2021.7.31
白鹿を蘇生させた、大空を駆ける勇猛な森の王者「鷹」『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界(第四十三回)』

「神使」「眷属」とは、神の意思(神意)を人々に伝える存在であり、本殿に恭しく祀られるご祭神に成り代わって、直接的に崇敬者、参拝者とコミュニケーションを取り、守護する存在。
またの名を「使わしめ」ともいいます。
『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界』では、神の使いとしての動物だけでなく、神社仏閣に深い関わりのある動物や、架空の生物までをご紹介します。
動物を通して、神社仏閣の新たなる魅力に気付き、参拝時の楽しみとしていただけたら幸いです。
鷹と鷲

クマタカ
鷹(タカ)は大空を優雅に舞う姿、精悍な顔つき、勇猛な狩りの様子などから、鳥類の中でも別格の存在感を放っています。
鷹や鷲(ワシ)などの猛禽類は、食物連鎖の頂点に君臨する捕食者であることから、神の使いであると神聖視されて来ました。
その鷹と鷲ですが、意外にその区別は曖昧で、タカ科に分類される比較的大型の種を鷲、中型から小型の種を鷹と呼称しているに過ぎません。

カンムリワシ
クマタカはオスで体長約70cm前後と鷹の中でも大きな種なので、世界的な基準では鷲に分類することも可能です。一方、カンムリワシは鷲という名がついてはいますが体長約50cm程度と、クマタカの方が大きいのです。これが区別の曖昧さの所以です。
鷹狩り

オオタカ
クマタカやオオタカは、古来より「鷹狩り」に使われて来ました。
鷹狩りの歴史はかなり古く、紀元前4500年頃には既に中央アジアを中心に行われていたとされます。
それが日本に伝わったのが西暦355年のことです。『日本書紀』巻第十一にはこのような記述が見られます。
酒君は「この鳥は百済(現在の朝鮮半島西部)に生息する鳥です。この鳥は飼い慣らすことができ、人にも従います。速く飛ぶことができて、諸々の鳥を捕えます。百済ではこの鳥のことを倶知(クチ)といいます」と答えます。

「放鷹術実演」江戸村のとくぞう, CC BY-SA 4.0 , ウィキメディア・コモンズ経由で

丸に違い鷹の羽
神使「鷹」
英彦山神宮

英彦山神宮・奉幣殿(国指定重要文化財)
福岡県田川郡添田町と大分県中津市山国町にまたがる標高1,199mの英彦山は、「日本二百名山」に数えられる登山の名所であり、また羽黒山(山形県)、熊野大峰山(奈良県)とともに「日本三大修験山」に数えられる修験道、山岳宗教のメッカです。
この英彦山に鎮座するのが「英彦山神宮」、県内唯一の神宮です(頂上に上津宮、山腹に中津宮と下津宮が鎮座する)。
この英彦山神宮の使いは鷹とされています。

雄大な英彦山の景色
神使としての鷹には、以下のような由来があります。
継体天皇25年(531年)、山中で猟師の藤原恒雄が1頭の白鹿を射ました。その時3羽の鷹がどこからともなく現れて、絶命した白鹿に檜の葉に浸した水を与えると、白鹿は生き返りました。
これを見た恒雄は、白鹿と鷹は神の化身なのだと悟り、その後仏門に入ってこの地に寺を建立したと伝えられています。
ご祭神の稲穂の神、正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命(マサカツアカツカチハヤヒアメノオシホミミノミコト)は、鷹の姿をして東よりこの地に現れたといわれています。
このような謂れから、英彦山神宮で頒布される護符は牛王法印(熊野三山で授与されるカラス文字で書かれた特殊な神札のこと)で、3羽の鷹が描かれています。神紋も鷹の羽がモチーフとなっています。

英彦山・豊前坊展望台登山口

末社・大南神社
私は登山が趣味で、県内でも有数の標高を誇る山であることから、年に何度かここ英彦山に入ります。各所に修験者たちの修行の痕跡が残る、とても神秘的な山です。
登山道で、ばったりと鹿に出くわすと、この創建の伝承が頭をよぎります。いつぞやは、数mにも及ぶと思われる蛇と遭遇し、とても慌てた記憶があります。
【鷹に所縁ある神社仏閣】
英彦山神宮(福岡県田川市)
上野東照宮(東京都台東区)
世良田東照宮(群馬県太田市)
参考文献
『神道辞典』国学院大学日本文化研究所(編)弘文堂
『神社のどうぶつ図鑑』茂木貞純(監修)二見書房
『お寺のどうぶつ図鑑』今井浄圓(監修)二見書房
『神様になった動物たち』戸部民生(著)だいわ文庫
『神使になった動物たち - 神使像図鑑』福田博通(著)新協出版社
久保多渓心 のプロフィール

画家の父、歌人の母のもと、福岡市博多区で生まれる。
バンド活動を経て、DJ、オーガナイザーとしてアート系イベント、音楽イベントなどを多数手掛ける傍ら、フリーライターとしても活動。
音楽雑誌でのアーティスト・インタビュー記事、書籍、フリーペーパー、WEBなどの媒体で政治、社会問題から、サブカルチャー、オカルトまで幅広いジャンルでコラムを執筆。
引きこもり、不登校、心の病など自身の経験を活かし「ピアカウンセリング」を主軸にしたコミュニティを立ち上げる。後にひきこもり支援相談士として当事者やその家族のサポート、相談活動にあたる。
現在は亡き父から継承した一子相伝の墨を用いた特殊な占術『篁霊祥命』や、独自のリーディングによって鑑定活動を行っている。2021年で鑑定活動は16年目を迎える。
月参り、寺社への参拝による開運術の指導なども行う。
『AGLA(アグラ)』スーパーバイザーを務める。
2020年10月より活動名をマーク・ケイより、久保多渓心に改名。