魔除けと方除けの象徴「猿」-『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界(第三回)』

2020.7.29

  • twittertwitter
  • facebookfacebook
  • lineline

久保多渓心 ( ライター・占術家 )

墨が織り成す一子相伝の占術 “篁霊祥命(こうれいしょうめい)” を主な鑑定手法とする占術家。他にも文筆家やイベント・オーガナイザーとしての顔も持つ。また引きこもり支援相談活動なども行なっている。

『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界』の第三回。

今回の神使は「」です。

かつて日本には「厩神(うまやがみ)信仰」というものがありました。

「厩」とは馬を飼う小屋のことです。

その昔、馬は重要な労働力でした。田畑を耕すにも馬耕といわれる方法が使われていましたし、林業でも切り出した木の運搬には、馬が使われました。

それだけに馬は家族同様に、大切に扱われて来たのです。

人を守ってくださるのは神仏ですが、馬の守り神は猿だったのです。

厩の中に祠を設け、そこには猿の頭蓋骨や手の骨などが祀られました。時には猿を描いた絵馬やお札が飾られる場合も。

神厩舎の三猿(日光東照宮)

日光東照宮の有名な三猿「見ざる、言わざる、聞かざる」の彫刻が掲げられているのは、神厩舎(神馬をつなぐ小屋)といわれる厩です。実は三猿も「厩神」だったのです。

また、現代に伝わる猿を使った大道芸「猿回し」も、馬の安全を願って行われる祭礼の一種でした。

そんな猿は、いかにして神使になったのでしょうか?

 

神使「猿」

日吉大社

全国に約3800社ある日吉、日枝、山王神社の総本宮「日吉大社」の神使は「神猿(まさる)」といわれる猿です。

猿の古名は「真猿」といい、和歌では「増さる」にかけて用いられることもしばしば。この「真猿」が「魔去る」「勝る」にも通じるとして、縁起のよい魔除の象徴として扱われるようになりました。

日吉大社境内には、数多くの「神猿さん」がいます。

日吉大社・西本宮楼門 棟持猿(むなもちさる)

国指定重要文化財である西本宮楼門の軒下の四隅には、可愛い顔をした「神猿さん」が屋根を支えながら、四方を見守っています。

日吉大社・神猿舎

境内では室町時代頃より、猿が飼われていたのだとか。社務所前の「神猿舎」では現在、2匹のニホンザルが飼育されており、愛くるしい姿を見せてくれています。

日吉大社・猿の霊石

しゃがみこんでいる猿に見える「猿の霊石」。

日吉大社・神猿みくじ

日吉大社の「神猿みくじ」には金色と茶色があり、一つ一つ表情が違って見えます。目があったもの、心惹かれたもの、直感にしたがって選んでみてください。「神猿さん」は、そのまま魔除けとして神棚や、玄関に飾りましょう。

大山咋神

日吉大社と関係が深いのが、比叡山(日枝山)です。

比叡山の麓に鎮座する日吉大社のご祭神、「大山咋神(おおやまくいのかみ)」は、比叡山の地主神でもあります。

「大山咋神」は別名「山王(さんのう)」ともいい、比叡山(日枝山)の山岳信仰、神道、天台宗が融合した山王神道(後の「山王一実神道」)において、「山王権現」として信仰されて来ました。

比叡山の地主神、" 山の神 "としての「大山咋神」と、比叡山に多く生息していた" 山の主 "としての猿が、いつしか結びついて神使としての「神猿」が生まれたのです。

方除けの神使として

「大山咋神」が最澄によって、比叡山延暦寺の結界を守る守護神とされたこと、また日吉大社が平安京及び京都御所の表鬼門(北東)を守護する役割を担っていたことから、日吉大社ともども神使「神猿」は、方除け(方角、方位からの災を除けること)のご利益があるとされています。

京都御所・猿ヶ辻

京都御所・猿ヶ辻

京都御所の北東の角は、築地塀が内側に折れ曲がっています。ここで屋根裏を見上げると、烏帽子を被り、御幣を肩にかけた「神猿」がいるのが分かります。

ここは京都御所の表鬼門(北東)にあたり、この方角から侵入してくる鬼や邪霊を防ぐ目的で、築地塀に敢えて欠けを作っています。またここに方除けの神「大山咋神」の神使である「神猿」を置くことで、よりその守護を強めているのです。

