2022.7.25
【7月29日は世界トラの日】武運を司る毘沙門天の使い「虎」-『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界(第十回)』

「神使」「眷属」とは、神の意思(神意)を人々に伝える存在であり、本殿に恭しく祀られるご祭神に成り代わって、直接的に崇敬者、参拝者とコミュニケーションを取り、守護する存在。
またの名を「使わしめ」ともいいます。
『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界』では、神の使いとしての動物だけでなく、神社仏閣に深い関わりのある動物や、架空の生物までをご紹介します。
動物を通して、神社仏閣の新たなる魅力に気付き、参拝時の楽しみとしていただけたら幸いです。
(2020年7月24日公開の記事を再構成してお届けしております)
世界トラの日
2010年11月21〜24日にロシアのサンクトペテルブルグで開催された「トラサミット」で制定された「世界トラの日」。
かつて、世界には10万頭以上の野生のトラが生息していましたが、現在ではおよそ3000頭までにその個体数を減らし絶滅の危機に瀕しています(生息国は26カ国だったが、現在では11カ国にまで減少)。
野生のトラの生息域を保護すると共に、絶滅の危機にあるトラへの関心を社会に広げるべく制定されたのが、この「世界トラの日」です。
この機会に、トラへの認識を深め、日本人とトラとの関係性についても学んでみましょう!
神使「虎」
「虎」が日本人の心に定着するまで(更新世〜奈良時代)
神使としての「虎」を初めて知る方も多いかもしれません。
また、そもそも日本に「虎」が生息していたのかという疑問もありますね。
まず、「虎」と「日本」の関係性から、お話を始めましょう。
縄文時代よりはるか昔、地質時代の区分の一つである「更新世」といわれる時代(約258万年前から約1万年前)、日本はまだ中国大陸と地続きで、日本海は巨大な湖でした。
この頃の日本には虎が生息しており、当時の地層から、人骨と一緒に虎の化石が発掘されています。
恐らく次の「沖積世」になって、大陸から日本列島が完全に分離したことにより、生息していた虎は絶滅したと思われます。
以降の日本には、中国に生息する虎のイメージが風聞として入ってくるようになります。
奈良時代に成立した日本最古の和歌集『万葉集』には、虎について謳われた歌が三句あります。
そのうちの一句は以下のようなものです。
鮫龍(みづち)とり来(こ)む 剣大刀(つるぎたち)もが
境部王(さかいべのおおきみ)
(訳)虎に乗って古屋を飛び越えて、青い水をたたえた淵に棲む龍を捕まえられる剣太刀があれば
万葉集 第十六巻三八三三番歌
「虎」が日本人の心に定着するまで(平安時代〜室町時代)
「虎」が日本人の心に定着するまで(江戸時代以降)

江戸時代、虎は象などとともに日本にもたらされた。歌川芳豊「新渡舶来之大象」(1863年)メトロポリタン美術館, CC0
毘沙門天と虎

信貴山 朝護孫子寺の張子の寅(奈良県生駒郡)

鞍馬寺の阿吽の虎像(京都市左京区)
信貴山真言宗 総本山 朝護孫子寺公式サイトより
総本山 鞍馬寺公式サイトより

毘沙門天

大江神社の狛虎(大阪市天王寺区)

秩父神社の子宝・子育ての虎(埼玉県秩父市)
秩父神社の拝殿には、名工・左甚五郎作の「子宝・子育ての虎」の彫刻があります。秩父神社は1569年(永禄12年)の戦禍により焼失、1592年(天正20年)に徳川家康の尽力で再建されています。
左甚五郎は、家康の威厳とご祭神(八意思兼命・知知夫彦命・天之御中主神)を守護する神使として、虎を彫りました。

善國寺の狛虎(東京都新宿区神楽坂)

多聞院毘沙門堂の狛虎

多聞院毘沙門堂の身代わり寅(埼玉県所沢市)
参考文献
『神道辞典』国学院大学日本文化研究所(編)弘文堂
『神社のどうぶつ図鑑』茂木貞純(監修)二見書房
『神様になった動物たち』戸部民生(著)だいわ文庫
『東京周辺 神社仏閣どうぶつ案内 神使・眷属・ゆかりのいきものを巡る』川野明正(著)メイツ出版
久保多渓心 のプロフィール

画家の父、歌人の母のもと、福岡市博多区で生まれる。
バンド活動を経て、DJ、オーガナイザーとしてアート系イベント、音楽イベントなどを多数手掛ける傍ら、フリーライターとしても活動。
音楽雑誌でのアーティスト・インタビュー記事、書籍、フリーペーパー、WEBなどの媒体で政治、社会問題から、サブカルチャー、オカルトまで幅広いジャンルでコラムを執筆。
引きこもり、不登校、心の病など自身の経験を活かし「ピアカウンセリング」を主軸にしたコミュニティを立ち上げる。後にひきこもり支援相談士として当事者やその家族のサポート、相談活動にあたる。
現在は亡き父から継承した一子相伝の墨を用いた特殊な占術『篁霊祥命』や、独自のリーディングによって鑑定活動を行っている。2021年で鑑定活動は16年目を迎える。
月参り、寺社への参拝による開運術の指導なども行う。
『AGLA(アグラ)』スーパーバイザーを務める。
2020年10月より活動名をマーク・ケイより、久保多渓心に改名。