開運招福をもたらす、蚕神の使い「猫」『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界(第三十六回)』

2021.2.20

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久保多渓心 ( ライター・占術家 )

墨が織り成す一子相伝の占術 “篁霊祥命(こうれいしょうめい)” を主な鑑定手法とする占術家。他にも文筆家やイベント・オーガナイザーとしての顔も持つ。また引きこもり支援相談活動なども行なっている。

「神使」「眷属」とは、神の意思(神意)を人々に伝える存在であり、本殿に恭しく祀られるご祭神に成り代わって、直接的に崇敬者、参拝者とコミュニケーションを取り、守護する存在。

またの名を「使わしめ」ともいいます。

『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界』では、神の使いとしての動物だけでなく、神社仏閣に深い関わりのある動物や、架空の生物までをご紹介します。

動物を通して、神社仏閣の新たなる魅力に気付き、参拝時の楽しみとしていただけたら幸いです。

 

神使「猫」

猫の生物としての不思議さ、魅力などについては以前のコラムでも2回にわたってお届けしましたので、今回は各寺社に所縁の猫などをご紹介してまいりましょう。

 

今戸神社

東京都台東区、浅草寺からほど近い場所に鎮座するのが「今戸神社」。こちらは「招き猫」発祥の地といわれている神社です。

江戸時代の地誌である武江年表』には、このような記述があるそうです。

今戸神社近くの花川戸に住んでいた老婆が、貧しさから愛猫を満足に育てることが出来ずに、泣く泣く手放すことになってしまいました。

ある日のこと、愛猫が夢枕に立ち「自分の姿を人形にしたら福徳を授かる」と言ったので、愛猫の姿をかたどった今戸焼の人形を作って売ったところ、大変評判になり、財を成したといいます。

これが現在まで伝わる「招き猫」のルーツです。

*現在の「浅草神社」が発祥とする説など諸説あり

招き猫の絵馬

境内には至るところに、招き猫や、猫をモチーフとした像や置物が置かれています。

ご祭神が、伊弉諾尊(イザナギノミコト)、伊弉冉尊(イザナミノミコト)の夫婦神であることから、縁結び、良縁のご利益があるとされ、女性の参拝者で賑わっています。

良縁を願う多くの参拝者の声により、縁結び会が発足。定期的に会が開かれており、現在までに登録者は8000人を超え、数多くのカップルが誕生し、ご結婚された方も多いとか。

今戸神社には「ナミちゃん」と呼ばれる白猫が住み着いています。
ただ、滅多に人前に現れることはなく、現れてもすぐに走り去ってしまうことが多いのです。現れる時間帯もまちまちで、神社の職員でさえいつ現れるか分からないのだそう。

撮影:筆者

このナミちゃんに運良く出会えたら、良縁や金運に恵まれるのだとか。また、ナミちゃんの画像を待ち受けしてもご利益があるとの噂も・・・

私は何故か参拝の度に、そんなレアなナミちゃんを独り占め。

どうぞ、待ち受けにしてみて下さい。ご利益があるかも!?

撮影:筆者

撮影:筆者

猫返し神社

猫絵馬

東京都立川市の「阿豆佐味天神社 立川水天宮」の境内社「蚕影(こかげ)神社」は、"猫返し神社"として有名です。

蚕影神社の名の通り、蚕神を祀った神社です。蚕の天敵は、ネズミ。そのネズミの天敵が猫ということで、猫は蚕神を祀った神社の神使なのです。

ここ、蚕影神社が「猫返し神社」といわれるようになったのは、猫が神使だからというだけではありません。

ジャズピアニストの山下洋輔さんが、行方不明になった愛猫が無事に戻ってくることを蚕影神社に参拝して願ったところ、ほどなくして愛猫が帰ってきたことが、その由来。

以来、「猫返し神社」として愛猫家の崇敬を集めています。

「猫絵馬」に願いを書き、「ただいま猫」の像を撫でると、いなくなった猫が無事に戻って来たという報告が多数寄せられているとか。また、愛猫の健康と長寿を祈るために全国から参拝に訪れる方もいらっしゃるそうです。

私も飼っていた猫がいなくなったことがあります。1度目は10キロ以上離れた引越し先に奇跡的に戻って来ましたが、2度目にいなくなった時はもう、戻っては来ませんでした。

我が子のように愛する猫が突然いなくなるのは飼い主にとっては、非常に辛いことです。そうした飼い主の気持ちに寄り添ってくれる蚕影神社の神様。

愛猫家の皆様は、是非一度訪れてみてはいかがでしょうか。

絵馬は郵送での授与も受け付けていらっしゃるそうです。

山下洋輔さんの愛猫をモデルにした「ただいま猫」

招福猫

様々な大きさの招福猫

「住吉大社」の末社である「楠珺社(なんくんしゃ)」は、「初辰まいり」の中心的な神社です。初辰とは毎月最初の辰の日のことで、この日に参拝すれば、より強い加護を受けられるとされます。

4年を一区切りとして、48回参拝すれば満願成就。これは「四十八辰=始終発達」を意味しています。

この初辰まいり(月参り)の際に、奇数月は左手を挙げた招福猫(人招き)を、偶数月は右手を挙げた招福猫(お金招き)を授与していただき、48体の招福猫が揃ったところで、これを奉納すると中猫と交換することが出来ます。

これをさらに集めていき、大猫を授かるまで24年かかります。

月参りを続けて行くことは大変なことですが、それを続けていられるということそのものが幸せの証。また続けよう、続けたいと思う気持ちが、神様や見えない存在に対しての畏敬の念と、自分の人生に対して真摯に向き合っている証でもあります。

