新たな自分に生まれ変わる特別な一日 「夏越の祓(なごしのはらえ)」『四季に寄り添い、祈るように暮らす(連載第十一回)』

2019.6.27

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三浦奈々依 ( フリーアナウンサー )

フリーアナウンサー・神社仏閣ライター・カラーセラピスト。
ラジオ番組にて20年以上にわたり、音楽番組を担当。東日本大震災後、雑誌Kappoにて約7年にわたり連載「神様散歩」を執筆。『福を呼ぶ 四季みくじ』出版。カラーセラピストとしても全国で活動中。

早いもので、あっという間に、今年も半分が終わろうとしていますね。

半年の間にたまったケガレを祓い、息災を祈願する特別な行事、「夏越の祓(なごしのはらえ)」が近づいてくると、新たな自分に生まれ変わって心機一転がんばるぞ!と、毎年やる気スイッチが入る私です。「夏越の祓(はらえ)」の歴史は古く、前回ご紹介しましたイザナギノミコトの禊祓(みそぎはらひ)に由来すると言われています。

私が暮らす仙台では6月30日に行われる神事に向けて、神社の境内に茅草(かやくさ)で作られた茅の輪(ちのわ)が飾られていますが、皆さんの町はいかがですか?

京都や九州など、地域によっては7月に行うところもあるようです。

今日は「夏越の祓」にまつわる物語、茅の輪をくぐる作法、そして、とある神社に伝わる「河童の手」についてご紹介しましょう。夏越祭で、毎年約200人もの子どもや大人たちの無病息災と幸せを願う、河童の手とは?

茅の輪(ちのわ)の起源

「茅の輪くぐり」は、ある物語に基づいていると言われています。

むかしむかし、ある兄弟のところに、一人の旅人がやってきて、一夜の宿を乞いました。

兄は裕福だったにも関わらず、「うちは貧しいから泊められないよ」と、嘘をついて断りました。一方、弟の蘇民将来(そみんしょうらい)は、「汚いところですが、よかったら泊まっていってください」と、旅人を招き入れ、貧しいながらも温かくもてなしました。

旅人は蘇民将来の家に一泊し、帰り路、再び訪れ、お礼にと茅の輪を授けました。そして、「もし、疫病が流行ることがあったら、茅の輪を腰につけなさい」という言葉を残し、去っていきました。

その後まもなくして、村で疫病が流行りましたが、旅人の教えに従って茅の輪を腰に付けた蘇民将来は疫病から逃れ、子々孫々まで繁栄したということです。

実はこの旅人、「スサノオノミコト」という神様だったのです。

この神話から、「蘇民将来」と書いて玄関口に飾っていれば災いを免れるという信仰が生まれ、腰につけるほどに小さかった茅の輪も、時代とともに大きくなり、現在では茅の輪をくぐってケガレを祓うようになりました

茅の輪のくぐり方

「水無月(みなつき)の夏越(なごし)の祓(はらえ)する人は 千歳(ちとせ)の命(いのち)延(の)ぶというなり」という古歌を唱えながら、茅の輪をくぐります。

1. 茅の輪の前に立ち、一礼を。

2. 輪をくぐり、左方向にまわって、正面に戻ります。

3. 輪をくぐり、右方向にまわって、正面に戻ります。

4. 最後にもう一度、輪をくぐり、左方向にまわって、正面に戻ります。

5. 一礼し、神前に進みます。

こうして、茅の輪の力によって心身ともに清らかになり、これから始まる半年間を健やかに過ごすことができると信じられています。

とある神社に伝わる、病を癒す「河童の手」

熊本県天草地方に鎮座する志岐(しき)八幡宮。天草地方には古くから河童の伝説や民謡が数多く残されています。

その昔、志岐八幡宮の宮司が悪さをする河童を懲らしめるため、河童の両手を切り落としてしまいました。その後、河童がやって来て、「手がないと、どうにも不便です。もし、片手でも返して下されば、そちらに残したもう片方の手で病が治るようにいたします」と、深々と頭を下げました。

