるかもしれません。また、花粉症などアレルギー症状のある方は、外出どころではないかもしれません。

自分のスタイルで春を楽しむ方法を見つけてください。

あなたは香りから?写真から?お稽古事から?

花屋さんから?それともスィーツ?

 

花を使わずして花の香り 〜 お香作り
香り好き+セルフケア 〜 aroma &herb

日本の伝統文化 〜 飾り結び

体験から資格講座まで

https://www.fouatons.org/

多田博之・晴美 のプロフィール

多田博之・晴美

【多田博之】

FOUATONS aroma&herb・お香school 主宰
薫物屋香楽認定教授香司
歯科医師

宮崎市にて21年間開業医として地域医療に携わる。偶然に出会ったお香の魅力に惹かれ、平日は診療、週末は東京にてお香の勉強を繰り返したのち、50歳の時に閉院しお香の活動に専念する。

現在、福岡と宮崎の教室を拠点に、NHK文化センターの講師として、九州各地と広島県にて天然香料にこだわったお香教室を開催。また香木の香りの素晴らしさや香道の魅力を伝えてたいと思い、御家流香道の研鑽を積んでいる。

平安期のお香の使われ方を勉強するなかで、紫式部の「源氏物語」に興味をもち、講座では、香道や源氏物語の視点も交えて伝える。

また、薫物屋香楽認定教授香司として、香の知識や技能をさらに深め、和の香り文化とお香づくりのスペシャリスト(香司)の育成に努めている。

【多田晴美】

FOUATONS aroma&herb・お香school
華結び組乃香 主宰
薫物屋香楽(たきものやからく)認定香司

アロマインストラクター、ハーバルセラピストを経て「香司(こうし)」として 香りの楽しみ方や使い方を紹介。

ハーブのもつフィトケミカル成分が、健康や美容など様々なジャンルで注目され、特にスパイス系ハーブは生薬との共通性があり、大陸から伝わったとされる「お香」の 香原料ともなっている。

日本の歴史や習慣に深く関わり、人々の心を癒してきた文化としての「香り」を「和」の心とともに普及する活動を福岡県や、宮崎県を基盤に全国で展開。

趣味と実益をかねて日本三芸道の一つ「香道(御家流)」や、室内を飾る「飾り結び」も研鑽中。 天然香料を使ったお香作りの講師として、メディアなどで香りの魅力と素晴らしさを発信している。


ホームページ→ https://www.fouatons.org/
Facebook→ https://www.facebook.com/miyazakifouatons/


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