何事も、信じて一心に続ける純粋さが、幸せを呼び込むのですね。

招福猫

豪徳寺

奉納された「招福猫児」

東京都世田谷区にある「豪徳寺」。かつては「弘徳寺」と呼ばれ、武蔵吉良氏と所縁の深い寺院として栄えましたが、戦国時代に吉良義昭が家康に降伏すると、寺運が一気に傾いてしまいます。

和尚は愛猫のタマに「お前がこの寺に果報をもたらしてくれたら・・・」と毎日のように語りかける有様。それくらいの窮状だったようです。

そんなある日、新しく世田谷領主となった井伊直孝が、弘徳寺の前を偶然通りかかると、山門の前にいたタマが手を挙げて直孝に「おいで、おいで」と手招きをしています。

直孝一行は、タマに導かれるように山門から境内に入りました。するとその時、雷鳴が轟きます!直孝が立っていた山門の前に雷が落ちたのです。

タマのおかげで九死に一生を得た直孝はこれに大変感謝し、井伊家の菩提寺として弘徳寺の伽藍を整備、寺号は直孝の戒名からとって「豪徳寺」と名付けられました。

豪徳寺では「招福猫児(まねぎねこ)」といわれる大小様々な招き猫が授与されます。招猫殿に祀られた招福観世音菩薩に願掛けをし、願いが叶うと招福猫児を奉納します。招猫殿にはたくさんの招福猫児が奉納されています。

絵馬

 

猫の脳が25%縮小?

英国王立協会が発行する科学ジャーナル『Royal Society Open Science』1月26日号によると、現代の家で飼われている猫の頭蓋骨と脳は、イエネコの起源であるリビアヤマネコ、ヨーロッパヤマネコと比べて、この1万年ほどの間に25%も縮小していることが分かったそう。

これは人の住環境や、生活ペースに合わせて猫を飼い慣らすことを優先した過程において、猫の脳の発達に意図せず大きな影響を与えたためだと思われます。

脊椎動物の神経系の発達に重要な役割を果たす神経堤細胞(しんけいていさいぼう)の移動と増殖に、ダウンレギュレーション(下方制御)を引き起こし、猫から「興奮」と「恐怖」を奪ってしまったからだと考えられます。

頭蓋容積の大幅な変容は、ヒツジ、ウサギ、犬など、多くの家畜化されている動物にも同様に見受けられています。

人の暮らしに密接に関わり、飼い主の心を癒し慰めてくれる猫。

人の営みに適応させ続けたことが、その種の進化の過程に大きな影響を与えてしまっている事実には複雑な思いが去来します。

イエネコのほとんどが、高齢になると腎臓病を発症します。

東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センターの宮崎徹教授は、人間の血液中に高濃度で含まれるタンパク質、AIM(マクロファージ)が犬や猫にはない(機能していない)ことに着目。

AIMを投与することで、猫は30年生きれるようになることを確信し、治療薬の研究に励まれています。

猫が生きる上でのストレスが排除され、長寿化が進むことは飼い主にとっては大変喜ばしいことではありますが、一方ではこのような遺伝的ダウンレギュレーションも引き起こしているという事実は、頭の片隅に置いておかなければならないでしょう。

人にとって、と同時に、猫にとって、動物にとって「何が幸せか」を追求する眼差しだけは忘れたくないものです。

 

 

【猫に所縁ある寺社】
今戸神社(東京都台東区)
阿豆佐味天神社 立川水天宮・蚕影神社(東京都立川市)
豪徳寺(東京都世田谷区)
檀王法林寺(京都市左京区)
四天王寺(大阪市天王寺区)
増上寺(東京都港区)
美喜井稲荷神社(東京都港区)
八海山尊神社(新潟県南魚沼市)
猫神社(宮城県石巻市)
猫神社(高知県須崎市)

 

参考文献

『神道辞典』国学院大学日本文化研究所(編)弘文堂
『神社のどうぶつ図鑑』茂木貞純(監修)二見書房
『お寺のどうぶつ図鑑』今井浄圓(監修)二見書房
『神様になった動物たち』戸部民生(著)だいわ文庫
『神使になった動物たち - 神使像図鑑』福田博通(著)新協出版社
『Cat brains and replication studies』Royal Society Open Science(

久保多渓心 のプロフィール

久保多渓心

画家の父、歌人の母のもと、福岡市博多区で生まれる。

バンド活動を経て、DJ、オーガナイザーとしてアート系イベント、音楽イベントなどを多数手掛ける傍ら、フリーライターとしても活動。

音楽雑誌でのアーティスト・インタビュー記事、書籍、フリーペーパー、WEBなどの媒体で政治、社会問題から、サブカルチャー、オカルトまで幅広いジャンルでコラムを執筆。

引きこもり、不登校、心の病など自身の経験を活かし「ピアカウンセリング」を主軸にしたコミュニティを立ち上げる。後にひきこもり支援相談士として当事者やその家族のサポート、相談活動にあたる。

現在は亡き父から継承した一子相伝の墨を用いた特殊な占術『篁霊祥命』や、独自のリーディングによって鑑定活動を行っている。2021年で鑑定活動は16年目を迎える。

月参り、寺社への参拝による開運術の指導なども行う。

『AGLA(アグラ)』スーパーバイザーを務める。

2020年10月より活動名をマーク・ケイより、久保多渓心に改名。

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