善と悪の顔をもつ異界からの使者「鬼」〜 前編 〜『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界(第二十七回)』

2020.12.4

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久保多渓心 ( ライター・占術家 )

墨が織り成す一子相伝の占術 “篁霊祥命(こうれいしょうめい)” を主な鑑定手法とする占術家。他にも文筆家やイベント・オーガナイザーとしての顔も持つ。また引きこもり支援相談活動なども行なっている。

神使「鬼」

今回の神使は「鬼」。

動物というわけではありませんが、ここでは神仏に仕え、また時には神としても祀られる霊的な存在(特殊な生き物)として鬼を取り上げてみたいと思います。

鬼といえば、今年の10月に封切られた『無限列車編』が記録的なヒットとなっている『鬼滅の刃』を思い出される方が多いのではないでしょうか。

なんでも興行収入は300億円を突破し、「タイタニック」を抜いて歴代2位に。1位の「千と千尋の神隠し」の308億円を抜くのも時間の問題といわれています。

『鬼滅の刃』は、家族を斬殺された主人公の竈門炭治郎が、唯一生き残ったものの鬼に変えられてしまった妹を人間に戻すために、鬼との戦いに身を投じていく物語です。

では、伝承に残る神仏と関わりのある鬼には、如何なる物語があるのでしょうか。

 

「鬼」の起源

『百鬼夜行絵巻(部分)』大徳寺 真珠庵所蔵

鬼といえば、頭に角を生やしていて(時に2本であったり、1本であったり)、口元からは鋭い牙が見え隠れし、手には金棒を持ち、虎の皮の腰布を巻いている、そんなイメージが真っ先に浮かびます。

このようなイメージは、京の大路を練り歩く妖怪たちを描いた室町時代の『百鬼夜行絵巻』などが原型となっています。

中でも最も古く代表的な作例である京都・大徳寺塔頭「真珠庵」蔵の土佐行秀の筆による絵巻では、赤い肌に尖った針のような髪の毛をした鬼の姿が描かれています。

『大江山絵詞』逸翁美術館所蔵

また同じく、京都の大江山に住む酒呑童子(しゅてんどうじ)と呼ばれる鬼を源頼光と家来の四天王が退治する物語を描いた『大江山絵詞(『大江山酒天童子絵巻』)』、狩野元信(狩野派二代目)の筆によるサントリー美術館蔵の『酒伝童子絵巻』(*こちらは伊吹山が舞台となっています)では、恐ろしげな鬼の姿が描かれています。

どちらも室町時代の作であるため、現在私たちが知っている鬼の姿が成立・定着したのは、この頃と見て良いでしょう。

 

古文献の中の「鬼」

鬼の外見が定まったのは室町時代頃ですが、それ以前から鬼の存在は知られていました。

鬼が文献に初めて登場するのは『日本書紀』です。

『巻第十九』欽明天皇5年(544年)12月の出来事として以下のような記述があります。

越國言「於佐渡嶋北御名部之碕岸有肅愼人、乘一船舶而淹留、春夏捕魚充食。彼嶋之人言非人也、亦言魅不敢近之。嶋東禹武邑人、採拾椎子爲欲熟喫、着灰裏炮、其皮甲化成二人飛騰火上一尺餘許、經時相鬪。邑人深以爲異取置於庭、亦如前飛相鬪不已。有人占云是邑人必爲魅所迷惑、不久如言被其抄掠。於是、肅愼人移就瀬波河浦。浦神嚴忌、人不敢近、渇飲其水死者且半。骨、積於巖岫、俗呼肅愼隈也。」
【現代語訳(wikipediaより)】

越(こし、今の北陸地方)の国からの報告によれば、佐渡島の北の御名部(みなべ)の海岸に粛慎人がおり、船に乗ってきて留まっている。春夏は魚をとって食料にしている。かの島の人は人間ではないと言っている。またであるとも言って、(島民は)敢えてこれ(粛慎人)に近づかない。

島の東の禹武(うむ)という村の人が椎の実を拾って、これを煮て食べようと思った。灰の中に入れて炒った。その皮が変化して2人の人間になり、火の上を一尺ばかり飛び上がった。時を経て相戦った。村の人はいぶかしく思い、庭に置いた。するとまた前のように飛んで相戦うのをやめない。ある人が占って「この村の人はきっとに惑わされよう。」と言った。それほど時間のたたないうちに、(占いで)言ったように、物が掠め取られた。

https://ja.wikipedia.org/wiki/粛慎_(日本)
ここでいう「粛慎人(みしはせひと)」とは、かつて日本の北部に住んでいた北方民族(オホーツク海沿岸や樺太などに住む民族)を指しますが、このように海を渡ってやって来た渡来人や異民族の人々を鬼と表現していたのかもしれません。

