愛宕神社の出世の石段と、飛び交うご利益情報

2019.8.16

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久保多渓心 ( ライター・占術家 )

墨が織り成す一子相伝の占術 “篁霊祥命(こうれいしょうめい)” を主な鑑定手法とする占術家。他にも文筆家やイベント・オーガナイザーとしての顔も持つ。また引きこもり支援相談活動なども行なっている。

出世の石段

出張などで東京を訪れる度に参拝するのが、東京は港区にある愛宕神社です。主祭神は「火産霊命(ほむすびのみこと)」。防火、防災にご利益がある他、印刷、コンピューター関係のご利益もある神社です。

印刷、コンピューター関係とは珍しいご利益ですね。これは主祭神が火の神であることに由来しています。

火力発電所や溶鉱炉のあるような大規模工場などで、装置を動かして操業を開始することを「火を入れる」という表現をするのですが、これが転じて電力を大量に消費する業種の印刷、コンピューター関係にご利益があるとされています。そういえば愛宕神社の周囲には印刷会社が多いような気がします。

愛宕神社は「出世の石段(男坂)」で非常に有名です。この石段は下から見上げると垂直にそびえ立つ壁のようで、上から見下ろせば切り立った断崖の端に立っているような感覚に陥るほどの斜度です。

出世の石段(男坂)

出世の石段(男坂)

息を弾ませながら上りきり振り返ってみると、86段ある石段のその高さと勾配(傾斜角度は40度だそう)に恐怖さえ感じます。

出世の石段には、このような謂れがあります。

徳川家光公が増上寺に参詣した帰途、愛宕神社の前を通りかかると愛宕山に満開の梅を見つけ「誰か、馬にてあの梅を取って参れ!」そう家臣達に命じました。

大鳥居側から見た出世の石段(男坂) 

しかし、この高さと勾配を目の当たりにした家臣達は顔を見合わせるだけで名乗りをあげる者は誰もいません。

そんな時、同行していた讃岐高松藩藩主の生駒高俊が「我が藩の曲垣平九郎にお申し付けください」と申し出たのです。

曲垣平九郎は家光公に一礼すると、この石段をジグザグに登って赤梅と白梅を一本ずつ手折り、襟に挿してそのまま石段を馬に乗って下り、家光公に梅を差し出したそうです。

詳しい由緒はこちらから

曲垣平九郎の馬術は家光公に大いに讃えられ、1日でその名が全国に轟いたことから「出世の石段」として後世に伝えられるところとなりました。また現在でも「パワースポット」として多くの参詣者を集めています。

錯綜するネット情報

ネットで「出世の石段」を検索すると「仕事運と金運を上げたいなら正面参道の出世の石段(男坂)を上って、下りる時は女坂を下れ」「出世の石段は絶対下りてはならない」「出世の石段を下ると願いが叶わない(出世しない)」とあります。

しかし、これは全く根拠がないものです。「出世の石段」をせっかく上ったのだから、下りては逆効果であろうという「イメージ」が先行した結果ではないでしょうか。どなたかが「効果がない」と言い切ってしまい、それを読まれた方が、その情報を信じて更に広めていかれたということではないかと思います。

これは他のスピリチュアル系の記事にも言えることです。

以前『京都最強のパワースポット 〜鞍馬-貴船 霊験あふれる奥の院参道を往く〜』という記事の中でも、貴船神社の正式な参拝方法は「本宮」→「奥宮」→「中宮(結社)」であると何の根拠も示さずに言い切ってしまっているスピリチュアル系記事の多さについて書きました。

「その順番で参拝しないと願いは叶わない」「これは古来から伝わる正式な参拝方法である」と断言されていましたが、その根拠となる文献や由緒は全く示されていませんでした。

貴船神社に問い合わせてみたところ「そうした三社詣りの順番や方法は、何の根拠もなく、誤ったもので、神社側では一切順番などは定めたことがない。順番を守らないと願いが叶わないといったこともない。好きな順番で、廻りやすいようにご参拝下さい。誤った由緒などが広まっていますが惑わされないようにして下さい」との回答を頂きました。

ネット上に広まっている多くのスピリチュアルやパワースポットに関する記事は、それらに造詣の深い専門家が書かれたものは少ないのが現状です。

多くは広範囲のジャンルを比較的安価で請け負うフリーランスのライターが外部の発注者から依頼を受けて短時間で情報を収集して執筆する記事が多く、基本的な知識が欠如しているケースが多々見受けられます。

つまりその場所の歴史や謂れに、そもそも個人的な関心がほとんどないか、希薄なので、いくつもの文献を当たったり取材をするわけではありません。

そのライターが情報元にするネット上の情報もまた、同じような経緯を経て書かれていますから、誤った情報は連鎖し、量産されていく傾向にあります。

神社仏閣やパワースポットとされる情報を知りたいと思う時、検索ランキングで上位にあるネット情報こそが信頼に値するものと過信してしまいますが、記事を発注する側は検索ランキングの上位に記事がアップされるようにするSEOのノウハウも豊富であり、それも仕事のひとつです。

ご旅行や、パワースポット巡りで神社仏閣へ行かれる際は、ネット情報を安易に信じられるよりも、ご自身で事前に文献などをお調べになるか、ネットは丹念に検索して多くの情報からご自身なりに選り分けてみられることが賢明です。