猿田彦神社

天照大御神の命を受けて、天降った瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)を道案内した国津神「猿田彦(さるたひこ)」。同じ、猿の文字がつくということで「庚申(こうしん)信仰」と結びつき、猿との縁も深い「猿田彦神社」。

福岡市早良区に鎮座する「猿田彦神社」では、60日周期で訪れる「庚申(かのえさる)」の日に、博多人形の職人が、一つ一つ丹精を込めて作り上げた「猿面」が参拝者に授与されています。玄関にかけることで、災厄を除け、幸運をもたらすといわれており、周辺地域では家々にこの「猿面」が飾られている光景を目にすることができます。

筆者の自宅も「猿田彦神社」と同じ早良区にあります。毎年11月の「終庚申」に「猿面」を授与していただき、玄関に掲げています。

筆者自宅を護る猿面

日枝神社

東京都千代田区永田町に鎮座する「日枝神社」は、文明10年(1478年)、江戸城を築いた名将である太田道灌が、江戸鎮護の神として川越山王社を勧請したのが始まりです。

山王権現を所縁とする、ここ「日枝神社」にも猿の神像があり、参拝者から親しまれています。

日枝神社の神猿像(オス)

社殿の右側には、烏帽子をかぶった凛々しいオスの神猿さんが。

夫婦円満、家内安全のご利益があります。

日枝神社の神猿像(メス)

社殿左には、頭巾をかぶって愛らしい子供を抱いたメスの神猿さん。

こちらは、子宝や安産のご利益があります。

 

【神社】
日吉大社(滋賀県大津市)
日枝神社(東京都千代田区)
猿丸神社(京都府綴喜郡)
全国の日吉、日枝、山王、猿田彦神社

 

参考文献

『神道辞典』国学院大学日本文化研究所(編)弘文堂
『神社のどうぶつ図鑑』茂木貞純(監修)二見書房
『神様になった動物たち』戸部民生(著)だいわ文庫
『東京周辺 神社仏閣どうぶつ案内 神使・眷属・ゆかりのいきものを巡る』川野明正(著)メイツ出版
『京都・異界をたずねて』蔵田敏明(著)角野康夫(写)淡交社
牛馬の守護神 厩猿信仰』牛の博物館

久保多渓心 のプロフィール

久保多渓心

画家の父、歌人の母のもと、福岡市博多区で生まれる。

バンド活動を経て、DJ、オーガナイザーとしてアート系イベント、音楽イベントなどを多数手掛ける傍ら、フリーライターとしても活動。

音楽雑誌でのアーティスト・インタビュー記事、書籍、フリーペーパー、WEBなどの媒体で政治、社会問題から、サブカルチャー、オカルトまで幅広いジャンルでコラムを執筆。

引きこもり、不登校、心の病など自身の経験を活かし「ピアカウンセリング」を主軸にしたコミュニティを立ち上げる。後にひきこもり支援相談士として当事者やその家族のサポート、相談活動にあたる。

現在は亡き父から継承した一子相伝の墨を用いた特殊な占術『篁霊祥命』や、独自のリーディングによって鑑定活動を行っている。2021年で鑑定活動は16年目を迎える。

月参り、寺社への参拝による開運術の指導なども行う。

『AGLA(アグラ)』スーパーバイザーを務める。

2020年10月より活動名をマーク・ケイより、久保多渓心に改名。

↓こちらからマーク・ケイ先生の鑑定を受けられます!↓
うらなってMe

おすすめ関連記事

2020 04/15

小川の少女 〜 心に灯火をくれた、不思議な少女との出会い 〜 或るひと夏の記憶

2021 06/21

【"月参り"で人生は変化する!】〜 参拝の効果を感じられない時に覚えておきたいこと 〜「鳥居之祓」を唱えて神様に自分の存在を認識していただく

2019 10/31

北野天満宮と狛犬の起源〜古代オリエントから日本へ渡った神獣〜