2022.7.15
【7月16日は世界ヘビの日】五穀豊穣を司る水神「蛇」『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界(第一回)』

「神使」「眷属」とは、神の意思(神意)を人々に伝える存在であり、本殿に恭しく祀られるご祭神に成り代わって、直接的に崇敬者、参拝者とコミュニケーションを取り、守護する存在。
またの名を「使わしめ」ともいいます。
『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界』では、神の使いとしての動物だけでなく、神社仏閣に深い関わりのある動物や、架空の生物までをご紹介します。
動物を通して、神社仏閣の新たなる魅力に気付き、参拝時の楽しみとしていただけたら幸いです。
(2020年7月24日公開の記事を再構成してお届けしております)
世界ヘビの日
6600万年もの昔、地球に小惑星が衝突し、それまで生存していた恐竜をはじめとする生物の大半(約70%にも及ぶという)は死滅しました。
衝突の影響により、地球は10年間にわたり暗闇に包まれ、天変地異に襲われます。
そんな中、生き延びたのが現在のヘビの祖先たち。
ヘビの特異な形態は、過酷な環境を生き延びるのに適していたのです。
今や、南極をのぞく全ての大陸に生息する、生命力の強いヘビ。しかし、多くの種は絶滅の危惧されています。
詳しい起源は不明ですが、7月16日は「世界ヘビの日(World Snake Day)」です。
この機会に、ヘビと神様との関係を考えてみましょう。
最初の神使は「蛇」だった?

岩國白蛇神社
私のコラムでは折に触れて、この「神使」についてお話をすることがあります。時には「眷属(けんぞく)」という言い方でご説明することもあったかと思います。
「神使」とは、神の意思(神意)を人々に伝える存在であり、本殿に恭しく祀られるご祭神に成り代わって、直接的に崇敬者、参拝者とコミュニケーションを取り、守護する存在です。
「神使」が初めて「神の使いの動物」として歴史に登場するのは、『日本書紀』の景行天皇の条。
ここに以下のような一節があります。
「是の大蛇(をろち)は、間違いなく荒神(あらぶるかみ)の使いならむ。」と書かれています。
また、古事記には・・・
とあり、日本書紀では「大蛇」であった部分が、「白い猪」となっています。

上神明天祖神社の巳くじ
景行天皇は、第十二代の天皇で、日本武尊(ヤマトタケル)の父にあたります。
伊吹山に荒ぶる神がいると聞いた日本武尊が、剣を置いて山に向かうと、大蛇に化けた山の神が立ちふさがりました。主神が大蛇に化けていることを知らない日本武尊は、この大蛇を「神の使い」だと考えたのです。
以後、ご祭神と所縁のある動物、神社のある地域に生息している動物などが、「神使」とされるようになっていきます。
日本では古くから、長寿の動物には神秘的な力が宿るとする考えがあります。例えば、狸や狐、猫などが長生きをすると、妖力を身に付け、怪異を起こすと信じられていました。
現代人にとっては既知の動物の習性も、古の人々にとっては畏れ、敬い、神聖視せざるを得ない未知なる現象として捉えられた部分もあるでしょうし、自然信仰が主体の神道においては常に神様は"見えざる存在"。
姿、形のある、身近な動物たちを、神様の代理として、視覚化したいという人々の欲求も「神使」の存在に影響を与えたのかもしれません。
今回から、「神使」となった動物たちを、ご紹介してまいりたいと思います。
皆さんの、氏神様、産土様、そしてお好きな神社の「神使」は、どんな動物なのでしょうか?
そして、その動物が「神使」となった謂れとは?
神使「蛇」

蛇の手水舎(大神神社)