どうしても分からないことは、ネット情報を鵜呑みにするよりも、神社仏閣に直接お尋ねになるのが一番確実です。

○○しなければご利益はない」という書かれ方をしている言説の多くは、後世になって誰かの都合によって作られたものであることが多いと思っておいた方が良いかもしれません。

さて、その「出世の石段」ですが、曲垣平九郎の馬術譚が原型であるのに、「石段を下りてはいけない」というのは、どう考えてもおかしいですね。曲垣平九郎は馬に乗って男坂を「上って」そして「下りた」のですから

女坂

「出世の石段」は是非、「上って」そして「下りて」下さい。斜度40度もある「男坂」は上るのも、下りるのも骨が折れますが、その場合は「女坂」をご利用下さい。

また愛宕トンネルの脇(桜田通り側)へと続く西参道からも出入りが可能です。エレベーターも設置されています。

愛宕トンネル

また「出世の石段」を上り下りしないから、祭祀されていらっしゃる神様が歓迎しない、願いを聞き届けないということもありません。

ただし「出世の石段」に願いや思いを込めて、上り下りしたい、愛宕神社のご神気を十分に感じ取って帰りたいというのならば、迷わず「出世の石段」を「上って」そして「下りて」みましょう。

愛宕神社の見どころ

愛宕神社には「出世の石段」以外にも、見どころがあります。境内をぐるりと巡ってみましょう。

丹塗りの門 

まずは手水舎でお清めをして、「丹塗りの門」をくぐって本殿にご挨拶(参拝)を致します。

招き石 

丹塗りの門を抜けた左横には「招き石」があります。撫でると福が身に付くといわれます。

太郎坊社、福寿稲荷社、大黒天社

社殿と社務所の間には道開きのご利益がある「太郎坊社(ご祭神:猿田彦神)」、衣食住を司り商売繁盛、事業繁栄のご利益がある「福寿稲荷社(ご祭神:宇迦御魂神)」、縁結びや商売繁盛のご神徳を授かれる大黒天社(ご祭神:大國主命、事代主命)」が鎮座しています。

「大黒天社」は小さな社ですからご注意下さい。しゃがんで目線を合わせてご参拝を。

児盤水の滝 

その後方には池があります。この池が非常に良い「正の気」で満たされています。しばらくこの池の側に佇んでいるだけで癒され、気が漲ってくるはずです。

この池に流れ込んでいる小さな滝を「児盤水の滝」といいます。

かつてこの地に児盤水(または小判水)という霊験あらたかな名水が湧き出ていたそうです。平将門の乱の折、源経基(みなもとのつねもと)がこの児盤水で水垢離を行い愛宕様に祈願したところ、神の加護によって乱が鎮まったと伝えられています。

弁財天社 

池の右横には水の神である市杵島姫命をご祭神とする末社の「弁財天社」が鎮座しています。航海安全と商売繁盛などのご利益があります。

参拝の後に、是非立ち寄って頂きたいのは境内にある「あたご茶屋」です。

こちらの「撤饌(てっせん)うどん」は神様にお供えした供物を利用して作られています。

御供えをした食べ物を頂くことは、神様のご神気と愛宕山の空間の持つ力を身体と心に取り込むことと同じです。「撤饌」を食すことで愛宕神社の魅力を最大限に感じることになるのではないでしょうか。

愛宕神社のある愛宕山は標高25.7m、自然形成された山としては東京で最高峰。ただし、その成り立ちには謎が残されています。どうやってこの地が隆起して山となったか分かっていないのです。

以前『大地から溢れる"正のパワー" 〜心身を癒す神秘のパワースポット「二の丸庭園の井戸と魔王殿」〜』でもご紹介をしましたが、この地が太古の昔から「正のパワー」を持つ「龍穴」であった可能性もあります。そのパワーが地上に向けて放出された結果、大地を持ち上げて山となったのかもしれません。

私自身、出世の石段で不思議な体験もしました。現状を打破したい方、人生に意欲的に取り組みたいと願う方は是非、参拝に訪れてみてはいかがでしょうか。

PHOTO : 筆者
女坂、愛宕トンネルの画像のみpixtaより

久保多渓心 のプロフィール

久保多渓心

画家の父、歌人の母のもと、福岡市博多区で生まれる。

バンド活動を経て、DJ、オーガナイザーとしてアート系イベント、音楽イベントなどを多数手掛ける傍ら、フリーライターとしても活動。

音楽雑誌でのアーティスト・インタビュー記事、書籍、フリーペーパー、WEBなどの媒体で政治、社会問題から、サブカルチャー、オカルトまで幅広いジャンルでコラムを執筆。

引きこもり、不登校、心の病など自身の経験を活かし「ピアカウンセリング」を主軸にしたコミュニティを立ち上げる。後にひきこもり支援相談士として当事者やその家族のサポート、相談活動にあたる。

現在は亡き父から継承した一子相伝の墨を用いた特殊な占術『篁霊祥命』や、独自のリーディングによって鑑定活動を行っている。2021年で鑑定活動は16年目を迎える。

月参り、寺社への参拝による開運術の指導なども行う。

『AGLA(アグラ)』スーパーバイザーを務める。

2020年10月より活動名をマーク・ケイより、久保多渓心に改名。

↓こちらからマーク・ケイ先生の鑑定を受けられます!↓
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