2020.8.10
吉兆の到来をあらわす、八幡神の使い「鳩」-『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界(第五回)』


神使「鳩」
「鳩」は平和のシンボルとされています。
これは『旧約聖書』の中の「創世記」6〜9章の、ノアの方舟の物語に由来するものです。
人々の堕落を嘆いて、神は洪水を起こし、地上のありとあらゆるものを滅ぼします。
洪水の水がひいた47日後、ノアは一羽の鳩を放すとオリーブの若葉をくわえて方舟に戻って来ました。そこで、神罰である洪水が終わり、平和が到来したことを知るのです。
そんな平和のシンボル「鳩」ですが、その動き、鳴き声、見た目などが苦手な、いわゆる「鳩恐怖症」という病も存在します。
平和のシンボルとされ、時に恐れの対象ともなる「鳩」。
神道では神の使いとされ、吉兆到来のしるし、霊瑞をあらわす存在でもあります。
今回は、そんな神使「鳩」のお話です。
源氏と霊鳩
鳩は、全国の八幡大神を祀る「八幡宮」の神使です。
八幡宮の主神である八幡大神は、源氏の氏神であり武神として知られます。
また、その神使である鳩も、源氏と深い関わりがあります。
陸奥守であり、河内源氏の二代目棟梁だった源頼義(988-1075年)が、奥六郡を支配する安倍氏との間で争った「前九年の役」のこと。
『陸奥話記』(『八幡大神 鎮護国家の聖地と守護神の謎』田中恆清(監修)より)

『平家物語』巻七「願書」(『八幡大神 鎮護国家の聖地と守護神の謎』田中恆清(監修)より)
『吾妻鏡』(『八幡大神 鎮護国家の聖地と守護神の謎』田中恆清(監修)より)
現れた鳩は、直接的に敵軍に対して霊威を発揮するわけではありません。
鳩が八幡大神の神使となった由来

宇佐八幡宮・祓所(大分県宇佐市)
貞観元年(859年)、奈良・大安寺の僧侶である行教和尚は、「宇佐八幡宮」にこもった際に八幡大神から「吾れ都近き男山の峯に移座して国家を鎮護せん」との託宣を蒙ります。
京都の男山は、都の裏鬼門(南西)に位置し、表鬼門(北東)にある比叡山延暦寺とともに、国家鎮護の要所としても重要な地でした。
この託宣により男山山頂の地に、宇佐八幡宮より八幡大神が勧請され「石清水八幡宮」が創建されます。この遷座の折に、船の帆柱の上に金色の鳩が現れたことが由来だとされています。
他にも、鳩が向き合うと八の字になる、「八幡(やはた)」の「はた」が「鳩」へと変化したなどの説もあります。
石清水八幡宮

石清水八幡宮・楼門(京都府八幡市)
「石清水八幡宮」の境内では、八幡大神の神使である鳩を随所で見ることが出来ます。
八幡造の本殿正面の楼門には、向き合う一対の鳩の錺金具(かざりかなぐ)があります。よく見ると右側の鳩はかすかに口を開けていますが、左側の鳩は口を閉じているのが分かります。そう、この鳩は狛犬同様、阿形、吽形の鳩なのです。

石清水八幡宮・一ノ鳥居(京都府八幡市)
表参道の入口には、寛永13年(1636年)に建てられた一ノ鳥居があります。
この一ノ鳥居の扁額、「八幡宮」の「八」の字を見ると、こちらも一対の向き合った鳩が。ただし、楼門の鳩と違って、向き合ってはいるものの、顔だけは互いに外を向いています。
石清水八幡宮では、鳩をあしらったおみくじや、お守りなどバリエーション豊かな授与品が人気となっています。
鳩森八幡神社

鳩森八幡神社(東京都渋谷区)
東京都渋谷区に鎮座する「鳩森(はとのもり)八幡神社」は、千駄ヶ谷一帯の総鎮守として崇敬を集めて来た神社です。
こちらの神社にも、鳩の不思議な霊験譚があり、それが創建の由緒になっています。
『江戸名所図会(江戸後期に刊行された地誌)』によると、この地にはめでたいことが起こる前兆を示す瑞雲(ずいうん)がたびたび現れることがあったそうです。
ある日、晴天の空の下に突然、白雲が降りて来ました。不思議に思った村人たちが森の中に入って行くと、数多くの白鳩が飛び去るのが見えました。
この霊瑞(不思議で、めでたいしるしのこと)により、村人たちはこの森に神様が宿る小さな祠を建て、ここを「鳩森(はとのもり)」の名付けたのです。
神社の鳩たち

日牟禮八幡宮(滋賀県近江八幡市)

靖国神社・鳩魂塔(東京都千代田区)

三宅八幡宮・鳩みくじ(京都市左京区)

鳩森八幡神社・鳩みくじ(東京都渋谷区)
【神社】
宇佐神宮
石清水八幡宮
鶴岡八幡宮
鳩森八幡神社
など全国の八幡社
靖国神社
参考文献
『神道辞典』国学院大学日本文化研究所(編)弘文堂
『神社のどうぶつ図鑑』茂木貞純(監修)二見書房
『神様になった動物たち』戸部民生(著)だいわ文庫
『東京周辺 神社仏閣どうぶつ案内 神使・眷属・ゆかりのいきものを巡る』川野明正(著)メイツ出版
『八幡大神 鎮護国家の聖地と守護神の謎』田中恆清(監修)戎光祥出版
久保多渓心 のプロフィール

画家の父、歌人の母のもと、福岡市博多区で生まれる。
バンド活動を経て、DJ、オーガナイザーとしてアート系イベント、音楽イベントなどを多数手掛ける傍ら、フリーライターとしても活動。
音楽雑誌でのアーティスト・インタビュー記事、書籍、フリーペーパー、WEBなどの媒体で政治、社会問題から、サブカルチャー、オカルトまで幅広いジャンルでコラムを執筆。
引きこもり、不登校、心の病など自身の経験を活かし「ピアカウンセリング」を主軸にしたコミュニティを立ち上げる。後にひきこもり支援相談士として当事者やその家族のサポート、相談活動にあたる。
現在は亡き父から継承した一子相伝の墨を用いた特殊な占術『篁霊祥命』や、独自のリーディングによって鑑定活動を行っている。2021年で鑑定活動は16年目を迎える。
月参り、寺社への参拝による開運術の指導なども行う。
『AGLA(アグラ)』スーパーバイザーを務める。
2020年10月より活動名をマーク・ケイより、久保多渓心に改名。