巳の神杉(大神神社)
大神(おおみわ)神社のご祭神である、大物主大神(おおものぬしのおおかみ)の妻である百襲姫(ももそひめ)は、夜にしか姫のもとを訪れることがない大神を不審に思い、「貴方様の顔をはっきり見たい」と訴えます。
すると大神は、「姫の櫛を入れた箱の中にいるが、箱を開けても決して驚いてはいけない」と忠告をします。
翌朝、姫が箱を開けると小さな蛇が入っていたので、驚きの声をあげました。
小さな蛇は、みるみるうちに麗しい男性の姿に変化します。小さな蛇の正体は、大神だったのです。
「驚いてはいけない」という大神の忠告に背いてしまった姫に、別れを告げて大神は三輪山に帰ってしまわれたのです。
奈良県桜井市にある大神神社では、大物主大神の化身の白蛇が棲むとされるご神木「巳の神杉」や、蛇の手水舎などがあり、蛇は「巳さん」として親しまれています。
これは日本書紀に書かれた、この切ないお話が由来となっています。
蛇と弁財天
蛇は、弁財天を祀った神社の神使でもあります。
インドの学問と知恵の神である「サラスヴァティー」は、水辺に佇みながらヴィーナという弦楽器を演奏する姿で描かれます。「サラスヴァティー」とは「水を持つもの」の意味を持ち、水と豊穣の女神でもあります。
この「サラスヴァティー」が日本に伝来され、弁財天となります。
全国の稲荷社に主神として祀られている、「宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)」の「うか」に由来する人頭蛇身の神、「宇賀神」と習合した弁財天は、農耕の神「宇賀弁財天」としての性質を持つようになります。このため、稲荷社に蛇が祀られていることがあります。
「宇迦之御魂神」の「宇迦」は穀物や、食物を意味するところから、稲荷社の神使である狐同様に、そこから派生した蛇も、五穀豊穣のご利益をもたらす神使とされるようになりました。
ある部分では、稲荷信仰(狐)と、水神(蛇)信仰は一体のものであるといっても差し支えないでしょう。

宇賀神(京都府宇治市・三室戸寺)

豊受稲荷本宮(千葉県柏市)の蛇像
ウロボロス

ウロボロス
蛇は脱皮をしたり、冬眠などにより長く飢餓状態に耐え得ることなどから、古代より「永遠性」「不老不死」「死と再生」の象徴とされて来ました。そうした象徴を図象化した、蛇が自らの尾を飲み込む「ウロボロス」は世界各国の文化で見られます。
白蛇

白蛇弁財天(栃木県真岡市)
宅地を造成したり、新築の家を建てる時などに、施主となる方の夢に白蛇が毎日のように出てくる、またはその土地に白い着物を着た女性が立っているのを何人もの工事関係者が目撃をする、そのようなご相談を何度か受けたことがあります。
このような時にはその土地に、埋められた井戸があるケースが多くあります。
井戸が枯れたあと、お祓いや気抜き(息抜き)をせず、また、これまでの水の恵みに感謝を捧げる行為をおろそかにしていたため、水神である蛇がその霊力をもって、私たちに訴えかけて来ていたのです。
裏を返せば、蛇はそれだけの高い霊験を持つ存在です。
五穀豊穣は、すなわち食べること、生きることに直結したご利益でもあり、開運や金運にも繋がります。
是非、「巳さん」のいらっしゃる寺社に参拝されてみてはいかがでしょうか。
【蛇に所縁ある神社】
大神神社(奈良県桜井市)
蛇窪神社(東京都品川区)
江島神社(神奈川県藤沢市)
銭洗弁財天宇賀福神社(神奈川県鎌倉市)
白蛇弁財天(栃木県真岡市)
他、全国の弁財天社
参考文献
『神道辞典』国学院大学日本文化研究所(編)弘文堂
『神社のどうぶつ図鑑』茂木貞純(監修)二見書房
『神様になった動物たち』戸部民生(著)だいわ文庫
『東京周辺 神社仏閣どうぶつ案内 神使・眷属・ゆかりのいきものを巡る』川野明正(著)メイツ出版
久保多渓心 のプロフィール

画家の父、歌人の母のもと、福岡市博多区で生まれる。
バンド活動を経て、DJ、オーガナイザーとしてアート系イベント、音楽イベントなどを多数手掛ける傍ら、フリーライターとしても活動。
音楽雑誌でのアーティスト・インタビュー記事、書籍、フリーペーパー、WEBなどの媒体で政治、社会問題から、サブカルチャー、オカルトまで幅広いジャンルでコラムを執筆。
引きこもり、不登校、心の病など自身の経験を活かし「ピアカウンセリング」を主軸にしたコミュニティを立ち上げる。後にひきこもり支援相談士として当事者やその家族のサポート、相談活動にあたる。
現在は亡き父から継承した一子相伝の墨を用いた特殊な占術『篁霊祥命』や、独自のリーディングによって鑑定活動を行っている。2021年で鑑定活動は16年目を迎える。
月参り、寺社への参拝による開運術の指導なども行う。
『AGLA(アグラ)』スーパーバイザーを務める。
2020年10月より活動名をマーク・ケイより、久保多渓心に改名。