毒を制し、雨を降らせる、釈迦如来の化身「孔雀」『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界(第三十七回)』

2021.2.23

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久保多渓心 ( ライター・占術家 )

墨が織り成す一子相伝の占術 “篁霊祥命(こうれいしょうめい)” を主な鑑定手法とする占術家。他にも文筆家やイベント・オーガナイザーとしての顔も持つ。また引きこもり支援相談活動なども行なっている。

神使「孔雀」

インドクジャク

日本に最初に孔雀がやって来たのは推古天皇6年(598年)8月。新羅から天皇への貢物として贈られたことが『日本書紀』に記されています。

以来、6世紀から12世紀の間に数多くの孔雀が、鸚鵡(おうむ)などとともに日本に持ち込まれました。

インドシナマクジャク Frankyboy5, CC BY 3.0

アジア地域には「インドクジャク」と「マクジャク」の2種が生息しており、日本の動物園などで多く見られるのは頭部や頸部が濃い青色をしたインドクジャクです。古代、中国から渡って来たのは頸部が濃い緑色をした後者のマクジャクだといわれます。

孔雀は、サソリやコブラなどがもつ猛毒(神経毒)に対しての耐性があり、捕食さえします。こうしたことから益鳥、霊鳥として崇拝の対象となってきた歴史があります。

人間が最も恐れる毒を制するその力は、古代の人々にとっては人智を超えたものと考えられたのでしょう。

マハーマーユーリー

孔雀への信仰心から、「女神マハーマーユーリー(偉大なる孔雀)」が生まれ、それが密教に取り入れられると「孔雀明王(摩訶摩瑜利)」となりました。

孔雀明王は密教において、釈迦の化身とされ、人々に密教の教えを伝授し、導く際に孔雀明王の姿となって現れるといわれます。

修験道の開祖「役小角(えんのおづぬ)」は、孔雀明王の真言をひたすら唱え続けることで、"五色の雲に乗って" 空中を飛翔することができ、鬼神を自在に使役できたと『今昔物語・巻第十一』に記されています。

【孔雀明王の真言】

オン・マユ・ラ・キランデイ・ソワカ

孔雀明王の真言(マントラ)を唱えると、一切の災厄を祓い、若返り、延命、病魔退散の効果があるとされています。3回、7回など奇数回唱えましょう。


平安時代初期の真言宗の僧侶である恵運は、入唐八家(空海、最澄など唐代の中国に渡って、日本に密教の真髄をもたらした8人の僧)の1人として知られます。

恵運は入唐後、承和14年(847年)に帰朝した際に孔雀、鸚鵡(おうむ)、狗(いぬ)を天皇への献上品として持ち帰っています。

この時代に孔雀が海商や僧侶らの手によって日本に数多く持ち込まれたのは、孔雀明王を本尊とする、無病息災、請雨祈願、邪気退散の密教修法「孔雀経法」を修する際に、孔雀の尾羽根を必要としたことも関係していたのではないかと思われます。

京都の仁和寺には北宋時代(11世紀)作の孔雀明王像が伝わっており、唐から送られてきた孔雀もこの仁和寺へ移送されています。

「孔雀経法は広沢無双の大秘法なり」といわれる秘法中の秘法である孔雀経法は、仁和寺の歴代門主、門跡(皇室・公家出身の僧)が独占的に修することのできる鎮護国家の大法とされていました。

「孔雀明王像」Tokyo National Museum, Public domain

【装飾としての孔雀】

中尊寺・金色堂:https://www.chusonji.or.jp/know/konjikido.html
*藤原清衡公などの亡骸が収められた須弥壇(しゅみだん)の装飾に孔雀があしらわれています。

中山寺:https://www.nakayamadera.or.jp/about/dotogaran/hondo.html
*本堂の色鮮やかな装飾には、龍や鳳凰などとともに孔雀が描かれています。

【孔雀に所縁ある寺院】
高野山・金剛峯寺(和歌山県伊都郡)
中尊寺(岩手県西磐井郡)
西本願寺(京都市下京区)
中山寺(兵庫県宝塚市)

参考文献

『神道辞典』国学院大学日本文化研究所(編)弘文堂
『神社のどうぶつ図鑑』茂木貞純(監修)二見書房
『お寺のどうぶつ図鑑』今井浄圓(監修)二見書房
『神様になった動物たち』戸部民生(著)だいわ文庫
『神使になった動物たち - 神使像図鑑』福田博通(著)新協出版社

久保多渓心 のプロフィール

久保多渓心

画家の父、歌人の母のもと、福岡市博多区で生まれる。

バンド活動を経て、DJ、オーガナイザーとしてアート系イベント、音楽イベントなどを多数手掛ける傍ら、フリーライターとしても活動。

音楽雑誌でのアーティスト・インタビュー記事、書籍、フリーペーパー、WEBなどの媒体で政治、社会問題から、サブカルチャー、オカルトまで幅広いジャンルでコラムを執筆。

引きこもり、不登校、心の病など自身の経験を活かし「ピアカウンセリング」を主軸にしたコミュニティを立ち上げる。後にひきこもり支援相談士として当事者やその家族のサポート、相談活動にあたる。

現在は亡き父から継承した一子相伝の墨を用いた特殊な占術『篁霊祥命』や、独自のリーディングによって鑑定活動を行っている。2021年で鑑定活動は16年目を迎える。

月参り、寺社への参拝による開運術の指導なども行う。

『AGLA(アグラ)』スーパーバイザーを務める。

2020年10月より活動名をマーク・ケイより、久保多渓心に改名。

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