秋田のナマハゲ

次に鬼の記述が見られるのは『第廿六』斉明天皇7年(661年)の出来事。
六月、伊勢王薨。秋七月甲午朔丁巳、天皇崩于朝倉宮。八月甲子朔、皇太子奉徙天皇喪、還至磐瀬宮。是夕於朝倉山上有、着大笠臨視喪儀、衆皆嗟怪。冬十月癸亥朔己巳、天皇之喪歸就于海。於是、皇太子泊於一所哀慕天皇、乃口號曰、
ここには、斉明天皇が朝倉宮で崩御した際、その葬儀を執り行っていたところを大笠を着た鬼がのぞき見ており、参列していた衆人がその奇怪な光景を目撃したと書かれています。
田舎の道端などで見かけるお地蔵様に笠や蓑が着せられていることがあります。これは、お地蔵様が風雨にさらされるのがしのびない、可哀想だからという地域住民の信仰心や、慈愛の心によるものでもあるのですが、それ以外に "穢れを避ける物忌みの衣" という意味も含まれます。
また、笠や蓑は異界からやって来る来訪神(1年に1度決まった時期にだけ異界から訪れる神のこと)のユニフォームのようなもの。秋田のナマハゲ、甑島のトシドシ、佐賀のカセドリなどは、笠や蓑を着ています。異界から長い旅の果てにやって来て、集落や家々を周って福を授け、災厄を祓う民族信仰は、古来より今に続きます。
斉明天皇の葬儀の場に現れた鬼も、そんな来訪神の1人だったのかもしれません。

天平5年(733年)に編纂された『出雲国風土記』の大原郡阿用郷の条には、一つ目の人食い鬼が登場します。

その昔、阿用郷といわれるところに目一鬼(まひとつおに)が現れ、村の男を襲って食べました。男の父と母は竹藪に身を潜めて、息子が食われているのを見ていました。男は食われながら、竹の葉が微かに動いていることに気づき、両親に見捨てられていると悟って「あよ、あよ」と泣いたといいます。

それが「阿欲(阿用)」という地名の由来となったのです。

「餓鬼草子」作者不明, Public domain

また、平安時代以降に広まった「六道絵」といわれる地獄絵図に描かれた、罪人の亡者を苦しめる役鬼(えんき)と呼ばれる鬼たちの姿も、多くの人々がもつ鬼のイメージ形成に一役買っているでしょう。

 

「鬼」の語源

平安時代中期の辞書『和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』によると、鬼の語源は「隠(おん・おぬ)」が訛ったものであるとされています。

鬼は、「見えない存在」「普段は隠れて姿を現さない存在」なので俗に「隠」といい、これが「鬼」へ転化していったものと考えられます。

中国などでは鬼といえば、「死者の魂」を意味します。その中でも、成仏できずに現世に残っている魂を鬼と呼んでいます。このことから台湾では心霊スポットのことを「鬼屋」といいます。

他にも、生きている人を「陽」、亡くなった人を「陰」とし、「陰」が転化したものとする説や、神を守護し使える精霊「大人(おおひと)」が由来であるとする説などもあります。

また、鬼という字を「おに」と読み始めたのは平安時代以降からで、それ以前は「もの」「かみ」「しこ」と読んでいました。古史古伝として有名な『九鬼(くかみ)文書』も、鬼を「かみ」と読みます。

 

「鬼」についてお話をすると、大変長くなってしまいます。今回を前編とさせていただき、次回も引き続き各社寺ゆかりの鬼についてなどお話ししたいと思います。

次回も、是非お楽しみに。

 

【「鬼」所縁の神社仏閣】
鬼神社(青森県弘前市)
真山神社(秋田県男鹿市)
鬼鎮神社(埼玉県嵐山町)
八幡宮(青森県弘前市)
稲荷鬼王神社(東京都新宿区)
鬼神社(福岡県豊前市)
鬼神社(大分県大分市)
東霧島神社(宮崎県都城市)
酒呑童子神社(新潟県燕市)

 

参考文献

『神道辞典』国学院大学日本文化研究所(編)弘文堂
『神社のどうぶつ図鑑』茂木貞純(監修)二見書房
『神様になった動物たち』戸部民生(著)だいわ文庫
『東京周辺 神社仏閣どうぶつ案内 神使・眷属・ゆかりのいきものを巡る』川野明正(著)メイツ出版『災厄をはらい、生きる力を授ける来訪神 : 古代より日本各地に伝わる民俗伝承』(WEB
『サントリー美術館・酒伝童子絵巻』(WEB

久保多渓心 のプロフィール

久保多渓心

画家の父、歌人の母のもと、福岡市博多区で生まれる。

バンド活動を経て、DJ、オーガナイザーとしてアート系イベント、音楽イベントなどを多数手掛ける傍ら、フリーライターとしても活動。

音楽雑誌でのアーティスト・インタビュー記事、書籍、フリーペーパー、WEBなどの媒体で政治、社会問題から、サブカルチャー、オカルトまで幅広いジャンルでコラムを執筆。

引きこもり、不登校、心の病など自身の経験を活かし「ピアカウンセリング」を主軸にしたコミュニティを立ち上げる。後にひきこもり支援相談士として当事者やその家族のサポート、相談活動にあたる。

現在は亡き父から継承した一子相伝の墨を用いた特殊な占術『篁霊祥命』や、独自のリーディングによって鑑定活動を行っている。2021年で鑑定活動は16年目を迎える。

月参り、寺社への参拝による開運術の指導なども行う。

『AGLA(アグラ)』スーパーバイザーを務める。

2020年10月より活動名をマーク・ケイより、久保多渓心に改名。

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うらなってMe

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