宮司は河童の願いを聞き入れ、片手を返してやりました。その後、村で病が流行るたび、河童の手を使って村人の病を治したという伝説とともに、こちらの神社には極めて不思議な形をした河童の手が残されています。

7月31日に行われる夏越祭では、なんと子供たちの頭を河童の手で撫で、無病息災を願う神事が行われているんですよ。宮司を務めるのは熊本県神社庁長でもある宮崎國忠さん。

芽の輪くぐりの神事が終わると子供たちが行儀よく、宮崎さんの前に並び始めます。

宮崎さんがひとりひとり、河童の手でそっと頭を撫でると、「こわいよ~」と言って泣き出す子もいれば、「見せて!」と好奇心たっぷりにせがむ子も。中には、元気な赤ちゃんを産みたいというお母さんや、病気を患っている方も河童のご利益をいただこうと夏越祭へ。

志岐八幡宮に伝わる河童の手ですが、持ってみるとふわりと軽く、やわらかな感触が伝わってくるそうです。今にも動き出しそうなほどしなやかで驚いたと、ある記者さんが話していました。

宮崎さんは河童の手で頭を撫でながら、毎年約200人もの子どもや大人たちの無病息災と幸せを願っています。

利他の心とやさしさ

宮崎さんとは東日本大震災後、福島でのボランティア活動を通じて初めて出会いました。

支援物資を積んだ小型のバスを運転し、ひとり、天草から福島へやってきた宮崎さん。約三カ月にわたり、瓦礫の撤去をはじめ、避難指定のため立ち入ることが許されなかった福島第一原発20キロ地点の境界で大祓詞を唱え、祈りを捧げ、「必要なものは何でしょうか」と、被災した神社を一軒一軒訪ねて歩かれました。

熊本に戻られてからは、神職の皆さんと浄財を募り、被災した神社のために仮社殿や神輿を寄贈。私は宮崎さんとのご縁をいただき、いくつもの神社を取材し、復興に向けて歩みを進める東北、熊本の神社の今を書かせていただきました。

取材の際、福島県南相馬市に鎮座する山田神社の宮司である森さんが、野球帽をかぶり、作業着姿で一生懸命動き回っていた宮崎さんの話をしながら、「宮崎さんは蘇民将来のようなお方だ」とおっしゃった言葉が今も心に残っています。

スサノオノミコトから茅の輪を授けられた蘇民将来。

病を癒す河童の手を守り継ぐ神社の宮司、宮崎さん。

ふたりの共通点は、人のために尽くす利他の心と深いやさしさだと思います。

夏越の祓はケガレを祓うとともに、人として大切なことを思い出させてくれる一日かもしれませんね。

茅の輪をくぐり、ケガレを祓い、新たな自分へと生まれ変わりましょう。

 

『四季に寄り添い、祈るように暮らす』

 

次回は年に一度の星まつり、七夕さまについてご紹介します。

一日だけじゃもったいない!ゆっくりと七夕時間を楽しみませんか?

 

福ふく

三浦奈々依 のプロフィール

三浦奈々依

フリーアナウンサー・神社仏閣ライター・カラーセラピスト。

ラジオ番組にて20年以上にわたり、音楽番組を担当。

東日本大震災後、雑誌Kappoにて約7年にわたり「神様散歩」の連載を執筆。心の復興をテーマに、神社仏閣を取材。

全国の神社仏閣の歴史を紹介しながら、日本の文化、祈りの心を伝えている。

被災した神社仏閣再建の一助となる、四季の言の葉集「福を呼ぶ 四季みくじ」執筆。


http://ameblo.jp/otahukuhukuhuku/
アマゾン、全国の書店、世界遺産・京都東寺等で販売。


カラーセラピストとしても全国で活動中。
旅人のような暮らしの中で、さまざまな神社仏閣を訪ね、祈り、地元の人々と触れ合い、ワインを楽しむ。

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